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このページは、ジョージ・R・R・マーティンの本の感想のページです。

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「七王国の玉座-氷と炎の歌1」1〜5 ハヤカワ文庫SF(2007年1月読了)★★★★★

ロバート・バラシオンとエダード・スタークが、バロン・グレイジョイの反乱で狂王・エリス・ターガリエン2世を討ち取ってから9年。ロバートは今や七王国の王であり、エダードは北の地・ウィンターフェルの領主としてそれぞれの生活を送っていました。そしてそんなある日、ロバート王が突然ウィンターフェルを訪れます。その目的は、エダードを七王国で2番目に有力な地位を持つ「王の手」に任命すること。それまで「王の手」であった、ロバートとエダードの第2の父親代わりのジョン・アリンが急死し、ロバートはその後継者を求めていたのです。気が進まないエダード。しかしエダードの妻・ケイトリンが、ジョン・アリンの妻だった妹のリサから、ジョン・アリンはサーセイ王妃によって殺されたと極秘の知らせを受け取ったこともあり、エダードは王の手とならざるを得なくなり、王都・キングズランディングへと向かうことに。(「A GAME OF THRONES」岡部宏之訳)

「氷と炎の歌」の第1部。
「夏」と「冬」が数年間ずつ繰り返す「七王国」を舞台にしたファンタジーであり、各章ごとに違う人物の視点から物語を追っていく群像劇でもあります。その語り手となっているのは、北国・ウィンターフェルの領主・エダード・スターク、その妻・ケイトリン、その息子のブラン、娘のサンサとアリア、私生児のジョン・スノウ、スターク家と敵対するラニスター家の小鬼(インプ)ことティリオン・ラニスター、そしてかつて王座を追われた古代王朝ターガリエン家の生き残り・デーナリス(ダニー)の8人。主な舞台となるのはウィンターフェル、王都・キングズランディング、そして海を隔てたアンダル人の土地・レーシュ・アンダーリ。ここまで頻繁に視点を変え、舞台を変えている作品は、初めてかもしれません。しかし普通ならそれだけ目まぐるしく視点が変わると、なかなか感情移入できなくて困りそうなところなのですが、見事にそれぞれの人物を描き出していますね。語り手それぞれの心の動きに引き込まれますし、この8人の視点を通して、ジョージ・R・R・マーティンは一体何人の人生を描き出しているのでしょうか。大狼(ダイアウルフ)に暗示されるスターク家を始め、それぞれの人物の運命が絡まりあい、むしろ物語自体はそれだけ重厚さを増しているようです。まさに一大歴史絵巻ですね。おそらく、この物語に特定の主人公は存在しないのでしょう。この作品では、読者は誰でも自分の気に入った人物を主人公として読んでいくことができます。派手さはないながらも質実剛健なウィンターフェル、黒衣の夜警団(ナイトウォッチ)たちが守る世界の果ての壁、常に誰が敵なのか味方なのかも分からない緊張感をはらんだキングズランディング、それとはまた違う緊張感のあるレーシュ・アンダーリといった舞台もそれぞれに魅力的。
私が気に入ったのは、わずか13歳で無理矢理騎馬民族・ドラスク人の族長・カール・ドロゴに嫁がされながらも、兄・ヴァイサリスよりも賢く強くなっていくデーナリスと、ラニスター家の小鬼・ティリオン。特にこのティリオンには、敵方とはいえ、どうも無視できない愛嬌がありますね。そして家族を捨てて夜警団としての誓いを立てた孤高ジョン・スノウ。彼らが今後どうなるのかはもちろん、スターク家とラニスター家の今後は、アリンの谷間(ヴェイル)は、そして玉座争いはどうなるのか、さらにはこれから冬が到来し、「壁」の向こうの不気味な存在はどのように物語に絡んでくるのか… と興味が尽きません。この作品は全部で7部作となるのだそう。この1部はまだそのほんの序章なのでしょうね。1部でこの読み応えなら、一体これからどれだけ壮大な物語になるのでしょう。続きもとても楽しみです。


「王狼たちの戦旗-氷と炎の歌2」1〜5 ハヤカワ文庫SF(2007年8月読了)★★★★★

ロバート・バラシオンが猪によって命を失った後、サーセイ妃は自分が摂政となって嫡男・ジョフリーを鉄の王座に座らせ、エダード・スタークはジョフリーによって首を落とされることに。サンサはジョフリーの婚約者として城に拘束され、アリアはキングズランディングから脱出。ウィンターフェルはロブ・スタークが北の諸侯を率いて「北の王」として蜂起し、ロバートの末弟・レンリー・バラシオンはハイガーデンで、次弟のスタンニス・バラシオンもストームズエンドで王として名乗りを上げることに。その頃、七王国の空に巨大な赤い彗星が輝いていました。(「A CLASH OF KINGS」岡部宏之訳)

「氷と炎の歌」の第2部。ローカス賞を連続受賞したという作品。
「七王国の玉座」の最後で一気に分裂した王国では、3人の王が名乗りを上げることになります。特に野心が強いのは、ロバート・バラシオンの2人の弟、スタンニスとレンリー。その2人が実際に鉄の王座に座るジョフリーと合い争う格好となります。さらには海の彼方には、ターガリエン家の直系として王位を請求する権利を持つデーナリスが控えています。物語は乱世らしく血みどろの戦争やそれに伴う悲惨な場面が多いです。この作品では、やはりスターク家が一番中心だと思いますし、読んでいて一番感情移入してしまうのですが、その彼らも誰1人として悲惨な運命からは逃れられないようですね。それとも、中心であるがゆえに、より一層過酷な運命にさらされているのでしょうか。4巻中盤で起きたあまりに悲惨な出来事は、本当に信じたくなかったほど。ジョージ・R・R・マーティンはどの人物も同じように扱い、決して贔屓をしないので、自分が肩入れしている人物が最後まで無事に生き残るという保証はまるでなく、それがまた緊迫感を盛り上げます。
そして、この第2部で語り手となっているのは、「北の王」からはアリア、サンサ、ブラン、ジョン、ケイトリン、「鉄の玉座の王」からはティリオン、「狭い海の王」からはスタンニスに仕えるダヴォス・シーワース、「海の彼方の女王」からはデーナリス、グレイジョイ家からはシオンの計9人。王として名乗りを挙げた人物が1人もいないことに注目。もし王の視点から描いていたら、もっと戦国時代の勝ち抜き合戦のように見えただろうと思うのですが、そうではないところに、1人1人の人間が生き抜こうとする大河ドラマとしての広がりが出てくるのですね。読んでいてまず楽しいのは、やはりスターク家のパート。特にアリアのパートが魅力的です。サンサも同じように針の筵状態で苦労してはいるのですが、やはり狼の化身とも思えるアリアの方が力強く魅力的。彼女の行方不明のダイアウルフ・ナイメリアの今後の役割も気になるところです。そしてブランのパートは、ブラン自身も健気で可愛いですし、森の子供たちの緑視力(グリーンサイト)、獣人や変容者(シェイプチェンジャー)と気になるモチーフが満載。そして次に楽しいのはデーナリスのパートでしょうか。彼女とドラゴンたちは今後一体どうなるのでしょう。第1部では、ティリオンやジョン・スノウが気に入っていたはずなのですが、今回はそれほどでもなかったようです。ティリオンと宦官・ヴェリース、ティリオンとサーセイといった辺りのやり取りは楽しいのですが、2人とも第1部での方が魅力的だったかもしれません。
最初のうちこそ、どのような話だったのか思い出せずい苦労したのですが、すぐに波に乗れました。しかしどうしても初読時はストーリーを追うことに集中してしまいます。こういった重層的な作品は、再読してこそその真価が分かるのでしょうね。完結した暁には、ぜひとも最初から再読したいものです。

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