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このページは、デイヴィッド&リー・エディングスの本の感想のページです。

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「銀狼の花嫁-魔術師ベルガラス1」ハヤカワ文庫FT(2007年1月読了)★★★★
ポルガラが双子の娘を産んだ夜。ベルガラスはビールを飲みながら、自分の子供が生まれた時に妻のそばにいられる幸せを語ります。ベルガラスの双子の娘・ポルガラとベルダランが生まれた時、ベルガラスはアルダー神に命じられて、チェレクとその3人の息子と共に<珠>を取り返すためにクトル・ミシュラクへと行っており、ベルガラスがようやく谷に帰って来た時、ポレドラは双子の娘を遺して亡くなっていたのです。ベルガラスの3千年の悔恨を聞いたダーニクとベルガリオンは、ベルガラスにこれまで体験してきた一部始終を聞きたいと言い出します。最初は何とか逃れようとしていたベルガラスですが、2人の根気強い説得、そしてポルガラとポレドラ、セ・ネドラに働きかけられてしまったことによって、不承不承自分の少年時代からの物語を語り始めることに。(「BELGARATH THE SORCERER」宇佐川晶子訳)

「魔術師ベルガラス」1冊目。「ベルガリアード物語」「マロリオン物語」の前日譚。「マロリオン物語」が終わったところから始まり、ベルガラスの回想という形で物語は進んでいきます。
まだ神々が地上を歩いて人々と暮らしていた頃。ガラという町で生まれたガラスという少年が、生まれ育った村を出て放浪の旅をしているうちにアルダー谷にたどり着き、アルダー神の弟子となり、神々の争いと<珠>に関わるようになっていった過程がこれですっかり分かります。もちろん「ベルガリアード物語」や「マロリオン物語」でもその断片は語られていますが、ようやく通して読むことができて感慨深いです。もう一度「ベルガリオン物語」から読み返したくなります。そしてベルガラスと共にアルダー神の弟子となるのは、ベルゼダー(アレンディア人)、ベルキラとベルティラ(アローン人の双子の羊飼い)、ベルマコー(メルセネ人)、ベルサンバー(アンガラク人)、そしてベルディンの6人。7人の兄弟のような交わりは何千年もの間続き、その結びつきの深さを考えると、ゼダーの行いの醜悪さ、そしてベルガラスが失ってしまったものの大きさが強く感じられます。それでも彼らがアルダー神の弟子になったいきさつや行ったことなど、人間以上に人間的な神々のことも含めて非常に面白かったです。しかし「ベルガリアード物語」でも「マロリオン物語」でも、予め定められている出来事に反発を感じてしまったのですが、こちらでもそれは同様でした。たとえば、なぜクトル・ミシュラクの場面でトラクが目覚めないと決まっているのでしょう。そしてトラクがルールを破ったからとその分ベルガラスが助けを得る場面も、「ルールが変わったから」という一言で片付けられてしまうのが少々不満。
ベルガラスの語り口は軽妙洒脱。読み始めた時は少々軽すぎるように感じられてしまったのですが、慣れてみればベルガラスが語り聞かせる物語をその場で直接聞いているような気分になれて楽しいですし、何千年もの歴史の重みも、不思議なほど親しみやすい物語となってしまうのですね。

「魔術師の娘-魔術師ベルガラス2」ハヤカワ文庫FT(2007年1月読了)★★★★
谷に戻ったベルガラス。ベッドに鎖に縛り付けられ、ベルガラスが自殺のために<意志>を集めようとするたびに見張っているベルディンと双子がその意志を容赦なくつぶすという生活が数ヶ月続き、ベルガラスはようやく鎖を外され、やがて正気を取り戻します。神々は去り、ポレガラもいない谷にいても辛いだけで未練もないベルガラスは、ポルガラとベルダランをベルディンに預けたまま、気の向くままの放浪の旅へ。しかし放蕩三昧の生活が12年ほども過ぎた頃、ベルガラスはベルディンによってアルダー谷に連れ戻されることに。(「BELGARATH THE SORCERER」宇佐川晶子訳)

「魔術師ベルガラス」2冊目。
今回中心となるのは、少女の頃のポルガラとベルダラン。この2冊目も後半になると少し違ってくるのですが、とにかく前半のポルガラは今のポルガラとはまるで雰囲気が違っていて驚かされます。今はベルガラスのことを「老いぼれ狼」と呼んでいてもそこには愛情が感じられるのに、この頃の言葉に感じられるのは、憎々しげな棘のみ。しかしここではポルガラよりも、最愛の妻を失ったベルガラスの喪失感に感情移入してしまいますね。そもそもベルガラスはポレドラの出産の時には谷を離れるつもりはなかったのですし、アルダー神に言われて心ならずもクトル・ミシュラクに行くことになったのですから、ポレドラの死に責任を感じて深い喪失感を味わい、その後自暴自棄になったベルガラスが、ポルガラにそこまで責められる筋合いはないと思ってしまいます。そしてポルガラが突然態度を変える辺りは、ベルガラス自身よく分かっていないこともあり、今ひとつ掴みにくいです。しかし一旦身なりに構うようになったポルガラが男性の目を惹くような美女に変身、ベルガラスがポルガラに言い寄る男たちを苦々しい目で見つめたり、ポルガラにジェラシーを感じる場面などはやはり楽しいですし、「ベルガリアード物語」や「マロリオン物語」にあるような2人の関係を築き上げるまでの苦労が分かってみると、2人の会話にもこれまでとは違うものが感じられてきそうです。
「ムリンの書」「ダリネの書」、そしてトラクによる「アシャバの神託」が書かれたのはこの頃。そういう流れが分かるのも楽しいですね。

「王座の血脈-魔術師ベルガラス3」ハヤカワ文庫FT(2007年1月読了)★★★★
ゼダーに入れ知恵されたサルミスラは、手下に命じてリヴァの王・ゴレクを暗殺。危機一髪で難を逃れ、海の波間に浮かんでいたまだ幼いゲラン王子を助けたポルガラは、ゲラン王子を連れて身を隠します。その時から、いつか「神をほふる者」が生まれる日を待ち望んで、ポルガラがリヴァの後継者たちを育て続けるという仕事が始まったのです。ベルガラスは、トラクやその脅威を防ぐために、ベルキラとベルティラの手を借りて「ムリンの書」「ダリネの書」をつぶさに研究します。(「BELGARATH THE SORCERER」宇佐川晶子訳)

「魔術師ベルガラス」3冊目。
前の巻から「予言の時代」が始まり、2つの宿命の争い、そしてその最終的な対決となる「選択」が行われる場を作り出すべく、予め決められた運命をなぞるためにベルガラスやポルガラが奔走することになります。自然のまま放っておいたら、あの面々は世界に生まれることはなかったのかという疑問は相変わらず残るのですが、それぞれの祖先が登場する場面も楽しいですね。
最初の2巻では、どちらかといえばベルガラス本人や周囲の人々に対する興味が、この世界そのものに対する興味を上回っていたように思うのですが、この巻ではボー・ミンブルの戦いのような、世界そのものの動きに焦点が移っているように思います。リヴァの後継者たちのことも描かれていますが、それはあくまでも「リヴァの後継者」としての存在意義のような気がしますね。カラクとエリオンドのこともそうです。彼らが対照的な存在だというのは今まで考えてもいなかったのですが、言われてみるとまさにその通りで面白いです。そして終盤に近づくと、ベルガラスたちの苦労が実り、「ベルガリアード物語」に登場する面々がようやくこの世に現れ始めます。
この3冊の次に刊行された「女魔術師ポルガラ」の3冊は、この「魔術師ベルガラス」の2冊目3冊目の物語と合わせ鏡のような物語になるのでしょうか。ベルガラスとのことやボー・ワキューンのことなど、ポルガラの視点から見ると今度はどんな物語が見えてくるのでしょうか。ベルガラスが語らずに済ませてしまった部分も多そうで、とても楽しみです。

「運命の姉妹-女魔術師ポルガラ1」ハヤカワ文庫FT(2007年1月読了)★★★★
セ・ネドラの勢いに押されるように、ベルガリオンは王妃と2人でアルダー谷へ。セ・ネドラはポルガラに、ベルガラスが語らなかったことを聞かせて欲しいと頼み始めます。最初は渋るポルガラでしたが、セ・ネドラはポルガラの母・ポレドラをも味方につけ、これまでの歴史をきちと知ることが、これからの<珠の守護者>たちに重要であることを理由に説得し、ポルガラに語らせることに成功します。ポルガラの一番古い記憶は母の胎内にいた頃のこと。狼であった母が、自分の双子の娘たちには狼ならではの本能が欠けていることに気づき、胎内にいる間に教育を始めても良いかと<師>に相談したのです。ポルガラとベルダランは胎内で母とアルダーの教育を受け、元々「ひとつ」だった2人は、それぞれの存在意義のために「ふたり」になることに。(「POLGARA THE SORCERESS」宇佐川晶子訳)

「女魔術師ポルガラ」1冊目。
ポルガラの言う通り、「そもそも、“本当に起きたこと”がひとりの人間によって説明されうると考えるほうが、ばかげている」わけで、今回ポルガラの立場からこれまでの歴史が語られることによって、ベルガラスの語る大きな流れとしての歴史に、様々な出来事が細かく肉付けされていきます。ポルガラが赤ん坊の頃からベルガラスに反抗的だった理由も、ポルガラの飲み込みの良さも、これを読めば納得。ベルガラスはポルガラとポレドラが定期的に連絡を取っていたのだろうとは考えていましたが、まさかポレドラがこのように干渉していたとは考えもしなかったでしょうね。読んでいても驚きました。父ベルガラスに対するポルガラの感情や態度の変化も、ポルガラの物語を聞いて初めて納得できるもの。やはりこの2つの物語は合わせ鏡のように存在しているのですね。
ポルガラとベルダランとの絆の深さ、ポルガラと木、そして鳥との交流なども、ベルガラスには決して語りえないもの。そしてポルガラを巡る男性たち。ベルガラスの視点からは、「あのブロンドの背の高いの」で終わらせられていますが、初代のブランドとなった金髪のカミオン男爵はとても魅力的です。物事をその全体像から捉えているベルガラスと、女性らしい濃やかさでその細部を捉えているポルガラとでは、おのずと語る物語も変わってくるというものですね。

「貴婦人の薔薇-女魔術師ポルガラ2」ハヤカワ文庫FT(2007年1月読了)★★★★
クトゥーチクがアレンディアで企んだ陰謀のことを聞いたポルガラは、早速ボー・ワキューンへと向かいます。そしてボー・ワキューン、ボー・アスター、ボー・ミンブルの3つの公国が、クトゥーチクの手下のマーゴ人にいいようにされるのを防ぎ、世に言う「ポルガラの平和」を確立。感謝した3人の公爵たちから得た謝礼によって、ボー・ワキューンに屋敷を構えてそこに本拠地を置くことに。さらにボー・アスターのネラシン公爵によって誘拐されたボー・ワキューンのアレラン公爵の幼い息子カサンドリオンを取り戻したポルガラは、アレラン公爵とボー・ミンブルのコロリン公爵の手によって、アレンディアの4つ目の公国を贈られ、エラトの女公爵という爵位を手にすることになります。(「POLGARA THE SORCERESS」宇佐川晶子訳)

「女魔術師ポルガラ」2冊目。
これまでにもポルガラのボー・ワキューンへの想いが垣間見えることはありましたが、それが克明に語られるのはこれが初めて。大理石でできた美しい都・ボー・ワキューンと、そこで暮らした600年ほどの年月。そしてこの町で出会うことになった人々。この歴史があったからこその思い入れだったのですね。ボー・ワキューンもエラトもかつての華やぎを失い、今はセンダリア王国となってしまっているのですが、そこに住む人々はポルガラ自身が育てた子供たち、そしてその子孫とも言えるような人々。
ここで強く感じるのは、やはりポルガラとそれぞれの時代の人々との結び付きの強さです。ベルガラスは人間の寿命を運命だと割り切って考え、親しい人間を失ってもそれほど打撃を受けないように、予め慎重に距離を置いているように見えますが、ポルガラはそうはいきません。少年のように茶目っ気のあるカサンドリオン公爵、機転の利く黒髪の伯爵令嬢・アスラナ、その結婚相手となるマンドリン男爵、ボー・ワキューンの家の修理をきっかけに知り合ったキレーン、最後の名誉の騎士となったオントローズ… ポルガラの人々との交わりはベルガラスよりも濃く、それだけ愛される喜びも深い代わりに、失った時の悲しみも深いということがよく分かります。そしてこの巻の後半からは、リヴァの後継者たちを守り育てていく仕事に専念することになるポルガラ。やはりアルダーの弟子たちはそれぞれに違う役割を持っていることを強く感じますし、「魔術師ベルガラス」と「女魔術師ポルガラ」とでは、男性と女性ならではの語り方の違いもよく出ていると思います。

「純白の梟-女魔術師ポルガラ3」ハヤカワ文庫FT(2007年1月読了)★★★★
リヴァの後継者たちを長年に渡ってセンダリアに隠してきたポルガラ。しかしクトゥーチクはそのパターンを見抜き、ポルガラとリヴァの後継者を本格的に狙い始めます。ポルガラはベルガラスの指示によってセンダリアを出てドラスニアのコトゥへ、やがてボクトールへと移り、次はチェレクへ、そして母の指示に従ってアルガリアへ。(「POLGARA THE SORCERESS」宇佐川晶子訳)

「女魔術師ポルガラ」3冊目。
すっかりリヴァの後継者を育てる仕事に専念しているポルガラ。ベルガラスはポルガラが名づけに関してあまり独創的ではなく、6つほどの名前のバリエーションを順番につけてきたのは「ポルガラのへまだよ」とまで書いていましたが、ポルガラは十数世紀を通して1ダースほどの名前を使いまわすことによって「継続性を意識し、人知れず生きることを余儀なくされているちいさな家族を守らねばならないという気持ちを新たにしてきたのだ」と言っています。やはりこういうところにも2人の認識の違い、そしてやらねばならない仕事の違いが分かりますね。そしてポルガラは、来るべき「神をほふる者」が生まれる時に備えて、人種的な違いをも考えた上で移住し、教育もそれとなく施しています。リヴァの王となるには、チェレクの狂戦士のように邪魔者を滅多切りにしているのも相応しくなければ、アルガリアの馬追いのように独立心が強く自由すぎるのも相応しくないのですから。14世紀もの間、いつか生まれる「神をほふる者」を待ち続けたポルガラにとっては重要な問題ですが、もしベルガラスがリヴァの後継者を育てる役割を与えられていても、おそらくこういったことには気が回らなかったでしょうね。
この巻の後半で、「ベルガリアード物語」に登場する人々が徐々に生まれ始めます。ガール・オブ・ナドラクでのポルガラの姿は、今まで料理好きで子育て上手といった家庭的な部分が前面に来ていたポルガラが弾けていて楽しかったですし、ベルガラス側からポルガラ側から書かれているのを読み比べてみるのも面白かったです。ファルドー農場でのダーニクとの初めての出会いの場面があるのも楽しいですね。「魔術師ベルガラス」も「女魔術師ポルガラ」もファンサービス的な作品で、本編に比べると出来はやや落ちると思うのですが、これまで知りたかった部分が色々と分かって面白かったです。
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