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このページは、エドワード・イーガーの本の感想のページです。

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「魔法半分」ハヤカワ文庫FT(2006年5月読了)★★★★
30年ほど前のある夏の日。アメリカのトレドという町のメイプルウッド通りに住んでいるジェーン、マーク、キャサリン、マーサ4人の子供たちは、いつものように4人だけで夏休みを過ごしていました。子供たちのお父さんは既に亡くなっており、お母さんは新聞社勤務で忙しいため、子供たちの世話をみているのは、毎日やって来るビックさんという女性。しかしビックさんは4人をどこかに連れて行こうなどとは決して考えなかったのです。ある日、図書館から借りてきたE.ネズビットの「魔法の城」を夢中になって読み終わった子供たちは、なぜ自分たちに魔法が起こらないのだろうと考えます。そして翌朝、胸がときめくようなことは何も考え付かず、何も起こらないことにうんざりしてしまったジェーンが、いっそのこと火事でもあればいいのにと大声で叫んだ途端、4人が聞いたのは消防自動車のサイレンの音でした。(「HALF MAGIC」渡辺南都子訳)

魔法のコインを拾った4人の子供たちが巻き起こす騒動の物語なのですが、子供たちが好きなE.ネズビットの「砂の妖精」みたいな雰囲気ですし、ここには登場しませんが、H.ルイスの「飛ぶ船」のようでもあります。冒険をするのが4人の兄弟姉妹という部分も、伝統的なイギリスのファンタジーを受け継いでいますね。もちろん魔法が使えるようになるとは言っても、簡単に上手くいくわけではなく、この魔法のコインが叶えてくれるのは、願い事の半分だけ。これがとても面白いです。家に帰りたいと願ったお母さんは、気がつけば帰り道の途中に立っていますし、猫のキャリーは「アタシニャー、オニェガイ、ソトヘ、ニャク」などという人間と猫の中間のような言葉で話し始めます。マークが願った無人島に至っては、「無人」だけが叶い、「島」は叶っていない状態。4人が立っていたのは、砂漠の真ん中だったのです。どこかから家に帰るにも、「家までの二倍進むようにお願いします」と言って初めて、家まで辿り着けるという状態。「〜の二倍」という魔法のかけ方が少し安易な気もしましたが、それでもやはり面白かったです。冒険で訪れる先としては、キャサリンの希望で行ったアーサー王の世界が一番本格的で楽しかったですね。
短気な長女・ジェーン、論理的な長男・マーク、夢見がちな次女・キャサリン、甘えん坊のマーサという4人の組み合わせも良かったですし、お母さんが偶然出会うことになるスミスさんも素敵。こういった魔法の冒険に実の母親といった大人を引きずり込んでしまうのは、児童文学としては実はかなり珍しいのではないでしょうか。伝統的な形式を踏襲しているようで、新しい部分も併せ持った、なかなか意欲的な作品だと思いました。

「魔法の湖」ハヤカワ文庫FT(2006年5月読了)★★★
「魔法半分」の冒険から3週間後。子供たちは、お母さんと新しい継父・スミスさんと一緒に、家から50マイルほど離れた湖へと向かいます。生まれて初めての田舎での休暇にはしゃぐ子供たち。ようやく山荘に到着し、水着に着替えると、山荘専用の湖の浜へ。ひとしきり泳いだ子供たちは、今度は手漕ぎボートに乗り込み湖へ。そして途中で大きな亀を捕まえて山荘専用の浜に戻ってくることに。そして山荘の表札に<魔法の湖>と書かれていたという話になり、魔法を期待するキャサリンに対して、マークはそんなことには何も意味はないと馬鹿にしたように言い、「これが本当ですようにって、お願いしたいなあ」というマーサの言葉に、「あたしが、しっかりお願いするわよ」とジェーンが約束。そしてその言葉に応えたのは、「さあ、望みはかなえられたよ」という声でした。(「MAGIC BY THE LAKE」渡辺南都子訳)

「魔法半分」の続編。
今回はコインの魔法ではなく、湖の持つ魔法。亀が魔法をかなえた途端、湖の魔法は全て4人の子供たちのものになります。しかし今回の問題は、その魔法がいつ叶うか分からないということ。同じように水の中に手を入れて願い事をしても、叶うかどうかは分からないのです。それでも子供たちは突然人魚と一緒に湖の底に行ったり海賊船に乗り込んだり、渡し板から突き落とされて亀になったり、ダンスパーティで16歳の大人になったり、大忙し。
「魔法半分」と違い、半分しか魔法が効かないというような制約はなく、子供たちが逆に自分たちで「3日おき」などの制約をつけようとするのですが、例によってなかなか思うようには上手くいきません。そういう意味では、「魔法半分」の、伝統に則りながらも斬新だった部分を失ってしまったような気がしてしまい、少し残念です。「魔法半分」には教訓めいた部分もありましたが、子供たちの成長という意味では自然だったと思いますし、この「魔法の湖」ではむしろ、3つの願い事に失敗してしまうおとぎ話のパターンのように感じられてしまいました。キャサリンやマーサの未来の子供たちが登場するという趣向も、それらの子供たちが活躍するという未訳の長編を読んでいないせいか、中途半端にしか感じられませんでしたし…。それでも最初に亀に会った時の湖の描写が、想像するだけでも魅力的でしたし、アラビアンナイトのような物語の中に入り込んでしまう冒険も面白かったです。機嫌を損ねながらも湖の魔法と掛け合ってくれる亀は、意外と人情的で楽しいですね。
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