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このページは、ジル・チャーチルの本の感想のページです。

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「ゴミと罰」創元推理文庫(2006年12月読了)★★★★

夫のスティーブを事故で亡くし、15歳のマイクを筆頭に13歳のケイト、10歳のトッドという3人の子供を抱えて毎日てんてこ舞いの専業主婦・ジェーン・ジェフリイ。その日は、隣人であり親友のシェリイ・ノワックの家で夜パーティが開かれることになっており、ジェーンは割り当ての人参のサラダを作るために、走り回っていました。パーティに行く時にではなく、パーティの前にあらかじめ料理を届けておくのが、シェリイの家のパーティのやり方。その日はシェリイが空港に母親に会いに出かけるので、その間にシェリイの家の冷蔵庫に入れておかなければならないのです。そしてシェリイの家の留守番をしていたのは、<にこにこヘルパー>の掃除婦・ラモーナ・サーグッド。ラモーナが家の掃除をしている間にも、シェリイの家には、続々と料理が届けられます。ジルもなんとかシェリイの帰宅に間に合わせられてほっと一息。しかしジェーンが人参サラダを届けた数分後、シェリイが帰宅した時、ラモーナが2階の客用寝室で絞殺死体となっていたのです。(「GRIME AND PUNISHMENT」浅羽莢子訳)

主婦探偵のジェーン・ジェフリイが活躍するシリーズ第1弾。1989年度最優秀処女長編として、アガサ賞とマカヴィティ賞を受賞している作品。
女手1つで子供を育てる主婦が活躍するという意味でも、その主婦が少々おっちょこちょいで、体当たり式に行動するという意味でも、捜査に来た刑事とロマンスに発展しそうなところも、ダイアン・デヴィッドソンのクッキング・ママシリーズとかなり雰囲気が似ているような気がします。クッキング・ママのゴルディのリッチな親友・マーラは、こちらではお隣のゴージャスな主婦・シェリィ。どちらも周囲の人々を巻き込みつつ、賑やかに展開していくのが特徴ですね。訳者あとがきによれば、これはドメスティック・ミステリとのこと。コージーミステリと同じようなものなのでしょうか。日本でもアメリカでも、子育て中の主婦の生活がてんてこまいであることには変わりありません。それでもいかにもアメリカ的な家庭を築き上げているジェーンや、いかにもアメリカのティーンエイジャーらしい息子や娘、そして近所の面々とのやりとりも楽しい、テンポの良いシリーズです。
ジェーンが「あたし、推理小説をたくさん読んでるから、動機には詳しいの」と言っている割に、ユニフォームを着た人間は見分けがつきにくいというスージー・ウィリアムズの言うことを大発見のように考えているのが少々解せないですし、実際、その後の行動を見ていても、推理小説に詳しいとはあまり思えないのですが、それがまたユーモラスなところなのでしょうね。曲がりなりにもミステリに詳しいなら、犯人かもしれない人物に面と向かってこのような言動をするでしょうか!
シリーズの題名がそれぞれ有名文学作品のパロディで、それがまた上手く訳されているのも楽しいですし、登場するハンサムな刑事がメル・ヴァンダインという名前なのもにやりとさせられるところ。ただ、時々ジェーンの一人称のような記述がありつつ、あくまでもジェーンは第三人称で書かれているところに少々違和感を感じます。限りなく一人称的な三人称ですね。一人称では都合が悪かったのでしょうか?


「毛糸よさらば」創元推理文庫(2006年12月読了)★★★★
12月に入り、シカゴ郊外のジェーンのうちにやって来たのは、昔馴染みのフィリス・ワグナー。ジェーンはシェリイの車で空港に迎えに出向きます。しかしフィリスと一緒にやって来たのは、フィリスが今の夫のチェットと結婚する前に産んだというボビー・ブライアント。ボビーは金髪のハンサムながらも鼻持ちならない青年。フィリスとは数ヶ月前に再会したばかりで、フィリスはすっかり自分の息子に夢中になっていました。ジェーンとシェリイは傍若無人なボビーの振る舞いに呆気に取られることに。(「A FAREWELL TO YARNS」浅羽莢子訳)


今回は、クリスマスのバザーの準備と当日の慌しさの中に起きる騒動。バザーを控えた町の賑やかな様子と、それに伴う準備の大変さがよく伝わってきます。ジェーンの編んでいるひざ掛けが、それだけ編み物が苦手な人間が編んだにしては、見事な出来栄えとなったというのが不思議ではありますが…。しかしジェーンとシェリイ、そして子供たちの様子が、前作よりもほのぼのと伝わってきて良かったです。それにヴァンダイン刑事とも急速接近なのですね。特に何かが起きるわけではありませんが、前作に比べるとかなり打ち解けてきていて楽しかったです。やはり前作のように近所の人間、しかも友達が殺人事件の容疑者になってしまうよりも、今回のようにそこまで範囲が特定されない方が、全体的に雰囲気も明るくなり、このシリーズの良さが出るのかもしれませんね。そして伏線も十分あったとはいえ、終盤の流れには驚かされました。
確かにボビーの態度は悪いですし、その受け答えもひどいものですが、読者には、ボビーの周囲にいる人々が感じているほど、ボビーのひどさが伝わっていないような気もします。もう少しその辺りの描写に説得力が欲しかったところです。

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