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このページは、フリッツ・ライバーの本の感想のページです。

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「魔の都の二剣士」創元推理文庫(2005年7月読了)★★★★
【雪の女】…真冬の< 寒の片隅>では、雪一族の女たちが同じ一族の男たちに対して、力を合わせて強大な魔法を操っていました。男たちは南から来た旅芸人の一座のために<神の館>を独占し、女子供がそれを見るのを禁じていたのです。南の文化への憧れで芝居を見ていたファファードは女優・ヴラナを母・モールの魔術から救おうとして睨まれることに。
【灰色の魔術】…長い探索の旅を果たして、偉大なる魔法使いである師匠・グラヴァス・ローの元に戻って来たグレイマウスは、師匠が焼き殺されているのを見つけます。それは全ての魔法を憎んでいるジャーナル公爵の仕業でした。父に隠れてグラヴァス・ローの元に通い、マウスと共に白魔術を学んでいたイヴリアンが裏切ったのです。
【凶運の都ランクマー】…ランクマーで宝石商を襲い、<盗賊の館>へ戻ろうとしていた2人組の盗賊・スレヴィアスとフィシップを襲ったのは、グレイマウザーとファファード。初対面ながら護衛役の暗殺者も協力して倒し、奪った宝石を山分けにすることにした2人は意気投合します。
(「SWORDS AND DEVILTRY」浅倉久志訳)

ファファード&グレイ・マウザーシリーズの1冊目。「凶運の都ランクマー」は、ヒューゴー賞とネビュラ賞をダブル受賞という中編。長大な物語が多いファンタジーの中で、短編集という形式で書かれているのが珍しいですね。
「雪の女」は、北の雪一族に生まれたファファードが、「灰色の魔術」はグレイ・マウザーがそれぞれに故郷から出立する物語。そして「凶運の都ランクマー」は2人の出会いの物語。蛮族の大男と都会派の小男の組み合わせというのは絵的にも分かりやすいのですが、逞しい剣士・ファファードは実は吟遊詩人でもあり、小男の魔術師・グレイ・マウザーもなかなかの剣士でもあるという、あまり類を見ないような設定。この3作のうちでは、「雪の女」が一番面白かったです。北国の風変わりな風習がいいですね。ただ、異世界ネーウォンを舞台とする物語に、現代世界にも通用するスキーが登場しているのだけは少々違和感でしたが…。
2人の剣技も相当なもののようですが、むしろ注目したいのは魔法。「雪の女」に登場する女たちの寒気を操る魔術が面白いですね。あまり他のファンタジーには見かけないような類のものだっただけに、今後どのように影響してゆくのかという不気味さが残りますし、「凶運の都ランクマー」の妖術師が行う妖術も退廃した都・ランクマーらしい妖しげな毒々しい色合いのもの。グレイ・マウザーは「凶運の都ランクマー」で魔法が危険なものであると口にし、「いまもときたま使うことはあるがね」と言っていますが、この展開を見ると今後は魔法使いとしての活躍も望めそうな気がします。そしてまだこの1巻ではファファードの吟遊詩人としての働きはありませんが、これから先どうなるのでしょう。吟遊詩人という存在自体に魔法が色濃くまつわるようなイメージがあるだけに、今後の展開が楽しみです。
白一色の北国から始まり、そこから灰色、そして退廃した都ランクマーの漆黒、すなわち黒と移り変わっていくところが、このシリーズの暗黒面や2人のこれからの孤独を象徴しているようですね。最後の展開も容赦がありません。グレイ・マウザーは「灰色の魔術」で既に若者らしい純粋さを裏切られているるのですが、これまた初々しい若者だったファファードが「凶運の都ランクマー」を経てどのような成長を見せるのか楽しみです。

「死神と二剣士」創元推理文庫(2005年7月読了)★★★★
【円環の呪い】…ファファードとグレイ・マウザーは<沼の門>を抜けてランクマーの都を出ます。恋人たちを殺された2人は、都には2度と戻らないと誓いを立てていました。
【森の中の宝石】…ランクマーの国の最南端、ソリーヴの村のほど近くにやって来た2人。ここには彼らの探し求める谷間、財宝を積んだ館があるはずなのですが…。
【盗賊の館】…巨大なルビーの目と宝石に飾られた両手を持つ<髑髏オーンファル>をヴォティシャルの寺院から盗み出すために、盗賊フィシッフはファファードとグレイ・マウザーに声をかけます。
【凄涼の岸】…<銀鰻亭>にいたファファードとグレイ・マウザーに声をかけたのは、小柄な青白い男。彼の繰り返す<凄涼の岸>という言葉を聞き、2人はふいに<銀鰻亭>を出て行きます。
【泣き叫ぶ塔】…案内人の男と共に広大な平原にいた2人。しかし狼の遠吠えらしき声が聞こえてきた途端、案内人は身震いし始め、翌朝には姿を消していたのです。
【沈める国】…ランクマー目指して<外海>を航海していた時、ファファードが釣り上げた魚の腹の中から指輪とかぎを兼ねた黄金の品が出てきます。伝説のシモルギアの品らしいのですが…。
【七人の黒い僧侶】…<先祖の骨>から<寒の曠野>に向かって歩いている途中、何者かの襲撃を受けた2人。そして2人は丘の上で星のような光点が眩い輝きを放っているのに気づきます。
【夜の鉤爪】…ランクマーの都で装身具や宝石の盗難事件が頻発。最初は光物なら何でも盗まれていたのが、徐々に高価な宝石ばかりが盗まれるようになります。それは鳥の仕業でした。
【痛みどめの代価】…恋人たちを失って以来放浪の旅を続けていた2人は、ごく短い期間、1つ屋根の下で暮らすことになります。それはダニウス公爵の木製の小亭を盗み出してのことでした。
【珍異の市】…<目なき顔のシールバ>から呼び出されたグレイ・マウザーと<七つの目のニンゴブル>から呼び出されたファファード。貪婪団がランクマーを脅かしているというのです。
(「SWORDS AGAINST DEATH」浅倉久志訳)

ファファード&グレイ・マウザーシリーズ2冊目。
ランクマーの都で恋人たちを惨殺された2人は二度と戻って来ないという誓いと共に旅に出るのですが、<目なき顔のシールバ>と<七つの目のニンゴブル>の予言通り、3年余りの放浪後、都へと戻ることになります。1巻の作品はライバーの比較的後期に書かれた作品のようですが、こちらは最初期に書かれた作品群だとのこと。
何かあると見れば、奇怪な出来事にも躊躇いなく飛び込んでいく2人。常に死と隣り合わせのような冒険を繰り返すのですが、その危険の割に得る物が少ないのがご愛嬌ですね。ただ働き同然ということも多いのです。しかも「痛みどめの代価」で、それぞれ<目なき顔のシールバ><七つの目のニンゴブル>と契約してからは、その傾向はさらに強まりそうな…。全体的に陰鬱な雰囲気のある物語ですが、それがまたこの怪奇趣味に良く似合っていると思います。最初の3年間の放浪、ネーウォンの世界を東西南北にさ迷い歩き、そのさらに東へと歩みを進めたようです。神秘的なティシニリットの都や伝説として語られるのみの国々についての描写もぜひ読んでみたいのですが、恋人の死という痛手が生々しい時期の2人のことですから、この2巻に収められている物語よりも陰鬱な雰囲気になってしまうかもしれませんね。

「霧の中の二剣士」創元推理文庫(2005年7月読了)★★★★
【憎しみの雲】…ランクマー君主の姫君とイルスマーの王子の婚約の夜。<憎しみの寺院>の広間では青白いおぼろな巻きひげが芽生え、たちまちのうちに数を増して白い霧のようになります。
【ランクマーの夏枯れ時】…ファファードとグレイ・マウザーが袂を分かち、ファファードはランクマーに集う神の1人<瓶のイセク>に使える見習僧に、グレイ・マウザーは恐喝者プルグの手下となります。
【海こそは恋人】…<黒い財宝係>号で出帆したファファードとグレイ・マウザーとオウルフ。途中海賊行為を働き、<陸の果て>の近くの小村でオウルフを降ろした後、航路を真北にとることに。
【海王の留守に】…オウール・フラスプの西で乏しい食料と飲料水だけで立ち往生した2人。波1つない凪の海面に空気の井戸のような筒が出来たのを見て、2人は海底に降りることに。
【間違った枝道】…2人の航海は徐々に困難に遭い始め、とうとうイルスマーの港で<黒い財宝係>号は沈没。2人は呪いを解いてもらうために<七つの目のニンゴブル>の洞窟へと向かいます。
【沈める国】…<七つの目のニンゴブル>の洞窟で違う枝道を選んだ2人は、洞窟を出た時、見知らぬ世界にいました。そこはアレクサンドリアという都を持つ古代フェニキアだったのです。
(「SWORDS IN THE MIST」浅倉久志訳)

ファファード&グレイ・マウザーシリーズ3冊目。
なぜ「ランクマーの夏枯れ時」で2人が袂を分かつことになったのかが解せませんでしたし、どうも不自然に感じられてならなかったのですが、それに続く冒険はいいですね。これまではそれぞれの短編はあまり時系列的になだらかに繋がっていなかったのですが、今回はそれぞれの短編の連続性が強く、連作短編集、もしくは長編と言ってもいいほどの繋がりとなっています。この中で好きなのは、「海王の留守に」。ここで描かれる海底の情景描写がとても綺麗なのです。そして「間違えた枝道」で別世界へと行ってしまうというのも楽しいですね。洞窟が様々な世界に繋がっているというのも楽しいですし、新しい世界に入るたびに、その世界に住むのに相応しい知識と言語の才と、個人的な記憶を備えて目覚めるというのが面白いです。例えばファファードの少年時代の記憶は、<寒の曠野>ではなくバルト海を取り巻く地方のものに代わり、マウザーの記憶もトリヴィースからテュロスへと。そう言われてみると、どことなくモンゴル地方のようなイメージを持っていた異世界ネーウォンは、やはりヨーロッパが元となっていたのですね。

「妖魔と二剣士」創元推理文庫(2005年7月読了)★★★★
【魔女の天幕】…北への旅を控えたファファードとグレイ・マウザーは、イリック・ヴィングの魔女の元へ。夢幻の境に入り込んだ老婆が北への旅を占う言葉を口にした時、邪魔が入って…。
【星々の船】…数週間後、2人は<寒の曠野>から屹立する壮麗な山脈の麓に辿り着きます。今回の探索の目的地は、その山の頂上にある<スタードック>なのです。
【ランクマー最高の二人の盗賊】…<スタードック>から宝物を持ち帰った2人。南への旅の途中で諍いをした2人は、それぞれ自分の分け前を自分で売り払うことにします。
【クォーモールの王族】…ファファードとグレイ・マウザーは、それぞれクォーモールの兄王子・ハスジャールと弟王子・グワーイに秘密裏のうちに雇われて、地下のクォーモールの国へ。
(「SWORDS AGAINST WIZARDRY」浅倉久志訳)

ファファード&グレイ・マウザーシリーズ4冊目。
今回「魔女の天幕」と「ランクマー最高の二人の盗賊」は完全に繋ぎの役割で、メインは「星々の船」と「クォーモールの王族」。「星々の船」では、2人は過酷な雪山を登頂することになり、「クォーモールの王族」では地底王国に囚われることになります。雪山登頂の描写はかなり詳細に渡っており、まるで山岳小説。山登りをする人にはかなり興味深いのではないかと思う迫力シーンも満載なのですが、山登りどころか山歩きも苦手な私にとっては少し辛かったです。しかし豹に似ているという雪猫のフリッサは可愛いですし、山登りだけではなく幻想的な情景も待ち構えています。「クォーモールの王族」では、地底世界の描写も面白かったですし、読んでいるだけで息苦しくなってきそう。2人の王子の魔導師対決もなかなかですね。魔導師同士の均衡が破れた時の呪いの効果の出方も凄まじかったですし、それ以上にファファードとグレイ・マウザーがお互いに気づいた時が可笑しかったです。
相変わらずただ働きをしてしまったり、美しい女性を目の前にして鼻の下を伸ばしたり… その割に続かないのですね。結局この2人の愛嬌こそが、このシリーズの魅力のような気がします。

「ランクマーの二剣士」創元推理文庫(2005年7月読了)★★★
今回のファファードとグレイ・マウザーが請け負うことになったのは、訓巣・グリプケリオ・キストマーセスの穀物船を護送すること。1隻のガレー船と5隻の穀物船はランクマーを出帆し、内海を横切って北へと向かいます。穀物は、<八都の国>のモヴァールが内海からミンゴル海賊を一掃し、<沈みゆく地>を横切ってランクマーに攻め込もうとする大草原のミンゴル人を追い散らしたことに対する、グリプケリオからモヴァールへのお礼。しかしその前に送った2つの船団は<八都の国>に着かず、消えうせていたのです。ファファードとグレイ・マウザーは船団のしんがりに位置した最大の穀物船・烏賊号に乗り、穀物商人ヒスヴィンの娘・ヒスヴェットが連れている、見事に飼いならされた12匹ほどの白い鼠も護衛することに。(「THE SWORDS OF LANKHMAR」浅倉久志訳)

ファファード&グレイ・マウザーシリーズ5冊目。
シリーズ唯一の長編とのことなのですが、フリッツ・ライバーは短編のリズムの強い作家さんなのでしょうか。どうも今までの連作短編集とそれほど変わらない気がしました。穀物船での出来事と、その後のランクマーでの出来事というのは、もちろん繋がりはありますが、他の巻と同じ程度の繋がりかと。
鼠の王国の描写は面白かったですし、マウザーが鼠の王国に侵入する際、そしてヒスヴェットたちが行ったり来たりする際の現象がとてもユニーク。自分の「液体」のない場所でマウザーが人間に戻ったために起きた出来事なども面白いですね。それにファファードが来る前に「グレイ・マウザー」が鼠の王国に行くことになったのも、全ての冒険を始める時に「マウス」から「グレイ・マウザー」となった彼の真価を見せてくれるのも、物語の総決算的で楽しかったです。ただ、13というのはキリスト教あってこその不吉な数字。なぜグリプケリオは13を不吉と思ったのでしょうか。このネーウォンという世界でも似たような逸話が存在するのでしょうか?
シリーズを一通り読んでみて感じたのは、とても男性的なファンタジーだということ。特に2人の冒険者が自分の力で道を切り拓き、行く先々で美女に翻弄されているというのは、いかにも男性的な作風であり、男性本位の世界だと思います。
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