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このページは、パトリシア・A・マキリップの本の感想のページです。

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「茨文字の魔法」創元推理文庫(2009年1月読了)★★★★★お気に入り

ネペンテスは王立図書館で拾われて育てられた孤児。図書館で書記として書物の翻訳をしており、今もレイン十二邦のバーナム候と共に王国にやって来たクロイソス師が持ち込んだ魚のような文字の書かれた本を読み解く仕事を請け負ったところ。まだ16歳に過ぎないネペンテスですが、珍しい文字を読み解く勘が備わっているのです。そんなある日、ネペンテスは同僚のオリエルが空の学院に本を貰いに行くのに付き合うことになります。空の学院は馬で平原を通り抜けた先の謎めいた森にあり、そこではどんなことでも起こり得ると言われ、オリエルは1人で行くのをとても怖がっていたのです。怯えてしまったオリエルに代わって、シールのボーンと名乗る若者から本を受け取るネペンテス。その本には茨のような文字が書かれており、ネペンテスは一目見て本に心を奪われてしまいます。そして本を司書には渡さずに、自分1人で訳し始めることに。(「ALPHABET OF THORN」原島文世訳)

図書館が舞台で茨文字という不思議な文字で書かれた書物が出てくる、というだけでとても楽しみにしていたマキリップの新作。マキリップ会心の一作を読んだのは「影のオンブリア」以来でしょうか。それほど魅惑的な物語でした。レイン王国とその王国に従う12の邦、王宮の地下に深く広がる図書館、謎めいた森、魔術師たちの空の学院、そしていつか国に危機が訪れた時に目覚めるというレイン王国初代の王の眠る海辺の洞窟。それだけでも読みたくなるには十分なのに、その世界の物語の中心となっているのは、茨のような文字で書かれた書物なのです。茨のように互いに巻きついてもつれ合い、鋭い棘で結び付けられている文字は、一目見た時からネペンテスに絡みつきます。その書物に書かれているのは、伝説の王アクシスと彼に影のようにつき従った魔法使い・ケインの物語。ネペンテスが読み進めるにつれてアクシスとケインの古代エベンの物語が蘇り、その物語が現実のレイン王国の物語に重なり合って重層的に響き始めます。レイン王国では、若き女王・テッサラが即位したばかり。魔術師のヴィヴェイやその伴侶である元司令官のガーヴィンたちが女王を守り、盛りたてていこうとしているのですが、十二の邦がいつ反乱を起こしてもおかしくない状態。十二邦の外にも敵がいるのかもしれないのです。敵が特定できないでいるうちに、レイン王国の危機の際に目覚めるという初代の王が目覚め、緊迫感もたっぷり。その警告の言葉は「茨に気をつけよ」というもの。
マキリップの描く世界は、すっきりと綺麗に整理整頓された世界ではなく、むしろ物が詰め込まれてごった返しているような印象なのですが、様々な色彩に溢れていて、その色合いがどんどん変化していくのが本当に魅力的。図書館も森も海辺の洞窟も素敵すぎます。そして若き女王・テッサラもまた魅力的。最初はぼんやりした女の子にしか見えなかった彼女が、実は一番魅力的でした。強大な魔法の力を持つ人物なので、その身の回りで不思議な出来事が渦巻いているのも楽しいです。ただ、魔術師のヴィヴェイだけは、かなり読み進めるまで男性だと思い込んでいました… 実は女性だったのですね。

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