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このページは、ニール・ハンコックの本の感想のページです。

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「竜の冬」 ハヤカワ文庫FT(2006年9月読了)★★★

夏の終わり。今年は厳しい冬になりそうだという予兆があちらこちらにあり、森の住民たちは冬に備えて忙しく働いていました。今年は<竜の冬>になる、そして<竜の吹雪>が襲うという噂もあったのです。しかしカワウソのブランブルだけは、そのような話が耳に入ってきても、冬のための蓄えに勤しむこともなく平気な顔をしていました。ブランブルは竜の冬を信じていないというわけではなく、誰1人見たこともない竜の冬について、噂以上のことを知りたいと思っていたのです。ブランブルが考えていたのは、同じ森に住む一番の年寄り・アナグマばあさんよりもさらに長く生きているという、クマのバーク老を探すこと。ブランブルは森の面々をアナグマばあさんの家に集め、自分と一緒にバーク老を探しに行こうと思う者がいないか尋ねるのですが、その時殺し屋オオカミたちの群れが襲ってきて…。(「DRAGON WINTER」中村妙子訳)


カワウソやアナグマ、モグラといった動物たちが主人公の冒険物語。殺し屋オオカミたちから逃れた動物たちは、滝の向こうに輝いているというエリノールトの三つ星に従って旅をすることになります。<光の輪>のシリーズと繋がった世界のようでもありますし、<光の輪>同様、やはりとても「指輪物語」的な物語ですね。<上つ国>にいるというハイ・クランたちは、まるでエルフのようです。
かつて動物たちの国には黄金時代があったといいます。それは誰も年を取らず、苦しまず、パンと蜂蜜が溢れ、種類の違う動物たちは睦み合っていた時代。人間すら、理性に従って平和に暮らしていた時代。しかしその時代もいつしか終わりを告げることとなり、動物たちはそのまま留まるか、故郷に帰るか選択することに。真理を知っている者は故郷に帰り、留まった者はやがて故郷のことを忘れ始め、さらに時が経つうちに喋るすべや道具を使う知恵、火を利用する力を失ってしまった… とのこと。その黄金時代に至る物語、黄金時代を失う物語を読んでみたくなります。
様々なことがそれぞれに何かの隠喩となっているのではないかと思いながら読んでいたのですが、訳者あとがきには「むずかしい理屈があるわけではないたのしい小動物たちの冒険物語」という言葉が。本当に特に深い意味はなかったのでしょうか。対立役の若いアナグマ・ブラックポーに関しては底の浅さを感じさせられてしまったのですが、読み終えてしまうとこれで良かったような気もしてきますし、主人公と言えるカワウソのブランブルやアナグマばあさんはいい味を出していました。ブランブルの子供のバンブルとビーヴァーの子供・キャベジも可愛いです。


「光の輪」1〜4 ハヤカワ文庫FT(2006年5月読了)★★

胸の奇妙な疼きに駆り立てられて、天の住まいから<時に先だつ世界>におりて行こうと思い立ったクマ、カリクス・ステイの川の向こうから何かがしきりに呼んでいるのを感じて、山の麓の家で旅支度を始めた小人のブロコ、ブロコに出会って、自分も出発の時だと悟ったカワウソ。ブロコとカワウソは<太陽の野>の果てのギルデン・ターンの湖のほとりでクマに出会い、一緒にカリクス・ステイの川を越えて<時に先だつ世界>へ。そして彼らはそこで、グリムワルドの長老・グレイファクスと、フェアリンゲイの長男でファラゴンともフログホーンと呼ばれる2人の魔法使いに出会います。(「CIRCLE OF LIGHT1-GREYFAX GRIMWALD」「CIRCLE OF LIGHT2-FARAGON FAIRINGAY」「CIRCLE OF LIGHT3-CALIX STAY」「CIRCLE OF LIGHT4-SQUARING THE CIRCLE」中村妙子訳)


光の輪4部作。「二人の魔法使い」「光の女王ロリーニ」「終わりなき道標」「聖域の死闘」の4冊です。
暗黒の女王・ドリーニと光の女王・ロリーニは、万物の主である<ウィンダメアの大帝>の双子の娘でありながら、敵対している関係。ドリーニは、元はロリーニのものであったオリジンとマルダンという2つの世界を冷たい氷の夜のうちに閉ざして支配し、現在ロリーニのいる<アトラントン地球>も半ば支配している状態。ドリーニは長い戦いの末に<時のはざまの世界>に幽閉されることになったものの、その魔の手を<アトラントン地球>に伸ばし… という構図。
とても「指輪物語」を連想させる物語。<神聖なる箱>は、まるで例の指輪のようですし、グレイファクスはガンダルフ、小人とカワウソとクマはホビットたちのよう。しかし1つの繋がった世界であった「指輪物語」に対して、こちらは上の世界と下の世界が分かれているという点が違います。その世界の構成も今ひとつ説明不足で全体像がなかなか見えて来ませんし、訳者あとがきには「ロリーニをも含めて、<光の輪>を構成する長たちは七人」とあるのですが、それについても本文中ではほとんど説明されることがなく、分かりにくかったです。<5つの秘密>についても同様。
それでも基本的にはまずまず面白く読めたのですが、過去・現在・未来のことが全て書かれている<黄金の書>が存在するという点にだけは、最後まで引っかかってしまいました。これは<ウィンダメアの大帝>の一の家来である<星の司>シーファスの持つ書。そういう書が存在するのは構いませんが、大抵のファンタジー作品では、何通りにも読み解けるような文章で書かれており、あまり未来は決まっている印象は受けません。しかしこの作品では、「サイベルさまがお戻りになることはわかっております。そう定められておりますから、ご心配には及びません。…(中略)…ご帰還のことは<書物>に記されています。」などという台詞が登場するのです。全てのことがそこに書き記されている通りに起きているのなら、未来の変わる余地はあるのでしょうか。いくらそれぞれの人間や動物が自分の役割を果たすことが世界にとって大切とはいえ、それではただの盤上の駒。<ウィンダメアの大帝>は人々を教育したかっただけなのでしょうか。その辺りだけは、どうも納得がいきません。

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