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このページは、F・マリオン・クロフォードの本の感想のページです。

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「妖霊ハーリド」ハヤカワ文庫FT(2006年12月読了)★★★★★

イスラム教の第三天国、死の天使・イズライールがつかさどる宝石の天国に立ち、10ヶ月と13日もの間、イズライールが自分の方を向くのを待ち続けていた妖霊(ジン)・ハーリド。やがて聖夜(アル・カドル)が訪れ、一息ついたイズライールは巻物から目を上げてハーリドがいるのに気づきます。ハーリドが第三天国やって来たのは、神(アラー)の御心によってのこと。ナジド王国の世にも美しいジフワー姫の結婚相手の王子が嘘つきで偽善者と知ったハーリドが王子を殺し、しかし王子が実はイスラム教を信じるつもりもないどころか、ジフワー姫やその周囲の人々を異教へと改宗させようと企んでいたことを知った神が、ハリードに人間としての肉体を与えてジフワー姫と結婚させ、もし姫がハーリドへの愛に目覚めればハーリドは不死の魂を授けられ、愛に目覚めなければ地獄で焼かせることになったのです。(「KHALED」船木裕訳)

華麗なアラビアンナイトの世界。作品自体は100年以上前に書かれたものですし、言ってみればよくあるパターンではあるのですが、とても素敵でした。イスラム教の天国の描写はもちろんのこと、人間世界での物語もアラビアの夜の雰囲気がたっぷりです。
感情よりも理性が遥かに勝っているジフワー姫に自分を愛させることは、ハーリドにとって予想外の難問。ハーリドはまず戦争で勇敢に戦って勝利を収めて勇気と力を見せつけ、夥しい戦利品を手に入れてジフワー姫のもとに運び、さらには美しい女奴隷を使ってジフワー姫の嫉妬心を煽ろうとします。しかもその合間にジフワー姫に向かって愛について説いているのですが、これがなかなかうまくいきません。もちろん、最後にはハーリドが姫の愛情を得るのだろうというのは十分予測できるのですが、それまでの過程にイスラム教徒とその風俗や文化、世界観などが現れていてとても面白かったです。欲を言えば、ハーリドが妖霊だった時の場面を最初に少し見てみたかったですし、イスラム教の天国の描写をもっと読んでみたかったですね。しかしそういった場面のない今の状態の方が、全体的なまとまりとしては良かったでしょう。雰囲気に酔うことのできる作品です。

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