Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、スティーヴ・エリクソンの本の感想のページです。

line
「黒い時計の旅」白水uブックス(2008年11月読了)★★★★★

ダヴンホール島のチャイナタウンで生まれ育ったマークの母は町で唯一の白人女で、父はおそらくゆきずりの白人男。生まれつき髪が月のように白かった少年が、母親の足元に見知らぬ男の死体が横たわってるのを見たのは19歳の時のことでした。マークはそのまま回れ右をして島を出て行きます。行くあてのなかったマークは、そのまま島と本土を行き来するジーノの小さい船を手伝うようになり、やがて亡くなったジーノの代わりに船頭となることに。毎日のように島に行きながら、決して島に降り立とうとはしないマーク。そして15年が経った時。ダヴンホール島にやって来た青いドレスの娘に心を奪われたマークは、娘がなかなか戻って来ないのに苛立ち、とうとう島に降り立って娘を捜し始めます。しかし娘は見つからず、マークは母に再会。そして15年前に死んだ男、バニング・ジェーンライトが自分の生涯を語る声を聞くことに。(「TOURS OF THE BLACK CLOCK」柴田元幸訳)

裏表紙に「仮に第二次大戦でドイツが敗けず、ヒトラーがまだ死んでいなかったら...」とあるので、てっきりヒトラーのif物、第二次世界大戦に勝利したナチスの勢力が全世界を巻き込んでいく話なのかと思ったのですが、違ったのですね。確かにヒトラーは生きているのですが、ヒトラーが中心となっているのではなく、あくまでも中心となっているのはバニング・ジェーンライトという男。物語の中にはいくつもの話の流れがあり、面白くてどんどん読み進めてしまうとはいえ、よく分からない場面もあり、一体それらのエピソードはどこで繋がるのか、果たして最終的に物語は最終的に一点に収束するのか、このまま読み続けても大丈夫なのか不安になってしまったほど。
しかしその不安も突然晴れることになります。あっと思った瞬間には、既に全てが繋がっていました。オセロゲームで、いきなりパタパタと駒がひっくり返って、黒一色に見えた盤上が白一色になってしまった時のような感覚。
ヒトラーのナチスドイツが負けた20世紀と負けなかった20世紀。2つの20世紀がパラレルワールドのように平行して独立して存在するのではないのですね。メビウスの輪のように、などという生易しいものではなく、2つの世界が入り乱れて捩れ絡まりあい、お互いに侵食し合っています。最後まで読見終わった途端に、また最初に戻って読み返したくなるような作品。全体像を掴んでから読み返したら、その構築の精緻さにまたもや驚かされてしまいそうな作品です。(しかし結局カーラは何者だったのでしょうか)

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.