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このページは、バーバラ・ハンブリーの本の感想のページです。

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「闇の戦い-ダールワス・サーガ1」ハヤカワ文庫FT(2007年1月読了)★★★★
黒ずんだ見慣れない建築物のある都市で深夜慌てふためきながら逃げまどう人々。それはカリフォルニアの大学院で中世史を専攻しているジル・パターソンのみている夢。しかもジルは、自分が夢を見ているということをよく分かっていました。その夢の中でジルのことを見ることができたのは、魔法使いただ1人。同じように夢は間隔を置いて何度か続くうちに、ジルはその夢が単なる夢ではないことに気づき始めます。そしてある晩ジルがふと目覚めると、アパートの台所のテーブルには夢の中で出会った魔法使いが。それはインゴールド・イングローリオン。彼が望んでいたのは、ジルも夢の中でみたダーレ家の末裔の赤ん坊・アルティル・エンドリオン王子を安全な場所に移したいということ。このアパートでは危険すぎると言われたジルは、バーストウの近くの小屋を提案します。そしてインゴールドがアルティルを連れて小屋に来た日、ルーディ・ソリスという自動車整備工の青年も偶然その小屋にやって来ていたのです。2人は異世界に3000年ぶりに現れたという暗黒の生き物との戦いに否応なく巻き込まれることに。(「THE TIME OF THE DARK」岩原明子訳)

ダールワス・サーガ第1巻。
ダールワスという、中世ヨーロッパ的な異世界の王国を舞台にしたファンタジーです。王都・ゲイ、カルスト市、レンウェスというダールワス国の都市の描写を読んでいると、目の前に古い町並が浮かんでくるよう。石造りの重厚で陰鬱な雰囲気が、暗黒の生き物の存在と相まってとてもリアルです。宗教が政治の世界に入り込んでいるところも中世ならではですね。そして暗黒の生き物はどうやら肉体をもむさぼり食ってしまう時と、魂だけを抜き取って食べてしまう時があるようです。その2つの行動には、どのような違いがあるのか気になります。
この世界から異世界に入り込んでしまったのはジルとルーディの2人。異世界に入り込んだ女性が意外と良い剣士となるというのは、それほど珍しいことではないと思うのですが、研究者のジルが生まれながらの戦いの才能があると認められて衛兵となり、自動車整備工のルーディは魔法の力を見出して魔法使いの弟子に、そして王妃と恋に落ちるというのは、やはり一般的なファンタジーにはあまり見られない役割分担ですね。魔法使い・インゴールド、ミナルテ王妃とその息子アルティル、王妃の兄アルウィル、司教・ゴヴァニンと個性的な人々も揃っていますし、これからの展開が楽しみです。

「迷宮都市-ダールワス・サーガ2」ハヤカワ文庫FT(2007年1月読了)★★★
王都・ゲイからカルスト市へと逃げ出した人々は、そこでも暗黒の生き物に襲われて、レンウェスの砦・ダーレの城へ。インゴールドはルーディを連れて、王都・ゲイが陥落して以来連絡が取れないでいる魔法使いたちの都市・クオへと向かうことを決意。そこは古くから魔法使いたちが魔法や学問を学ぶ場所であり、そこにはインゴールドが息子のように信頼し愛しているという魔法使い会議の議長・ロヒロがいるのです。一方衛兵となったジルは、レンウェスの砦であるダーレの城を見るたびにその建築技術の高さに驚かされていました。怪我をして訓練も巡回も無理になったのをいい機会に、ミナルデの助けを得て城の秘密、そして3000年前に起きたことを知るために、教会の持つ古代の年代記を調べ始めることに。(「THE WALLS OF AIR」岩原明子訳)

ダールワス・サーガ第2巻。
既にダールワスの主要な都市は全て暗黒の生き物によって壊滅状態となっており、ただ1つ残ったのはレンウェスのみ。王妃ミナルデの兄である大法官・アルウィルが摂政となり、教会の司祭・ゴヴァニンと対立中。ルーディはインゴールドとクオを目指し、ジルはミナルデと共に城の内部を探ります。しかし展開としては、どちらかといえばゆっくりと言えるでしょうか。勢いに乗って読むタイプというわけでもなく、少し冗長に感じられてしまったのが残念。それともあまり登場人物に魅力を感じていないせいで、物語に入り込めていないだけなのでしょうか。
魔法使いについてのインゴールドの言葉が興味深いです。「魔法使いは良い人々ではない。親切な心が魔法使いの一番の特徴になることはめったにない。魔法使いの大半は悪魔のように高慢だ。特に数ヶ月しか訓練を受けておらぬ者は。だからこそ会議があるのだ。宇宙の道を変えられると知ったうぬぼれをへこますものがなくてはならぬ。」…これは他のファンタジー作品にはなかなか見られない論理ですが、とても説得力がありますね。

「光の軍隊-ダールワス・サーガ3」ハヤカワ文庫FT(2007年1月読了)★★★★
魔法の能力を持つ者たちが少しずつレンウェスに集まります。大法官アルウィルは王都・ゲイを暗黒の手から奪還するために、まず巣窟を偵察するために魔法使いたちを送り込むことに。ゲイにはインゴールドとルーディ、イピットのカラ、そしてクタ老人が送り込まれ、ペナンブラの巣窟にはソスが、レンウェスの20マイル北の暗黒の谷の巣窟にはレイダースのシャーマン「月の影」が、それぞれ頭となって送られます。それらの偵察隊と入れ替わるように、レンウェスの砦にはアルケッチ帝国の軍隊が到着。アルケッチ帝国とダールワス国の同盟のために、アルケッチの皇帝からの使者は世継ぎの妻にミナルデを要求。アルウィルはその結婚に乗り気になるのですが…。(「THE ARMIES OF DAYLIGHT」岩原明子訳)

ダールワス・サーガ第3巻。
この巻での白眉は、何といってもジルが暗黒の生き物について行う講釈。司教・ゴヴァニンから借りた古い文書を元にジルが暗黒の生き物の生態、現れた原因や条件を気象や地理的条件と絡めて考察し、推理していきます。そしてそれ以外の部分でも、前巻とは打って変わった怒涛の展開。しかも最後の最後まで物語は二転三転して、着地点をなかなか悟らせません。暗黒の生き物に関しても、ジルとルーディに関しても、ファンタジーには珍しい決着がつけられているのですね。これがこの作品の独特な部分であり、好きな人は堪らない部分なのでしょう。SFのような印象もあるファンタジーでした。
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