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このページは、J・グレゴリイ・キイズの本の感想のページです。

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「水の都の王女」上下 ハヤカワ文庫FT(2006年1月読了)★★★★★

大河の神が唯一神として君臨する、南部の湿地王国群の中のノール王国の君主チャクンゲの第9王女・ヘジ・イェード・チャドゥーネは、唯一の友達だった3歳年上の従兄・デンが神官に連れ去られて以来、デンを捜し求めていました。10歳の時には宮殿の地下の暗黒のトンネルの中に忍び込むものの失敗。溺れかけているのを従者のツェムに助けられます。そして12歳の時に王室図書保管室に行くことを思いつき、現在は図書室を管理しているガーンに文字の読み書きを習いながら、宮殿や王室のことについて調べている最中。一方、あらゆるものに神が宿る北方の遊牧民の族長の息子・ペルカルは、美しい小川の女神・<アニシュ>に恋をしていました。しかしアニシュは、恐ろしい老人である大河の川が毎日のように自分を飲み込み食べ尽くすのだと嘆くのです。九つの谷の大族長・カパカが、領地を広げるために<森の主>バラティに会いに行くことになり、それに同行することになったペルカルは、小川の女神を食べてしまう大河の神とは一体何者なのか、見つけ出す決意を固めます。(「THE WATERBORN」岩原明子訳)

南の王女・ヘジと北の青年・ペルカルの2人視点によって、物語は描かれていきます。序盤はペルカル側の物語にあまり惹かれず、設定も掴み難かったのですが、ヘジの側の物語がとても面白いですね。思い立ったら即行動をしているヘジはもちろん、巨人と人間の混血であるヘジの従者・ツェムや、ヘジが通う図書室の管理人のガーンなどもとても魅力的で、彼らとヘジとのやりとりも楽しかったです。
異世界ファンタジーでは、どれだけ魅力的な世界を構築できるかというところに大きなポイントがあると思いますし、既に数多くの作品で様々な魅力的な世界が描かれてきていると思うのですが、その中でもこの作品で描かれている世界は独特ですね。あらゆるものに神が宿っている北方の山岳地帯と、大河の神という唯一の神しか存在しないという南方の水の王国の設定には意表をつかれました。宗教として、同じ世界で一神教を信じていたり多神教を信じていたりというのはよくあることですが、この作品で描かれている世界では、実際に北の地には様々な神がいて、南には大河の神しかいません。そしてその大河の神は、北方の小川の女神<アニシュ>によると、恐ろしい老人で、様々な神々を毎日飲み込み食べ尽くしてしまうのだというのです。とても独創的。しかも小川の女神が泣いているからといって、大河の神が悪であるとは簡単には決めつけられません。神の描かれ方は多面的で、簡単には見切れない存在となっていますし、人間は迷いながらも自分にできることを模索し続けることになります。神のそれぞれの思いが絡まりあい、とても深いところで神と人の物語となっているのですね。素晴らしいです。
この「水の都の王女」で描かれているのは、ヘジとペルカルの出会いまでの物語。この続きが「神住む森の勇者」で、この2つの物語でようやく全ては完結するのだそうです。まだまだ分っていない部分も多く、これからどのように話が発展するのかとても楽しみです。


「神住む森の勇者」上下 ハヤカワ文庫FT(2006年1月読了)★★★★

ペルカルに剣を突き刺したゲーはその直後、首を刎ねられて死亡。しかし水の中に落ち、死の腹の中に飲み下されたはずのゲーは、稲妻のように明るい熱い光がその口から射し込んでいるのに気づきます。それはゲーが死んだ瞬間に水中から立ち上った炎の色。そしてゲーの身体に感覚が戻り、ゲーは宮殿の地下から脱出することに。一方戦いの後、ヘジはペルカルやヌガンガタらと共に平原で暮らす騎馬民族・マング族に身を寄せ、<馬の兄弟>の親族として暮らしていました。(「THE BLACKGOD」岩原明子訳)

「水の都の王女」の続編。引き続き、大河の神の血をひくヘジと、小さな神々のいる北方からやってきたペルカルが主人公ですが、新たにゲーも重要人物として加わり、主にこの3人の視点から物語が描かれます。この4冊でようやく1つの物語が完結。
自分たちの望みやそれが引き起こした結果に苦悩する2人。特にペルカルは子供っぽく、決定的に思慮が浅く、良かれと思ってすることが全て裏目に出て、結局周囲の人を死なせてしまうことになりがち。そのくせ認められたいという気持ちは強いのです。正直あまり魅力を感じられなかったのですが、その分やはりヘジが良いですね。ありのままを見て欲しいと常に願っているヘジは地に足がついた、しっかりした聡明さと強さを感じさせてくれます。本当は人間などどうでも良い神々同士の争いは、到底一筋縄でいくものではありませんし、そもそも神々の思考回路とは人間とはまた違うもの。人間にしてみれば当惑させられることも多く、そんな争いに巻き込まれてしまった2人は災難とも言えるのですが、そのような状況下でも自分にできる最良のことをしようと努力するヘジが素敵。そして今回も登場する図書保管室の主・ガーンはやはりいい味を出していますし、ヘジの忠実な召使、心優しい大男のツェムもいいですね。そして人間だけでなく、カラクを始めとした馬の母や女狩人、物語の中では剣の姿となっているハルカなどの小さな神々の造形もとても興味深かったです。
さらに「水の都の王女」でも、文字をみてヘジがその意味を想像する場面があり、まるで中国語の文字を見てその意味を想像しているようだと思いましたが、今回もマング語とノール語の共通点などが指摘され、その辺りでもこの世界の深みを感じさせられました。

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