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このページは、ロビン・ホブの本の感想のページです。

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「騎士の息子」創元推理文庫(2007年1月読了)★★★★★お気に入り
六公国の歴史書にそれぞれの出来事を書き記そうとするたびに、自分自身の歴史を思い起こしてしまう「わたし」は、仕事を続けることを諦め、今の自分を形作った全ての出来事を思い起こし始めます。「わたし」の一番古い記憶は6歳の時の出来事。ムーンズアイの貧しい農夫の家で育った「わたし」は、実は六公国の継ぎの王であり、高潔なシヴァルリ(騎士)王子の私生児。母方の祖父である農夫は、その町を訪れていたヴェリティ(真実)王子に子供を託し、それから「わたし」は王家の庇護の下で生きることになったのです。「わたし」はシヴァルリ王子の臣であるブリッチに預けられ、やがて一行と共に王都のバックキープ(牡鹿城)へと向かうことに。しかし「わたし」がバックキープ(牡鹿城)に到着する前に、私生児のことを聞いたシヴァルリ王子は王位継承権を放棄し、子供のいない妻・ペイシェンス(忍耐)と共にウィジウッズの領主となるべく宮廷を去っていたのです。名前のなかった「わたし」は「フィッツ(私生児)」と呼ばれるようになり、シヴァルリ王子を離れて厩舎頭となったブリッチに育てられることに。(「ASSASSIN'S APPRENTICE」鍛冶靖子訳)

ファーシーアの一族シリーズ第1弾。
「技」と呼ばれる力を持った遠視者(ファーシーア)一族の治める六公国が舞台の物語。既に老人となっているようなフィッツの回想録という形で物語は始まります。多少暗い雰囲気ではあるのですが、これは面白いですね。大人びて見えながらも、やはり6歳にすぎない子供の視点から王宮の表や裏のこと、そして下町のことが語られていき、架空のはずのこの世界が着実に構築されていくのを肌で感じることができます。そして、わずか6歳で権謀術数の渦巻く宮廷に投げ込まれ、リーガル王子や「技」の長・ガレンらの憎しみをぶつけられ、命を狙われ続けるフィッツも、敬愛するシヴァルリ王子の下を離れなければならなくなったブリッチも、いかにも幸薄い人物。しかし私生児として死ぬか、もしくは君主であり祖父でもあるシュルード(賢明)王に対して絶対的な忠誠を誓うかと二者択一を迫られるフィッツも、ブリッチの厩舎での仕事を手伝い、城の祐筆・フェドレンの仕事を手伝い、ホッドに武術を教わりながら、一方では暗殺者としてシェイドの技を伝授され、自分の道を歩いていくことになるのです。彼の一人称がこれほどリアルで読み応えがあるのは、おそらく彼が生まれながらに持ち、シェイドによってさらに訓練されたのであろう観察力や記憶力、そして自分自身で想像し考える力、それを理論整然と報告する能力が存分に発揮されているからなのでしょう。そしてフィッツの周囲にいる人物もそれぞれに個性的。特に国事に憔悴するほどであっても変わらず暖かさを見せるヴェリティ王子と、道化の謎めいた言動が印象的でした。
この物語で要となる「技」という力は、一種のテレパシーのような技術。通じ合わせれば、相手の考えていることが分かり、距離の離れた相手と言葉を使わずに思い伝えられるのはもちろんのこと、強力な力を持っている者は、相手にそうと悟らせずに相手の思考や行動を支配することができます。そして「技」と同じような技術としては、動物と思いを通じ合わせられる「気」というものもあります。フィッツは「技」の力も持っているようなのですが、こちらはなかなか上手くコントロールできないままになっており、むしろ強いのは「気」の力。しかし動物と思いを通じ合わせているうちに人間らしさを失ってしまうこともあり得るので邪悪な力とされており、フィッツの力に気づいたブリッチはその力を使うことを禁じています。しかし、今の所魔法的な力はこの2つのみのようですが、熔化された人々のこともありますし、まだ未知の力も存在しているのでしょうね。
この物語で描かれるのは、フィッツが6歳の時から14歳までの物語。ここから「帝王(リーガル)の陰謀」「真実(ヴェリティ)の帰還」へと続いていきます。

「帝王の陰謀」創元推理文庫(2007年1月読了)★★★★★お気に入り
山の王女・ケトリッケンとヴェリティ王子の婚約の儀式も終わり、衰弱しきっていたフィッツと怪我をしたブリッチ、ブリッチの下で働いているヘブンの3人を残して、六公国の一行、そして王女とその随行はバックキープへと向かうことに。ブリッチはやがて健康を取り戻すものの、フィッツはジョンクィの治療にもかかわらずなかなか回復せず、ようやく3人がバックキープへと旅立った時、ヤアンピは既に冬を迎えようとしていました。しかしバックキープに戻ったフィッツを待ち構えていたのは、前と変わらず自分に敵意を燃やしているリーガル王子だったのです。そしてヴェリティ王子がケトリッケン王女のために割く時間がなかなかとれないこともあり、ケトリッケン王女は孤独の中に取り残されていました。(「ROYAL ASSASSIN」鍛冶靖子訳)

ファーシーアの一族シリーズ第2弾。
邦題通り、リーガルの陰謀が張り巡らされていく展開。リーガルに毒を盛られたフィッツの身体の調子はなかなか戻りませんし、バックキープもシュルード王もすっかりリーガルの手に落ちており、その毒牙がじわじわと周囲に浸透していくのを手をこまねいて見ているだけ。リーガル王子の振る舞いが歯がゆくて仕方ありません。ヴェリティ王子の「旧きもの」の探索の旅も、リーガル王子にとって都合が良いとしか言いようのない状況。シヴァルリがかつてガレンに忠誠心を植えつけたように、ヴェリティがリーガルの憎悪を消すことはできなかったのか… と考えてしまいます。そんな状況の中で、これでもかと重ねられていくフィッツの薄幸ぶり。この巻でのフィッツは、ひたすらヴェリティ王子、そしてヴェリティが旅立った後はひたすらケトリッケンを支える影の存在。しかしそんな中でも、フィッツの心の安らぎがすっかり奪われてしまったわけではありません。この巻でフィッツを訪れた一番大きな変化といえば、狼のナイトアイズとの心の交流と、モリーとの純粋な愛情でしょうね。この2つのどちらもフィッツにとってはとても大きな心の支えとなっていますし、どちらが欠けてもその後のフィッツはいなかったのではないかと思うほど。前巻でも犬との関わりのことが描かれていましたが、今回はそれ以上にいいですね。このナイトアイズの「群」の観念が面白かったです。そしてなぜブリッチが気を使うことをフィッツに禁じるのかも、そろそろ分かりそうですね。
物語では、本領を発揮し始めたケトリッケンが素敵ですし、ケトリッケンとヴェリティの心が通じ合うようになる場面はとても感動的。リーガルに対するヴェリティの本当の感情が分かるのも、王の感情が垣間見えるのも嬉しいところ。そして謎めいた道化の言動も相変わらずで、興味をそそります。

「真実の帰還」創元推理文庫(2007年1月読了)★★★★★お気に入り
リーガルの拷問を受けたフィッツは牢の中で命を失い、その遺体を引き取ったペイシェンスが、遺体を清め傷に包帯を巻いて埋葬します。しかしその時、フィッツの「気」はナイトアイズと共にあったのです。フィッツの身体を取り戻し、フィッツに再び人間として生活させようとするブリッチとシェイド。フィッツも徐々に記憶を取り戻していきます。その頃、リーガルは王として即位、新たに王都となった内陸の町・トレイドフォードに君臨しており、ブリッチたちと別れたフィッツは、ナイトアイズと共にトレイドフォードを目指して旅を始めます。(「ASSASSIN’S QUEST」鍛冶靖子訳)

ファーシーアの一族シリーズ第3弾。
ブリッチがフィッツに気を使うことを禁じていた理由がここにきてはっきりと分かります。しばらくナイトアイズの中に入り込んでいたフィッツはまるで野生の狼。ブリッチはフィッツにこの苦しさを味あわせたくなかったのですね。ブリッチとシェイドの世話で、フィッツもようやく人間らしさをとり戻すものの、その過程の困難さには見ているだけでも苦しいものがあります。フィッツの人生それ自体もまだまだ困難の連続。いくら無事に生きていても、最早フィッツ・シヴァルリとしてはバックキープに戻れませんし、モリーが娘のネトルを無事に出産するという幸せな出来事がありながらも、フィッツは彼らを抱きしめることもできないどころか、技で彼らの姿を見ることも許されないのです。しかもフィッツの味方であるはずの人々ですら、六公国のためにフィッツの娘を犠牲にすることを考慮に入れているとは。フィッツが1人で背負わなければならなかったもの、そして諦めなければならなかったものが大きすぎて、本当に痛々しいとしか言いようがありません。しかしヴェリティのもとへの旅が始まってみると、そのような犠牲を払わなければならなかったのがフィッツ1人ではなかったということが分かり始めます。この最後の旅がフィッツ1人ではなく、様々な人々と共に歩む旅になった時は意外でしたが、不思議な老婆・ケトルや道化のことも良く分かる結果となり、それぞれの人物たちが抱える苦しみ、それぞれの払った犠牲が重なり合い、行く先に本当に希望が残っているのか、分からなくなってしまいそうなほど。
それでも、山の王国を越えた先の未踏の地の描写が良いですね。技の道や黒い柱、夢の中の世界のような不思議な町の情景。そして石の像。最後の連との戦いの場面にも、どこか幻想的な雰囲気がありました。そしてラストはハッピーエンドではないという意見が多数を占めそうですが、私としては物語の雰囲気とも合っていたし、なかなか良かったのではないかと思っています。
「技」や「気」についてもまだ分かっていない部分が多そうですし、「古き血族」についてもっと詳しく知りたかったのですが、とりあえず1部はここまでで終了です。今後のシリーズで明かされることもあるのでしょうか。まだまだフィッツと道化が登場し活躍するようなので楽しみです。
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