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このページは、バーナード・フィッシュマンの本の感想のページです。

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「自転車で月へ行った男」ハヤカワ文庫FT(2006年5月読了)★★★★
背丈が6フィート以上もあり、濃い黒いひげを生やし、黒いべっこうの縁のメガネをかけているにも関わらず、自分が透明人間になっていくような気がしてならないステファン・アーロン。ステファンはニューヨークでも一流のグラフィック・デザイナーであり、アパー・ウエストサイドの豪華なアパートメントで美しい妻・ドロシーと円満な家庭を築き、リバーサイト・パークを白い大きなグレート・ピレネー犬のサムと散歩をするのが日課。コネチカット州の農場やイタリアン・レッドのアルファ・ロメオを持ち、年に1度のヨーロッパ旅行が恒例となっているにも関わらず、ステファンは怒りも愛も寂しさも満足も何も感じないのです。そしてこの夏45歳になったステファンに、ドロシーは10段変速ギアのついた自転車をプレゼント。それはステファンが時々欲しいと思っていたもの。しかしステファンは上手く自転車に乗れなかったのです。ステファンはサムを連れてコネチカットの農場に移ることに。(「THE MAN WHO RODE HIS 10-SPEED BICYCLE TO THE MOON」山田順子訳)

人間は本当に自分の心1つで、幸せにも不幸にもなれるもの。心1つで、周囲の風景はまるで違った風に見えてきますし、その気になれば、いつでも新しい発見を見出すことができるはず。そして心を豊かに生きていければ、それまでとはまるで違う人生を歩めるはず。まだまだ男盛りと言える45歳のステファンなのに何事にも無感動になってしまったのは、愛犬・サムの年老いていく姿の中に自分を見てしまったからなのでしょうか。自分を束縛する物から解き放たれるために、一度は自分を取り巻く全ての物と決別し、サムだけを選ぶステファン。しかしステファンが信じたくなくとも、サムは確実に年老いており、最後は死を迎えることになります。それを目の当たりにしてしまったステファンは、若く美しいピアがいくら働きかけても、なかなか自分の殻から飛び出すことができません。しかし一旦飛び出すことができれば、そこには変わらないサムの姿があるのです。サムとの再会によって、ステファンは年を取って死ぬということが、寂しいことだけではないということに気づいたのでしょうか。色々と深い意味を内包していそうな物語です。
ステファンがこれからどのような人生を生きるにせよ、悔いのない実り豊かな人生が待っていることだけは確実でしょう。夜空を自転車で駆ける中年男性というのは、案外絵になるものですね。
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