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このページは、ジョナサン・ケラーマンの本の感想のページです。

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「大きな枝が折れる時」扶桑社ミステリー(2001年6月読了)★★★★
33歳にして引退した小児専門臨床心理医・アレックス・デラウェア。悠々自適な生活を送る彼のもとに、ウェスト・ロスアンジェルス署のマイロ刑事がやって来ます。ロスアンジェルス郊外の高級アパートで、精神科医とその彼女が惨殺されるという事件があったのですが、犯人らしき姿を目撃したはずの少女が怯え切ってしまい、何も証言できない状態だというのです。渋るアレックスに、マイロは「言葉の専門家」として少女に話し掛けてやってほしいと依頼。そしてアレックスの調査が始まります。(「WHEN THE BOUGH BREAKS」北村太郎訳)

テーマは「幼児虐待」。題材としてはこれ以上ないほど重いのですが、しかしとても読みやすいので驚きました。専門知識の説明もとても分かりやすく、しかもくどくないのです。ケラーマン自身が、実際に臨床心理医として仕事をしていると聞いて納得。薬に関する考察や、患者と向き合う場面には説得力があります。
主人公であるアレックスは若くてハンサム、お金持ち。そして医者。優秀すぎて、若くして燃え尽きてしまったようなのですが、これ以上ないほどの設定です。非の打ち所がなさすぎるのが、逆に欠点かもしれませんね。しかしなんとも「良い人」。自分の命が危ない状態でも、きっちりと推理しています。相手の心をすばやく正確に読み取るのも、精神科医としての経験の深さによるものなのですね。下手な探偵よりも余程凄い名探偵ぶり。アレックスを取り巻く脇役たちも個性派揃いで、今後の展開がとても楽しみです。

「歪んだ果実」扶桑社ミステリー(2001年6月読了)★★★★
アレックスの元に、かつての同僚・ラウール・メレンデスーリンチからの電話が入ります。ラウールの担当している5歳の小児癌の少年・ウディ・スウォープは、現在の治療法をもってすれば、かなりの確率で治癒が見込める状態。しかしウディの両親は癌の治療を拒み、家に連れて帰ると主張しているというのです。ウディに治療を受けさせるよう、家族を説得して欲しいと頼まれたアレックスですが、説得を始める前にウディは病院の無菌室から誘拐され、スウォープ一家も忽然と姿を消してしまい…。癌の早期治療のために、アレックスはウディを探し始めます。(「BLOOD TEST」北村太郎訳)

小児門臨床心理医・アレックスのシリーズ第2作。
今回も幼児虐待が大きくとりあげられているのですが、前回同様非常に読みやすいです。むしろ前回よりも読みやすいかもしれません。今回のアレックスは、ロビンがいないせいか、前回と比べて少々冴えないようですね。しかし前作はスーパーマン的な活躍だったので、今回の方が、人間味があって良いような気もします。常に無意識のうちに利他主義に走ってしまう「良い人」アレックスも、今回は少し疲れていましたが、その方がむしろ自然。そして今回、ラ・ヴィスタの弁護士・エズラ・マイモンがいい感じです。頭が良く、話し方に無駄がない人は大好き。道順の説明が簡単明瞭で、しかも正確というのは、とてもポイントが高いです。そして彼がアレックスに食べさせるチェリモヤに興味津々。これはぜひ食べてみたいです。しかしノーナに関しては本当に可哀想ですね。こんなことが許されてもいいのでしょうか。それともアメリカでは、それほど珍しいことではないのでしょうか。これはかなりショッキングでした。

「グラス・キャニオン」上下 扶桑社ミステリー(2001年6月読了)★★★★★
午前3時。アレックスの元に一本の電話が入ります。それはかつてアレックスが臨床心理医として参加していた天才児プロジェクトの被験者の1人・ジェイミー・キャドマスからの5年ぶりの電話でした。しかし電話越しに聞くジェイミーの話は支離滅裂で、まるで精神異常者のよう。助けを求めているのは分かるものの、さっぱり要領を得ないままに切れてしまいます。なんとか病院の名前を聞き出したアレックスは、急いで病院へと向かうのですが、ジェイミーは看護婦に暴力をふるって逃亡した後。そして翌日、ジェイミーは世間を騒がせていた連続殺人事件の犯人「ラヴェンダー切り裂き魔」として逮捕されることに。(「OVER THE EDGE」北村太郎訳)

小児門臨床心理医・アレックスのシリーズ第3作。
今回アレックスを動かすのは、5年前のジェイミーに対する罪の意識。日本語のニュアンスではそれほど大したことがなさそうなのですが、実はこれが決定的。やはりアメリカでも微妙な問題なのですね。
ロスアンジェルスに住む、ありとあらゆる階層と人種がとてもリアルに描かれ、3作のうちで一番話に入りやすかったです。トリック自体も、とても用意周到。真相を知った時には本当に驚いてしまいました。話の展開からも全く目が離せなかったです。
このシリーズを訳している北村太郎さんという方は、日本語がとても上手な方なのですね。トラウマという言葉がまだ日本語として定着していない頃の訳なのに、今読んでも全く古さを感じさせないのがさすがです。「英語の文章を思い起こさせない訳」とあるのをどこかで読みましたが、正にその通りだと思います。翻訳物は日本語によって左右されますし、北村さんに訳されたこのシリーズは幸せですね。

「サイレント・パートナー」上下 新潮社文庫(2001年8月読了)★★★★★
恋人ロビンとの仲が上手くいかない時に、友人に誘われて出席したパーティーの席上で、アレックスはかつての恋人・シャロン・ランサムに再会。相変わらずの彼女の魅力に圧倒されて、ついまた会う約束をしてしまいます。翌日思い直してキャンセルの電話をするものの、しかしその直後、シャロンがピストル自殺したということを、アレックスは新聞で知ることに。シャロンの死に疑問を抱いて調べ始めるアレックス。しかし調べれば調べるほどシャロンの周りには不可解なことが。そして最後に暴かれた真実とは。(「SILENT PARTNER」北村太郎訳)

小児門臨床心理医・アレックスのシリーズ第4作。
恋人ロビンとの仲があまり上手くいかないのは、ロビンが気に入っている私としては、あまり嬉しくないのですが、この作品ではシャロンの存在感がすっかり他を圧倒しています。外見こそ魅力的なものの、謎と嘘の多いシャロン。初めは、アレックスが綺麗なだけで頭の空っぽな女性に引っかかったのかと思ったのですが、実はシャロンは成績は全優という優秀な人間。しかしそれにしては言動が妙。その理由は、読んでいるうちに徐々に明らかになっていきます。やはりこういう場合こそ、精神科医の存在が大きな意味を持ちそうですね。日本での状況を考えるとあまりぴんとこない部分もあるのですが、ここまでくると正常な人格を持ちつづけるのは大変なことかもしれません。人間の暗部を否応なく覗き込まされてしまったような…。スリリングで、意外な展開を見せてくれる作品でした。

「プライヴェート・アイ」上下 新潮社文庫(2001年8月読了)★★★★★
アレックスの元に、昔の患者・メリッサからの電話が入ります。アレックスの治療を終えて早9年、彼女は既に18歳となっていました。メリッサの相談の内容とは、ハーバード大学に受かったものの、母親をおいて家を出て行くことに不安があるということ。メリッサの母親・ジーナは、以前はハリウッドの美人女優だったのですが、別れた恋人に顔に酸をかけられて以来、広場恐怖症となり、屋敷から出られなくなってしまっているのです。9年前の治療の時もジーナと会えず仕舞だったアレックスは、今回彼女との面談に遂に成功します。(「PRIVATE EYES」北村太郎訳)

小児門臨床心理医・アレックスのシリーズ第6作。
当時7歳だったメリッサの病名は「恐怖症」。何もかもが怖くてたまららないという病気です。恐怖の対象の中には、母親に酸をかけた張本人・ジョエル・マクロスキーの姿らしきものもあります。なぜメリッサがマクロスキーの存在を知ったのかは分かりませんが、ふと耳に入った話や小さな出来事が、子供にとって恐怖の対象となってしまうことは十分考えられますね。そういう意味で、冒頭のメリッサの治療の場面にはリアリティがあって興味深いです。パニックに陥った時の、紙袋に口をつけて呼吸する方法も役に立ちそうです。こういう場面を見ると、なぜアメリカでこれほどまでに精神科医が流行るのかが分かるような気がします。日本なら、まず友達や家族に相談しそうなものですが、アメリカの方が、もっと色々な意味で複雑で、簡単に対処できないことも多いのでしょうね。だからこそ、それらの複雑さが既に学問として確立されているのでしょう。
「少女ホリーの埋れた怒り」が入手できずに、1つ飛ばして読んでみたら、いつの間かアレックスとロビンが別れていたのには驚きました。しかもマイロも警察を休職中。しかし警察と離れたマイロの活躍ぶりにも注目です。初めは子供の心理的な症状、そして母と娘の関係へと話が進むものと思っていたのですが、物語は途中から思わぬ方向へと展開していきます。

「デヴィルズ・ワルツ」上下 新潮社文庫(2001年10月読了)★★★★★
アレックスは、ウェスタン小児病院の小児科医・ステファニー・イーヴスの要請で、1歳9ヶ月のキャシー・ジョーンズを診るスタッフに加わることになります。キャシーは原因不明の発作で入退院を繰り返しているのですが、いくら検査しても、どこにも異常が見つからず、スタッフはお手上げ状態。ステファニーから詳しい話を聞いたアレックスは、「代理人によるミュンヒハウゼン症候群」を疑います。これは親が自分に注目を集めたいがために自分の子供を病気に仕立て上げて、入退院を繰り返させるという一種の幼児虐待。アレックスは、まずキャシーとその両親に接触することに。(「DEVIL'S WALTZ」北沢和彦訳)

小児門臨床心理医・アレックスのシリーズ第7作。
今回のテーマは「ミュンヒハウゼン症候群」です。ただ単にこの病名だけだと「自分に注目を集めたいがために仮病を使ったり、自らを痛めつけて入退院を繰り返す」という一種の精神病なのですが、今回出てくる「代理人によるミュンヒハウゼン症候群」は、親が自分の子供を痛めつけたり病気にしたりするという、精神病が幼児虐待に発展したもの。そのほとんどは母が娘を利用するというケースなので、アレックスもまずキャシーの母親であるシンディを疑います。
このシリーズは毎回1つの大きな流れを中心に、いろいろな急展開を起こして緊張感を保つというストーリーが多いのですが、今回はかなりストレート。じっくりとミュンヒハウゼン症候群と向き合う時間がとれるため、気分的に落ち着いてストーリーを追うことができます。そして最後のマイロと犯人の対決もなかなか見事。意外な犯人に驚かされます。
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