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このページは、スティーヴン・キングの本の感想のページです。

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「タリスマン」上下 新潮文庫(2004年8月読了)★★★★

1981年9月。12歳のジャック・ソーヤーは母に連れられて、ニューハンプシャー州の海辺の静かな避暑地にあるヴィクトリア朝風のホテル・アルハンブラ・インに滞在していました。母は20年に渡ってB級映画の女王だったリリー・キャヴァノー。しかしリリーは重い病気で死に掛けており、それを知った亡き父親の共同経営者・モーガン・スロートが、会社の所有権を譲渡しろとしつこく迫ってきたため、慌しくこの避暑地に移ってきていたのです。アルハンブラ・インに来てからというものぼんやりと毎日を過ごしていたジャック。しかし放浪の黒人ミュージシャン・スピーディ・パーカーと出会ってテリトリーの存在を教えられ、タリスマンがあればリリーを救うことが出来ると知ります。そしてタリスマンを探すために、大陸を横断する旅に出ることを決意します。(「THE TALISMAN」矢野浩三郎訳)

スティーヴン・キングとピーター・ストラウブの共著。最新式のワード・プロセッサを電話回線で繋ぎ、交互に執筆していったのだそうです。
宮部みゆきさんの「ブレイブ・ストーリー」の元になっているのではないかという話を聞いて興味を持った作品ですが、実際に読んでみて、そう言われていたことに納得。現実の世界と背中合わせになったようなもう1つの世界・テリトリーの存在、主人公ジャックの成長物語という面で、この2作は非常に似通っているのですね。「ブレイブ・ストーリー」同様、波乱万丈な物語にすっかり引き込まれてしまいました。
しかしどうしても比べてしまう分、いくつか気になる部分も出てきてしまいました。まず、この作品では主人公ジャックがアメリカ大陸横断の旅に出ることになるのですが、オートリーやサンライト・ホームなど、ジャックにとって非常に辛い部分は念入りに描写されているものの、オートリーに到着するまでのことや、旅の中で比較的順調だった部分があっさりと飛ばされてしまっていること。急ぐ旅であるはずなのに、「また1週間がすぎた」など、簡単に時間が経過してしまっていること。そしてこの作品では複数の人間が「テリトリー」を共有しているにも関わらず、テリトリーの中心はジャックであり、その母であり女王であるローラ・デラシアンであり、あくまでもジャックが正義であること。タリスマンの使い方にしても、あまりにジャックに都合が良すぎやしないでしょうか。善悪の捉え方が一元的で、少々深みに欠けているようにも思えます。それにジャックの旅の容赦のない艱難辛苦ぶりなどは、確かに大人向けと思えるのに、大人向けとはあまり思えない、まだまだ詰めが甘い部分も残っているようで、そういう部分もアンバランスに感じられてしまいました。やはり「ブレイブ・ストーリー」の方が後発の上に、宮部さんの筆力もあり、読みやすい作品に仕上がっているように思えますね。
しかしそれらの気になる部分は、共作であるため仕方がない面もあるのでしょうね。それでも非常に読み応えのある作品であることは確かだと思いますし、読んでいてとても面白かったです。


「グリーン・マイル」1〜6 新潮文庫(2002年8月読了)★★★★★

大恐慌の嵐の吹き荒れた1932年、アメリカ南部のコールド・マウンテン州刑務所にまだ電気椅子があった頃。この刑務所の死刑囚だけを集めたEブロックと呼ばる建物の中央を走る幅広い通路には、古いライム・グリーンのリノリウムが貼られており、その緑色から、死刑囚たちがその人生の最後に電気椅子まで歩く「ラストマイル」は、「グリーン・マイル」と呼ばれていました。35年前、ポール・エッジコムがEブロックの看守主任だった夏、死刑房に9歳の双子の少女の強姦殺人の罪で死刑が確定した黒人・ジョン・コーフィが入ってきたところから、この物語は始まります。(「THE GREEN MILE」白石朗訳)

鼠のミスター・ジングルズと遊ぶドラクロア、そしてコーフィ。1巻に出てくる「首長」や「大統領」もそうでしたが、この2人は本当にここに書かれているような残虐なことをしてきたのか、というのがまず一番の疑問でした。コーフィは本当に双子を強姦して殺したのか、それとも「もとどおりにしようとしたんですが… 手おくれだったんです」というのは、もしかすると違う意味を持つ言葉ではないのか。ドラクロワも強姦殺人の犯人ですが、人間を見分けているとしか思えないミスター・ジングルズが自ら飼い主として選んだ彼が、本当にそんな凶悪な存在なのか。しかしそんな疑問にも徐々に答が出てきます。ドラクロアの死を境に物語は急展開。中でも一番の見所はメリンダの救済とその後のシーンでしょうか。ここは本当に目が離せません。どの場面もそれぞれに印象的。
そして、物語は進むにつれてキリスト教的な色合いを強く帯びていきます。ポールと妻のジャニスが、ムーアズ所長の妻のメリンダを見舞うシーンの「本来なら、あの敷物はくたびれた古いライム色であるべきだーそんな思いが頭に浮かんできた。なぜなら、この部屋はすでに<グリーン・マイル>の一変種となりはてていたからだった。」という言葉もとても印象的。結局のところ、死はどんな人間にでも訪れるもの。それだけは全人類が平等に持っている権利であり、決して避けることのできない義務でもあります。この物語の<グリーン・マイル>は大股で歩けば60歩ほどの長さですが、しかしそれが長いか短いだけの違いで、実はすべての人間の前に敷かれているのですね。「おれはもう行ってしまいたいんだよ」という言葉がとても重いです。彼は一体何者だったのでしょう。何のために存在していたのでしょう。彼の到来とその死は、そのイニシャルが暗示する人物と完全に重なります。しかし神に遣わされてきたとしか思えない彼もまた、神のきまぐれな意思によって去っていってしまう…。そして人は自らが無力であることを思い知らされるのです。
これは本国アメリカでペーパーバックが毎月1冊ずつ、半年にわたって刊行されたという作品。日本でもその他の国々でも、その形式が守られているそうです。しかし私に限って言えば、一気読みをして大正解でした。途中で中断してしまったら、ここまで物語には入れなかったと思います。途中にはグロテスクなシーンもありますが… ラストに至るシーンには涙。オススメの作品です。

「ふたりの少女の死」「死刑囚と鼠」「コーフィの手」「ドラクロアの悲惨な死」「夜の果てへの旅」「闇の彼方へ」

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