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このページは、アダム・ヘイズリットの本の感想のページです。

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「あなたはひとりぼっちじゃない」新潮クレスト・ブックス(2009年5月読了)★★★★

【私の伝記作家へ】…姪に借りた車で息子のグレアムに会いに行くフランクリン。息子が傍にいるといいアイディアが浮かぶことを懐かしく思い出すのですが、出迎えたのは息子の恋人の青年でした。
【名医】…フランクが訪れたのは、躁鬱を繰り返し、ほとんど診療所には来ないまま、いつも電話で薬の処方を頼んでくる44歳の女性。4年前に息子をなくして鬱になったのです。
【悲しみの始まり】…母が自殺して1年、交通事故で父が即死。「ぼく」はそのまま高校に通い続け、天使のように美しい少年・グラム・スレーターに惹かれます。
【献身的な愛】…幼い頃に母親を亡くしたヒラリーとオーウェンは、普通のよりも固い絆で結ばれている姉弟。ベン・ハンセンを迎えるためにヒラリーは念入りにパーティの用意をしていました。
【戦いの終わり】…1年前に職を離れてから気持ちが沈んで疲れ果てていたポールは、妻のエレンと共にスコットランドの海辺の町へ。エレンはここの大学の図書館に用があるのです。
【再会】… 司祭からの手紙が届き、不動産屋に勤めるジェームズは上司のサイモンに4週間の休暇を願い出ます。しかしそれは休暇ではなく、ジェームズはそのまま辞めるつもりだったのです。
【予兆】…寄宿舎学校で暮らすサミュエルは、ラテン語のジャヴィンズ先生のことで心を痛め、新しいラテン語の教師を見つけるのにどのぐらい時間がかかるだろうと考えていました。そして翌日。
【父の務め】…ダニエルが苦労して集めた記録。それはなぜ哲学を勉強しようと思ったかというインタビュー。その中にはダニエルと同様に精神を病んでいる父親のものもありました。
【ヴォランティア】…エリザベスのもとに7週間続けてやって来て絵を描いても構わないかと尋ねる少年。その少年の行動は、エリザベスに希望を与えることになります。
(「YOU ARE NOT A STRANGER HERE」古屋美登里訳)

不安定な精神、そして死。さらに男性の同性愛者。それらが全編通して濃く漂っています。それぞれに深い孤独を感じており、背負っているものも重いです。実質的に1人でいても、誰か愛する人間と一緒にいても、感じる孤独は同じ。ややもすると、愛する人と一緒にいるのに感じている孤独の方が、1人の孤独よりも一層深いなのかもしれません。ひりひりとした心の痛み、深い悲しみ、絶望。時には愛している人を傷つけていることもあるのですが、それが分かっていながらどうすることもできないやるせなさ。それでも彼らは作者の柔らかい視線に包み込まれている分、幸せかもしれない、なんてことを思ったりもします。作者の視線というフィルターを通して、彼ら1人1人が透明に柔らかく輝いているかのようです。訳者あとがきによると、精神を病む人間やゲイが多いのは、決してそういう人々をテーマにしているのではなく、アダム・ヘイズリット自身がゲイで、父親が精神を病んでいたので、そういう人々やその家族の気持ちを理解できるから、とのこと。そして「短篇小説は、登場人物の人生のなかでいちばん大事な瞬間をとらえることができる」と語っていたことが印象的。
この9編の中で私が特に好きなのは「予兆」。「私の伝記作家へ」「戦いの終わり」も印象深いです。「あなたはひとりぼっちじゃない」という題名から想像した作品とはまるで違いましたが、この題名通り、登場人物にそう言ってあげたくなるような作品ばかりでした。

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