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このページは、アラン・カーズワイルの本の感想のページです。

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「レオンと魔法の人形遣い」上下 創元ブックランド(2009年3月読了)★★★★

4年生の新学期が始まる前、探し物をしていたレオンがお母さんの机の中から見つけたのは、自分の名前が太い活字体で書かれ、学校の印章と「親展」のスタンプが押されている封筒。気になって仕方ないレオンは、新学期の前夜、とうとう開いて読んでしまいます。そこにあったのは、自分に対する担任や他の教師たちの厳しい評価。レオンは人並みはずれて手先が不器用で、それなのにレオンの通うクラシック学院のモットーは「敏捷な精神は敏捷な指に宿る」なのです。(「LEON AND THE SPITTING IMAGE」大島豊訳)

ニューヨークのマンハッタンが舞台のファンタジー。…と思いきや、一般的なファンタジーとはまた全然違う雰囲気なので驚きました。そもそも、主人公が通う学校からしてとても個性的。手先の器用さを重視するあまり、お裁縫に取り付かれている教師がいるぐらいなのですから。実際、学校では色々な教科が教えられていることになっているのですが、描かれている授業風景としては裁縫と体育しかありません。そしてその裁縫が大好きな教師こそが、4年生になったレオンの新しい担任のハグマイヤー先生。ヘルメットのような黒い髪に黒いマント、マントの留め金は2つの目玉、黒いドレスに黒いブーツ、煮込んだ肝臓色のストッキングといういかにも魔女のような外見。教室でのどんな小さな囁きも聞き逃さない地獄耳で、生徒に次々にアニマイルと呼ぶぬいぐるみを作らせては売りさばいているという噂…。学校でのレオンの親友は、P.W(ファイア・ウィニット・ダバナンダナ)とリリィ=マティス・ジャスプロウの2人。いじめっ子は太ったヘンリー・ランプキン。ファンタジーとは程遠い、しかし奇妙な学校生活の物語が続きます。
父親を早くに亡くし、母親が副支配人をしている1つ星ホテルのホテル・トライモアの一室に住んでいるレオン母子はそれほど裕福とは思えないのですが、レオンは毎日タクシーで通学しています。しかもレオンの母親は常識人のように見えるのですが、学校に疑問を持ちつつもそのままレオンを通わせ続けているのです。…そもそも、なぜレオンがこの学校に通うことになったのか、とても不思議。3部作でおいおいに明かされていくのでしょうか。
レオンの手先が不器用なのは、花火職人だった父親を亡くしたトラウマのように学校側は受けとめていましたが、その真の原因が思わぬところにあったのも楽しかったですし、風変わりな客が入れ替わり立ち代り滞在するホテルトライモアでの場面も面白いです。個性豊かなホテルの清掃係のマリアや、ホテルのコーヒーショップの店長・フラウ・ハッフェンレッファーもレオンの味方ですし、タクシー運転手のナポレオン・ドゥランジュもいい味を出していますね。そんな大人たちの存在が、子供たちよりもよほど魅力的だったかも。学校の授業の場面で裁縫と体育の時間しか書かれていないことが象徴しているかのように、読んでいるとどこか歪みを感じます。しかしこの微妙に歪んだ不思議空間こそが、この物語の魅力なのかもしれませんね。


「レオンとポテトチップ選手権」上下 創元ブックランド(2009年4月読了)★★★

5年生が始まる前の晩、いつになくうきうきとした気分だったレオン・ザイゼル。学校の用意も「カボチャ頭」の用意も完璧だったのです。レオンの気分は10のうち8。しかし学校が始まると、その気分計は徐々に低下し始めます。カボチャ頭は上手く作動せず、レオンはランプキンに手首と頭を万力のように締められ、その後臭いゴミ缶の中に頭から詰め込まれてしまい…。しかしどん底まで落ちてしまった気分は、ナポレオンにもらった珍しいあさり味のポテトチップで少し上昇。レオンは最近ポテトチップのコレクションも始めていたのです。(「LEON AND THE CHAMPION CHIP」大島豊訳)

タクシー運転手のコレクションはナポレオンと出会った時点で一段落してしまったようですが、今のレオンのコレクションはポテトチップの空き袋。そして5年の担任の先生は理科のフランクリン・スパークス先生で、なんと1年間ポテトチップの研究をすることに決定。そしてかぼちゃ頭人形がなぜ動かないのか考察した3人の出した結論と、動かすために必要なものを得るための手段は、ポテトチップ選手権に出場すること。レオンはポテトチップ選手権前半のトリビアのためにポテトチップにまつわる様々な雑学を勉強し、後半の味覚テストのために、手に入る限りのポテトチップを分類・整理していくという、ポテトチップ尽くしな今回の物語。「ポテトチップを1年間研究していく」という意義がどうしても理解できない保護者たちを啓蒙するような計画も立てられます。あまりにもマニアックなポテトチップ話に、作者のアレン・カーズワイルもやはりマニアックな人物なのだろうと思わずにやりとさせられてしまいます。やはりアレン・カーズワイル自身がコレクター魂を持った人物なのでしょうね。
それにしても、4年生はお裁縫尽くし、5年生はポテトチップ尽くしとなる、このクラシック学院の造形そのものからして摩訶不思議。他の教科はどうなっているのだろう、と思わず考えてしまうのは大人の読者だからなのでしょうね。前回は体育の授業もありましたし、ハグマイヤー先生の口から他の教科の話も出てきましたが、今回は本当に理科の授業ばかりなのです。やはりこれは完全に子供視点に立っている児童書なのでしょう。そして読者にも完全に童心に返って読むことが求められているようです。

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