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このページは、ハリイ・ケメルマンの本の感想のページです。

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「九マイルは遠すぎる」ハヤカワ文庫HM(2000年5月再読)★★★★★お気に入り

【九マイルは遠すぎる】…英文学教授・ニコラス・ウェルトは「推論は理屈に合っていても真実であるとは限らない」という論点から、郡検事である「私」の頭にふと浮かんだ「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない。ましてや雨の中となるとなおさらだ」という文章から推論を組み立てることに。
【わらの男】…町の有力者・リーガン博士の娘が誘拐され、雑誌の活字を切り貼りした脅迫状が届けられます。その脅迫状には明瞭な指紋が。誰もが犯人の指紋だと考えるのですが、ニッキィは、指紋はわざと残されたものであると考えます。
【10時の学者】…ニッキィに博士論文審査試験に招待された「私」。候補者の名前はクロード・ベネット、専門は18世紀のバイイントン文書。丁度英文科の教授2人がバイイントン文書をめぐって対立していました。しかしクロード・ベネットは試験に現れず、自室で殺されているのが発見されます。
【エンド・プレイ】…「私」と陸軍情報部のエドワーズ大佐は、協力してマクナルティ教授の殺害事件の調査にあたっています。しかし「私」とエドワーズ大佐が推理について話し合っている間に、現場の写真を見たニッキィはあっという間に解決してしまうのです。
【時計を二つ持つ男】…チザム博士が夏に出会ったのは、常に二つの時計を持って時間を気にしているサイラス・カートライトと甥のジャック。伯父に反感を持つジャックが、「階段から落ちて首根っこでも折ればいい」と言ったまさにその時、サイラス・カートライトは階段から落ちて死んでいたのです。
【おしゃべり湯沸し】…家の改造のために、「私」はしばらくニッキィの下宿の部屋に居候することに。コーヒー党で湯沸しを使う必要のないはずの隣の下宿人が、なぜお湯を沸かしているのかというところから、ニッキィは美術品の盗難事件を見抜きます。
【ありふれた事件】…気象台始まって以来の寒波による暴風雪がおさまった頃、雪の中から1人の男の死体が発見されます。名前はミスター・ジョン。被害者に恨みを持っていたという噂のテリー・ジョーダンが容疑者。テリーはミスター・ジョンのせいで1年間刑務所に入ることになり、しかもその間に同棲していたリリーをミスター・ジョンに取られていたのです。
【梯子の上の男】…歴史学科のジョニィ・バウマン教授が突然死。死亡した場所は大学の大学院寮の基礎工事現場。執筆の仕事で助教授であるボブ・ダイクスの家に向かうはずだったのに、なぜそんな所に近寄ったのか。しかもその日、ボブ・ダイクスは一日中町を出ていました。

元々は、ケメルマンが英作文の授業をしている時にインスピレーションを得たところから生まれたという作品です。思いついてから実際に物語になるまで、なんと14年もかかったそうなのですが、出来あがった作品はとても完成度が高く素晴らしいです。この中では、やはり表題作「九マイルは遠すぎる」のインパクトが強いですね。何の脈絡もなかったはずの1つの文章から、ニッキィは地理的・時間的条件を考察しながら全てを見抜き、なんと殺人事件まで解決してしまうのです。シャーロック・ホームズの、初対面の人間についての色々を見抜くワザは、実際にタネあかしをされてみると、ごく簡単なことの積み重ね。しかし、ニッキィの論理的推理は、タネあかしをされても、やはりすごいとうならされてしまいます。とてもキレのある作品で、1967年に書かれたという古さを全く感じさせません。


「金曜日ラビは寝坊した」ハヤカワ文庫HM(2000年5月読了)★★★★★お気に入り

「ラビ」とはユダヤ教の律法学者のこと。キリスト教の神父や牧師のような存在です。この地域のユダヤ教会に去年赴任してきたのは、若きラビ・デビッド・スモール。服装にはこだわらないし、髪はぼさぼさ、本に夢中になると他の事は目に入らず、時間や約束も忘れてしまうという学者肌の人物。ラビとしての威厳がなさすぎると否定的に考える人間も多い反面、ふとしたきっかけで彼の本当の人物に接した少数の人々は彼を絶賛。しかし教会のメンバーが来年度のラビとの契約について話し合っている時期に、なんと教会の敷地内で若い女性の死体が発見され、こともあろうにラビ自身が容疑者となってしまうのです。

とても気持ちの良い雰囲気を持った作品です。「屋根の上のヴァイオリン弾き」や「アンネの日記」などユダヤ人が中心となった話はいくつかありますが、その中でも親しみやすい作品なのではないでしょうか。ユダヤ教の人々の物の感じ方やごく普通の日常の生活についても分かるのが、とても興味深いです。
このラビは、見かけはともかく、とても真っ直ぐな頭の切れる人物。しかし一般信者にとっては、本人がどういう内面を持つ人物であるかはあまり関係なく、ラビには、朗々とした声で語る立派な押し出しのある人物であって欲しいのですね。作中でラビの妻も言ってますが、低い深い声でなければ神が心を動かさないというわけではないのに。しかしとても人の良い住民が多く、一旦自分が間違いであったと悟ると潔く態度を正すのが良いですね。ラビ自身も、殺人事件の容疑者となりながらも、特に態度を変えることなく理性的に事件を解決に導きます。
この作品はシリーズ物になっており、「土曜日ラビは空腹だった」「日曜日ラビは家にいた」「月曜日ラビは旅立った」「火曜日ラビは激怒した」「水曜日ラビはずぶ濡れだった」「木曜日ラビは外出した」とあるようなのですが、現在は本書以外は絶版となっています。それがとても残念です。

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