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このページは、レイモンド・E・フィーストの本の感想のページです。

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「魔術師の帝国」ハヤカワ文庫FT(2006年11月読了)★★★★

1年が終わり、新しい年が始まる夏至の日。それは少年たちが1つ歳を取る日でもあり、大人への第一歩を踏み出す徒弟選びの日でもありました。クライディーのボリク公爵のお城に住む孤児・パグ、そしてパグと兄弟のように育ったトマスも14歳になり、徒弟選びで親方に指名される年齢となっていました。しかしその徒弟選びの場でトマスは希望通り武術長官のファノンに指名されるものの、パグは誰からも指名されなかったのです。公爵が行事の終了を告げようと時、そこに進み出たのは城の魔法使いのクルガン。クルガンはパグを弟子としてもらいうけることに。クライディーの砦を去らなければならないのかと思っていたパグはほっと安堵の息をつきます。それから1年半余りがたったある日のこと、トマスとパグは難破船と異国人を見つけます。それは異次元世界・ケレワンのツラニ帝国からやって来た人間だったのです。(「MAGICIAN」岩原明子訳)

リフトウォー・サーガシリーズの第1弾。
物語は、2つの世界が舞台となっています。1つはパグとトマスが住んでいるミドケニア。そしてもう1つはツラニ帝国のあるケレワン。2つの世界は空間に作られた「裂け目(リフト)」を通って行き来することができます。
まず感じたのは、「指輪物語」の影響。森に住む妖精はエルフそっくりですし、鉱山を掘る小人もドワーフそのもの。ゴブリンやトロルや竜も登場。力の指輪的な物も存在しますし、太古の昔には「混沌の戦い」という大きな戦いもあり、そこには邪悪な存在が…。いつから生き続けているのか分からない謎の多い魔法使いも登場。正直、あまりオリジナリティは感じられませんでした。
しかし「指輪物語」と違うのは、舞台がミドケニアとケレワンという異次元同士の2つの世界ということ。地球が異星人に攻め込まれるという物語はSF作品にもよくありますが、その場合、大抵はその異星は地球とは桁違いの高度な文明を持っているもの。しかしこの場合、ミドケニアとケレワンはそれぞれに独自の文明を持って発展し、両者の間には圧倒的な能力差があるわけではないというのが良かったです。いわば、中世ヨーロッパと中国のような感じですね。ミドケニアだけを舞台にしている間はそれほどでもなかったのですが、ケレワンも描かれるようになって俄然面白くなりました。特に面白かったのは、パグが「偉大なる者」に見出されてから。2つの世界の魔法のあり方もまるで違うようで、その辺りがとても興味深かったです。
ダーク・パス・ブラザーズと呼ばれる妖精とよく似たモレデール族に関しては、この物語ではあまりよく分からなかったのですが、シリーズが進めばもっと登場するのでしょうか。楽しみです。


「シルバーソーン」ハヤカワ文庫FT(2006年11月読了)★★★★

リアムが即位し、マーティンがクライディー公爵に、アルサがクロンドル公爵になって1年。リアムらと共に東方の諸侯と隣国を周り、ようやく諸島王国の首都リラノンに戻って来たアルサは、早速アニタに求婚し、2人はクロンドルで結婚式を挙げることに。しかしクロンドルに戻って来たアルサを待ち構えていたのは、邪悪な魔道師マーマンダマスの放った刺客だったのです。ある夜、仕事に出ていたジミー・ザ・ハンドがそれに気付き、アルサに注進。厳重な警戒態勢が取られる中で挙式が行われます。しかし既に宮殿に入り込んでいた刺客は、挙式の最中にアルサに向かって矢を放ち、それは花嫁のアニタに命中してしまったのです。黒魔術で調合された毒が塗られていたために、刻一刻と死に近づくアニタのために、面々は解毒剤を探して旅に出ることに。(「SILVERTHORN」岩原明子訳)

リフトウォー・サーガシリーズの第2弾。
前作はパグの成長物語がメインでしたが、今回はクロンドル公となったアルサが中心。リアム、アルサ、そしてマーティンの中では、一番頭は切れるけれども、少し扱いにくいと考えられている王子。1作目で実は一番気に入っていた人物なので嬉しい展開。
今回アルサの命が狙われたのは、魔道師マーマンダマスがアルサのことを予言に登場する「西部の支配者」とみなしたから。しかしなぜアルサなのか、その根拠が薄い気がしますし、悪の存在にしても、不気味ではあるのですが、存在感がやや薄いです。ブラック・レイクに行く辺りから緊迫感が徐々に増すものの、本当ならもっとのしかかってくるような迫力が欲しいところ。登場人物たち自身がそうだったせいもあるのですが、どうしてもアニタ姫のためのシルバーソーン探求の旅と、アルサの命を狙う動きが、分離して見えてしまうのですね。しかし、パグが移動してからの物語はやはりとても面白かったです。ケレワンでの描写の方がこれほど魅力的なのに、なぜミドケニアが舞台になると、ごくありきたりのファンタジーになってしまうのでしょうね。不思議なほどです。
物語はここで一段落つきますが、「魔術師の帝国」のように完結するわけではありません。3部作最終の「セサノンの暗黒」へと繋がっていきます。

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