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このページは、ジュノ・ディアズの本の感想のページです。

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「ハイウェイとゴミ溜め」新潮クレスト・ブックス(2007年6月読了)★★★★

【イスラエル】…夏休みになると、毎年田舎(カンポ)のオジさんの家にやられる9歳のユニオールと12歳のラファ。首都サント・ドミンゴのスラムとはまるで違う生活を、ユニオールは案外気に入っていました。
【フィエスタ、1980】…その年、マミーの一番下の妹のイルマがようやくアメリカに来てブロンクスにアパートを見つけ、みんなでパーティをしようと盛り上がり、家族でフォルクスワーゲンに乗り込みます。
【オーロラ】…いつものようにカットとサウス・リバーまでクサを仕入れに出かけたユニオール。その日の真夜中、1週間も会ってなかったオーロラが現れます。
【待ちくたびれて】…9歳まで父親を知らずに育ったユニオール。父親は4歳の時に仕事を求めてアメリカへ渡っており、母親がベッドの下に隠しておいた写真が1枚あるだけだったのです。
【ふり回されて】…2年前までは親友だったベートのエピソード。ベートは夏の終わりには大学に進むことにあっているのですが、その頃の2人は荒れまくっていたのです。
【ボーイフレンド】…クサのせいで夢遊病になったユニオールは、午前3時に下の階のカップルが大げんかしている音で目を覚まします。そのボーイフレンドは自分のスペースが必要だと言うのです。
【エジソン、ニュー・ジャージー】…ユニオールはウェインと組んで、ビリヤードの店の配達の仕事をしていました。そして配達に行った家で出会ったドミニカの女性が逃げ出すのを手伝います。
【ブラウン、ブラック、ホワイト、そしてハーフのGFとデートする方法】…母親とアニキがユニオン・シティのオバさんの家に出かけた後、ユニオールは色んな女の子とデートすることを夢想します。
【のっぺらぼう】…朝になるとマスクを被り、拳をもみ合わせるカレ。グアナバナの木で懸垂をし、コーヒー豆の脱穀機でトレーニング。そしてオジさんの農地を走りぬけてジャンプ!
【ビジネス】…ユニオールが4歳になる前にサント・ドミンゴを離れたパピー。パピーは娼婦と浮気しており、それを知ったマミーと大喧嘩になり、パピーはじいちゃんに会いに行きます。(「DROWN」江口研一訳)

ドミニカ共和国からアメリカに移民した作家・ジュノ・ディアズの自伝的短編集。それぞれの短編は時系列的に並んでいるわけではなく、主人公のユニオールは9歳だったりティーンエイジャーだったり、物語の舞台となる場所もドミニカ共和国の首都・サント・ドミンゴだったり田舎町だったり、ニューヨークのスラムだったりとランダムに入れ替わります。しかしそれがとても自然で、すんなりとその情景に引き込んでくれるのです。どの短編もきっぱりとした結末があるわけでなく、不思議な余韻が残ります。
冒頭のグスターヴォ・ペレス・フィルマトからの引用、「あなたにこうして 英語で書いていること自体 本当に伝えたかったことを 既に裏切っている わたしの伝えたかったこと それは わたしが英語の世界に属さないこと それどころか、どこにも属していないこと」が載せられています。この言葉はキューバの詩人の言葉なのだそう。しかし同時に、ディアズ自身の叫びでもあるのでしょうね。アメリカの大学や大学院に進学している以上、今は既に英語の方が堪能かもしれませんが、どんな風に書いても、英語で書いている以上、ディアズが話したり考えるために使っていたスペイン語とは異質なものとなっているのでしょうね。そのことを考えると、戦争のためにやむなく母国語を捨てたアゴタ・クリストフのことを考えずにはいられません。日々フランス語を使って暮らし、フランス語で執筆するアゴタ・クリストフ。彼女のように、ジュノ・ディアズもまた、自分の中から母国語が消えていくのを感じていたりするのでしょうか。しかしいくら上手に英語を話しても、英語は彼の母国語ではないのです。そしてそれこそが、この短編集に独特の雰囲気を与えているものなのかもしれませんね。

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