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このページは、エリザベス・マクラッケンの本の感想のページです。

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「ジャイアンツ・ハウス」新潮クレスト・ブックス(2007年8月読了)★★★★

ペギー・コートは、ケープコッドの小さい町、ブルースターヴィルの町営図書館の司書。あまり人間が好きではないペギーにとって、ジェイムズ・カールソン・スウェットだけは特別な存在。そのジェイムズが初めて図書館にやって来たのは1950年の秋、ペギーが25歳、ジェイムズが11歳の時のことでした。ジェイムズは同じ小学校に通う生徒たちと共に教師に引率されて図書館にやって来たのです。幼い頃から背の高さで注目を浴びていたジェイムズは、その時既に185cm。11歳の少年たちの間で図抜けて背が高いだけでなく、成人男性にしても長身と言えるほど。そしてそれからというもの、ジェイムズは図書館の常連となり、図書館に来ては1度に4冊ずつ借りていくように。(「THE GIANT'S HOUSE」鴻巣友季子訳)

処女作にして全米図書賞にノミネートされたというこの作品は、図書館司書をしているペギーと巨人症の少年・ジェイムズの恋物語… と言えるのでしょうか。素直に読めば、恋愛には不慣れな2人が、不器用ながらも着実に想いを育んでいくピュアな恋愛物語と言えそうです。しかしペギーの想いが本当に恋愛感情だったのかと考えると、どうしても疑問も残るのです。ペギーは、「わたしは人間があまり好きではない」と何度も言うのですが、それはおそらく家族愛や男女間の愛情に恵まれなかったから。外見もそれほど魅力的ではなかったのでしょうし、内面まで見てくれる男性が周囲にいなかったことも、ペギーの不幸なのでしょう。「わたしは人間があまり好きではない」という発言は、そんな状態が長く続いた挙句の人間不信のように思えます。そして、「わたしは人間が好きではない。だが、彼だけはちがっていた」と書くペギーは、本当にジェイムズの魅力を分かっていたのでしょうか。ジェイムズは、幼稚園時代には150cm、11歳で185cm、16歳になった時には223cm。それでもまだ彼の成長は止まらず、20歳の時は258cm。外見ばかり注目を浴びてしまう少年を見たとき、ペギーは自分の同類のような感覚を抱いたのではないでしょうか。世間一般の「女性らしい女性」の基準からはみ出てしまったペギーが、世間一般の「少年らしい少年」の基準からはみ出してしまった少年に、同病相憐れむ感情を抱いただけのではないか、そんな思いがよぎるのです。ペギーのジェイムズに対する想いは、どちらかといえば恋愛感情というよりも所有欲に見えます。行動こそ常識の範囲内ですが、その気持ちは既にストーカー寄り。そしてジェイムズの叔母夫婦、カロラインとその夫のオスカーといったジェイムズの周囲の暖かい雰囲気に触れて、家族愛を知らないペギーが、その居心地の良さに固執したのではないか、そう思えてくるのです。
しかし始まりがどのような想いであったにせよ、それだけを追い求めれば、いつかは本物になるのでしょうか。ペギーの最後の行動には呆然とさせられましたし、そもそもそんな嘘がばれないはずはないとは思うのですが… それでもペギーは、ようやく自分の居場所をみつけたのですね。

P.15「司書は(スチュワーデス、公認会計士、中古車のセールスマンとおなじく)、ある種ひねくれた人間を惹きよせる職業と思われている。さらには、手厳しい行き遅れの女ということになっている。寂しい頑固者。まずもって、刺々しい。罰金を愛し、静寂を愛する」

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