Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、アニータ・ディアマントの本の感想のページです。

line
「赤い天幕」ハヤカワepi文庫(2006年5月読了)★★★★★お気に入り
ノアから10代目のアブラハムと妻・サライとの間に出来たのは、イサクという息子。そしてそのイサクと妻・リベカの間に出来たのは、エサウとヤコブという双子の息子。そしてイサクはエサウを愛し、リベカはヤコブを愛していました。エサウから長子の権利を奪い、父・イサクからの祝福をも奪ったヤコブは、エサウの殺意から逃れるために、北のハランの地にいるリベカの兄・ラバンの下へと向かいます。そこでヤコブは美しいラケルに出会い、ラバンの4人の娘、レアとジルパ、ラケルとビルハを妻にすることに。4人の妻から無事に生まれた子供は13人。ヤコブの家は繁栄するのですが…。(「THE RED TENT」青木久恵訳)

旧約聖書の創世記に登場するエサウやヤコブ、そしてその妻や子供たちの物語。物語は「母たちの物語」「わたしの物語」「エジプト」の3章に分かれており、ヤコブが母・リベカの言葉に従って、母の兄・ラバンの住むパダンアラムに赴き、その娘たちに出会った所から始まります。聖書でいえば、創世記の29章から50章まで。物語の中心となるのは、ヤコブの唯一の娘・ディナ。
聖書のこのエサウとヤコブの物語、そして息子のヨセフやエジプトの王・パロの物語は何度も読んでよく知っていましたが、ディナに関しては、ほとんど印象にも残っていませんでした。改めて聖書を開いてみても、ヤコブやヨセフに関する記述は聖書にして40ページ弱あるのに対して、ディナに関する記述といえばほんの数行。これでは覚えていなくても無理もないかもしれません。しかし聖書の記述は元々男性中心なので、それでも女性としては多い方かもしれませんね。そしてそのほんの数行を元に書き上げられたのが、この「赤い天幕」。その数行から、1人の女性の生き様がこれだけ生き生きと浮き上がり、物語として再現されているのには驚きました。娘として、妻として、母として生きたディナの波乱万丈な人生が、力強く描き出されていきます。
ちなみに題名の「赤い天幕」というのは、女性たちが出産や月の障りの時を過ごす、「女性」を象徴するような場所。まだ大人になっていない少女が、早く大人になりたいと憧憬を持って眺める場所でもあります。もちろん住んでいる場所や民族、信仰する神によってしきたりは違うので、赤い天幕を持たない人々もいます。しかしだからこそ、ディナにとっては自分の家族を象徴し、自分のルーツを辿るような、大きな意味合いを持つ場所。さらにディナは成長した後、産婆をしていたラケルについて出産について学び、多くの女性たちの出産の介助をすることになるので、物語の中では、「生」や「死」についても繰り返し描かれることになります。数知れない女たちの出産場面と、生命の誕生の力強さ、そして常に存在する死への不安。そして産婆としてだけでなく、一族の見守り手となったディナの存在の大きさには圧倒されました。
Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.