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このページは、マーク・ヘルプリンの本の感想のページです。

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「ウィンターズ・テイル」上下 ハヤカワ文庫FT(2006年12月読了)★★★★
19世紀末のニューヨーク。パーリー・ソームズ率いる盗賊団・ショート・テイルズ団に追いかけられていた泥棒のピーター・レイクは、絶体絶命のピンチに逃げ込んだ薪小屋の陰に、1頭の白馬がいるのに気づきます。この白馬はブルックリンの小さな板張りの厩から逃げ出し、マンハッタンへと駆けて来ていたのです。ピーターは駆け寄って来た白馬に飛び乗り、呆気に取られている追っ手たちを尻目に、猛烈な勢いで馬を走らせ逃げ去ります。(「WINTERS TALE」岩原明子訳)

とても不思議な物語。一言で言えば、時を超えた物語です。19世紀末のニューヨークと20世紀末のニューヨークを背景に、様々な人々が描かれていきます。しかし登場人物は非常に多く、しかもピーター・レイクとサン新聞の発行者・アイザック・ペン、そして娘のベヴァリーといった、明らかに主役級の人々はいいのですが、とてもそうとは思えない人々も、まるで主役であるかのように詳細に描かれているのです。主人公は一応ピーター・レイクだと思うのですが、この物語のことを考えようとしても、ピーター・レイク1人の姿が浮かんでくるわけではなく、ニューヨークに住む多くの人々の姿、ハーデスティ・マラッタとヴァージニア・ゲイムリー、ゲイムリー夫人、アズベリ・ガンウィロウとクリスティアーナ・フリーブルグ、パーリー・ソームズやゴースト新聞社のクレイブ・ビンキー、山男のジェシー、ベイヨン・マーシュの人々といった面々が同時に浮かんできます。やはりこれはニューヨークという街を主人公にした物語と考える方が相応しいのかもしれません。
ニューヨークを取り巻く白い雲が何なのか、なぜ地図には書かれていないコヒーリズ湖にはなかなか辿り着けないのか、という疑問を始めとして、様々な疑問がそのまま残ってしまったのですが、それでも読後には、とても美しい情景が残ります。やはり「ウィンターズ・テイル」という題名通り、冬の情景がとても印象的。特に雪に覆われたニューヨークのマンハッタンと凍りついたコヒーリズ湖ですね。厳しい冬の寒さは、現実の厳しさ同様人間にも辛く当たるのですが、それでもなにやらとてつもなく美しい情景として印象に残ります。やはりこの「冬」は人生そのものを象徴しているのでしょうか。そしてその冷たい空気の中、風のように空に舞い上がる白馬・アサンソー。どんな話だった、と説明するのがとても難しいし、自分でも理解しきれたとは思えないのですが、魅力的な物語ですね。いずれまた最初から読み返してみたいです。そうすれば、今よりももう少し理解できそうな気がします。
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