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このページは、ゴードン・R・ディクスンの本の感想のページです。

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「ドラゴンになった青年」ハヤカワ文庫FT(2006年3月読了)★★★★★

ジムことジェームズ・エッカートは、リバーロック・カレッジで史学教授・シーボルト・ショールズ教授の下で助手をしながら講師を目指している26歳。恋人は、同じくリバーロック・カレッジでグロットウォルド・ウェイナー・ハンセンの下で助手をしているアンジー・ファレル。2人は結婚をしようと約束をしていましたが、安いサラリーのためなかなか家が見つからず、しかもアンジーは毎日のように超過勤務で、デートもままならない状態。そんなある日、約束の時間になっても出て来ないアンジーを迎えにグロットウォルドの研究室に入ったジムは、アンジーの姿が椅子から消えうせるのを見て驚きます。それは、かねてからアンジーが話していた霊体投射実験。アンジーを返せと憤るジムに対し、ただ1つのチャンスはジムが同じ機械で意識だけアンジーの元へ飛び、アンジーを催眠術で呼び戻すことだと答えるグロットウォルド。ジムは早速アンジーの座っていた椅子に座って頭にフードをかぶせて意識を集中。そして気づいた時、ジムの意識はなんと、ゴーバッシュというドラゴンの中に入り込んでいました。(「THE DRAGON AND THE GEORGE」山田順子訳)

1977年度の英国幻想文学賞受賞作品。中世のイギリスらしき場所に飛ばされてしまったジムが、アンジーを取り戻すために、魔法使いのS・キャロリナスの助言通りに仲間を集め、騎士のサー・ブライアン・ネビル=スミス、狼のアラ、弓矢の名人で美貌のウォルドのダニエル、同じく長弓の射手・ヒウエルのダフィッド、ゴーバッシュの大伯父スムルゴルらと共に、不吉の塔にいる「暗黒の力ある者たち(ダーク・パワーズ)」を滅ぼすという正統派のファンタジーです。
いきなりドラゴンの身体の中に入ってしまい戸惑うジム。しかしジムが徐々にこの世界に馴れていくと共に、読者もこの世界に馴染んでいけるので、とても物語に入りやすく、読みやすかったです。それに何よりも登場人物たちが魅力的。特に魔法使いのキャロリナスや、彼と一緒にいる姿の見えない「勘定の係」が面白いですね。キャロリナスは中世イギリスの魔法使いなので、ジムの説明する現代アメリカの状況は理解しがたいはずなのですが、意外とあっさりと納得してくれるのが本物の魔法使いという感じですし、そこに一役買っているのが、全ての物事を貸し借りで判断する理性的な「勘定の係」の存在。ジムとアンジーがこの世界に現れたことによって運命と歴史の均衡が狂い、それを戻すために手伝うという論理も納得できるもの。ただ悪を滅ぼすだけではないというのが良かったです。そして狼のアラも魅力的。普段は勇ましく近寄りがたい雰囲気を醸し出しているアラが、ジムとサー・ブライアンを砂の闇喰いから守ると誓いながら、対照的に美人のダニエルに擦り寄って撫でてもらっているところも愛嬌があっていいですね。中世騎士道の鑑のようなサー・ブライアンや、人の良い宿屋の主人・ディックもいい味を出しています。種族も気質も様々な寄せ集めの仲間なのですが、下手に同じ志を持たせず、それぞれの思惑の通りに進んでいくと最終的に目的が一致するという辺りも好み。聖ジョージに退治される竜の視点から描かれ、最終的には人間と分かり合えるというのも興味深いところでした。通常のファンタジー作品では、戦えば敵なしというイメージのあるドラゴンですが、湖沼地方のセコのように意外と意気地なしがいたりしますし、ジム自身も身体が頑強というだけで特に何の取り得もなく、周囲の人々のような死への覚悟が自分にはできていないと自覚するところが、この作品ならではですね。ラストも意外性たっぷり。
しかし零体プロジェクションとは一体何だったのでしょうね。そして「10月13日」という予言は成就したのでしょうか? 続きもあるようなので、ぜひ読んでみたいです。

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