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このページは、R.A.マカヴォイの本の感想のページです。

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「ダミアーノ-魔法の歌1」ハヤカワ文庫FT(2006年1月読了)★★★★
ダミアーノ・デルストレーゴは天使ラファエルにリュートを習い、父親のグイレルモ譲りの魔力で錬金術を行う21歳の青年。言葉を話す小さな牝犬・マチアータと一緒にパルテストラーダの屋敷に暮らしていました。しかし何年もパルテストラーダの町を支配下に置いていたサヴォイ公国の軍が撤退し、代わりにパルド軍が入ったことによって、ダミアーノの平和な世界は一変します。ダミアーノが強壮薬を作って鍋にかかりきりになっている間に、ダミアーノの亡き父の親友・老マルコ以外の町の住民は皆逃げてしまったのです。パルド将軍の呼び出しを受けて会いに行ったダミアーノは、マルコが町を裏切ったことを知ります。そして魔法の力でパルド将軍に協力することを求められたダミアーノは、姿を消して屋敷に戻り、町の住民たちが行っているというエンドウの野原を目指すことに。(「DAMIANO」井辻朱美訳)

「魔法の歌」の1冊目。
小国家が分立していた頃の中世イタリアが舞台のファンタジー。主人公のダミアーノは、生まれつきの魔力を持った魔道士であり、それで日々の生計を立てているのですが、一番大切にしているものはリュート、そして言葉を話す犬のマチアータ。天使ラファエルが当たり前のように登場してダミアーノにリュートを教えていたり、ダミアーノがラファエルの兄であるサタン、かつてのルシファーと契約を結ぼうとする場面などがごく当たり前のように描かれ、ダミアーノが魔導士でありながら、同時にごくごく敬虔なキリスト教徒だという設定には驚かされました。しかしこの舞台に良く似合っていますし、情景がまるでラファエロらイタリア・ルネッサンスの絵画のよう。ごく自然にしっくりと馴染んでいるのがまた驚きです。
魔道士だという理由だけで町の住民たちから恐れられ疎まれているダミアーノですが、ダミアーノ自身はごく純粋で健全な精神の持ち主。自分の住むパルテストラーダの町を、まるで自分の母親であるかのようにこよなく愛し、救おうと努力しています。しかし彼の本当の気持ちは他の人間にはなかなか理解できないでしょうね。特にガスパールのような少年にとっては、ダミアーノの甘い感傷としか映らないでしょうし、実際、ダミアーノ自身が恵まれた生活を送ってきたからこその余裕とも言えるもの。全てを失ったダミアーノは、これからどのように変化するのでしょう。もしくは全くしないのでしょうか。
そしてこの作品の中で特に好きだったのは、主人思いの犬のマチアータ。小生意気なまでに可愛くて、マチアータとダミアーノの会話はとても楽しかったですし、もしもう会えないとしたらとても残念です。

「サーラ-魔法の歌2」ハヤカワ文庫FT(2006年1月読了)★★★★
魔力を失ったダミアーノは、サン・ガブリエルで知り合った少年・ガスパールと共にフランスへ。満足な食事が得られなくとも、まるで聖者のように全く文句を言わないダミアーノ。そんなダミアーノに業を煮やしたガスパールは、とうとうダミアーノの元を飛び出してしまいます。そして2人がそれぞれの道を通って辿り着いたのは、黒死病に冒された町でした。(「DAMIANO'S LUTE」井辻朱美訳)

ガスパールはダミアーノを楽士として売りこむために一生懸命なのですが、ダミアーノ自身はすっかり気が抜けてしまった状態。元々気が強いとは言えないダミアーノなのに、魔力と共にその生活の基盤を失って、さらに無防備な状態となっています。しかし、育ちがいいだけに考えは甘いのですが、それでも彼本来の純粋さや頑固さは失っていません。彼としては、自分の信じる道をひたすら歩んでいくだけなのです。ガスパールは、その無防備な姿を放ってはおけずに色々と世話を焼いてしまうのですが、本当はダミアーノには世話などいらないのに気づいていて、それが「自分は必要とされていないのではないか」という思いに繋がり、苛立ちへと変化しているのでしょうね。他の人間から見れば、ダミアーノがガスパールを必要としているように見えても、本当はガスパールこそが、ダミアーノを一番必要としているのでしょう。
そしてダミアーノが愛し愛されることになるのは、フィンランド出身のラップランド人の魔女・サーラ。彼女もダミアーノの純粋さにほだされてしまった人間ですね。彼女の歌を歌いながら魔法をかける場面がとても素敵です。歌う魔法というと、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの大魔法使いクレストマンシーシリーズの「トニーノの歌う魔法」を思い出すのですが、もしやここから影響を受けているのでしょうか。

「ラファエル-魔法の歌3」ハヤカワ文庫FT(2006年1月読了)★★★★★
ダミアーノがいなくなり、ラファエルにリュートを習い始めたガスパール。サン・ガブリエルの町の居酒屋で、かつてダミアーノのものだったリュートを弾き、日々の暮らしの生計を立てていました。そんなある日、サン・ガブリエルの丘を登ってくる人影が。それは確かににダミアーノの姿でした。しかしそのダミアーノは、かつてダミアーノが決して身に纏うことのなかった黒衣を纏っていたのです。居酒屋の屋根の下に鳩の姿で止まっていたサーラは、それがダミアーノではないことに気づき、ダミアーノの姿をしたその男に攻撃をしかけます。その男の正体はサタン。サタンはサーラを捕らえてティル・ナ・ヌォーグにある自分の宮殿へと連れて行き、サーラを人質としてラファエルを呼び出します。(「RAPHAEL」井辻朱美訳)

「サーラ」を読んでいる時から、ラファエルが時々「人間くさい」しぐさをするのが気になっていたのですが、やはり人間の世界と関わることは、彼に大きな影響を及ぼしていたのですね。人間の感情をあまり理解できないでいた天使のラファエルですが、奴隷に身を落とすことによって、様々な人間の感情を理解できるようになります。恋ですらも。
しかしラファエルがこのような状態になってしまっても、何の動きも見せない創造主。神とは一体どのような存在なのでしょうね。ラファエル以上に、人間の細かい感情や行いなど理解できない存在だというのは十分考えられること。この作品に描かれているラファエルは、ダミアーノに対する愛情もあり、ある程度人間のことも理解していたようですが、ダミアーノに呼ばれるまでは、人間にそれほど関心を持っていなかったように思えます。おそらくウリエルやミカエル、ガブリエルも大なり小なり似たようなものでしょう。そして神その人も、そうなのでしょうね。あるいはそれ以上なのかもしれません。ラファエルとサタンの諍いについても、確かに認識はしていながら、丁度ラファエルが人間のことをそう見ていたように、半分無関心な態度で見ていたのかもしれません。そう考えると、神や天使よりもサタンの方が遥かに人間に近い存在であり、人間を理解しているようにも思えてきます。なぜルシファーがサタンになってしまったのか、そうならざるを得なかったのか、その辺りも見えてくるような気がしてきますね。ちなみにサタンが住んでいるのは、常若の島ティル・ナ・ヌォーグ。ケルト神話に登場するティル・ナ・ノグです。なぜここでマカヴォイはこの地名を出してきたのでしょう。傷ついた英雄も休む地にサタンこそ相応しいと考えたわけでもないでしょうけれど… 興味深いところです。
そしてこの物語には「黒龍」も登場します。ダミアーノとマチアータの会話がまた楽しめるのも嬉しいですね。

「黒龍とお茶を」ハヤカワ文庫FT(2006年1月読了)★★★★★お気に入り
娘のエリザベスに急に呼び出され、ニューヨークからサンフランシスコへとやって来たマーサ・マクナマラ。エリザベスが予約したジェイムズ・ヘラルド・ホテルに泊まりながら、しかし娘となかなか連絡がつかずに困惑していました。そんなマーサに、ホテルのバーテンダー・ジェリイ・トローフが紹介したのは、メイランド・ロングという初老の紳士。ロング氏はこのジェイムズ・ヘラルド・ホテルに住んでおり、古いバラッドに詳しく、自分の耳で詩人から直接聞いてきたような話し振りをする不思議な雰囲気の男性。ロング氏がコンサート・ヴァイオリニストだったマーサのことも知っていたこともあり、2人は早速意気投合します。そして今の住所も職場も分からないエリザベスの行方を一緒に探すことになるのですが、今度はマーサの姿が消えて…。(「TEA WITH THE BLACK DRAGON」黒丸尚訳)

龍という存在が登場するので、ジャンルとしては確かにファンタジーと言えるのでしょうけれど、話の展開としてはむしろミステリ。現代のサンフランシスコを舞台にした、コンピューター犯罪小説でもあります。そしてほんのりとラブ・ロマンス。龍が登場して何か超常的な力が働くのかと思いきや、そういう面はほとんどありません。ごくごく人間的に物語が展開していきます。
何と言っても登場人物たちが魅力的でいいですね。特にロング氏。色々と謎めいてはいますし、時には話している相手が何らかの違和感を持つこともあるのですが、基本的にはごく普通の、飄々とした博識な紳士。この彼が、かつてどれほどの力を持っていたのか、何を思って人間になったのかというのもさらっと流されていますし、龍ではなくなるということはどういうことなのかという部分で、あまり深く突っ込まれていないのが残念ではあるのですが、会話や身体的な部分で時々只者ではない片鱗が垣間見えるのも楽しいです。そして会話がまた良いのです。特にマーサとロング氏の会話は、そのままヨーロッパ映画にしてしまいたくなるようなお洒落で小粋なもの。大人のユーモアたっぷりです。茶目っ気たっぷりの明るい大人の女性・マーサの魅力を引き出しているのも、このロング氏あってこそでしょう。若さに特有の力みがなく、いい具合に肩から力が抜けているという印象。こういう作品こそ、大人のためのファンタジーという言葉に相応しいですね。ゆっくりお茶を楽しみながら読みたい1冊。
本国では続編もあるようですね。こちらもぜひ読んでみたいです。
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