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このページは、ジョン・L・キャスティの本の感想のページです。

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「ケンブリッジ・クインテット」新潮クレスト・ブックス(2007年6月読了)★★★★
1949年6月、政府科学顧問のベン・ロックスペイサー卿と国防省科学顧問のヘンリー・ティザード卿に、コンピュータの可能性について科学者に打診するよう依頼された、著名な作家であり物理学者でもあるC.P.スノウは、スノウの母校ケンブリッジ大学のクライスト・コレッジで非公式のディナーを開催します。招かれたのは、遺伝学者・J.B.S.ホールデイン、量子力学の研究で著名なノーベル物理学賞受賞者・エルヴィン・シュレーディンガー、20世紀で最大の哲学者の1人・ルードヴィッヒ・ヴィトゲンシュタイン、コンピューターの創始者とも言われる数学者・アラン・チューリングの4人。その晩、ディナーの席で5人の白熱の議論が繰り広げられることに。(「THE CAMBRIDGE QUINTET」藤原正彦・美子訳)

ここに書かれているのは架空のディナーの情景。それでも、実際には行われていないにも関わらず、ここでの白熱の議論は実際にあり得るものとして読めるところが興味深いです。中心的な議題は、機械は思考することができるか否かというもの。人工知能という言葉がジョン・マッカーシーによって使われたのは1956年のことなので、この議論の中での言葉はあくまでも「考える機械」止まりなのですが、実質的には「人工知能(AI)の可能性について」と言い換えられます。
好戦的なヴィトゲンシュタインと、内向的だが自信に満ちたチューリングの激しい議論が中心となり、穏やかなC.P.スノウが時折議論の筋道を元に戻しながら、シュレーディンガーとホールデインが自分の専門分野からの考察を挟んで、議論をさらに煽るという形式。中心となる議題がチューリングの研究分野なので当然かもしれませんが、チューリング対他4人といった図になることが多く、バランスが少々悪いような気もします。しかし学者たちの個性もきちんと書き分けられていて、掴みやすくなっていますね。それに理数系の専門知識はまるでないのですが、読む前に心配したよりも分かりやすくて面白かったです。訳者あとがきに、「精神と機械の本質を浮かび上がらせ、それらに関する知見を高校生にも分かるほど平易に解説」とあるように、入門的な本なのではないかと思いますし、この作品で人工知能に興味を持ち、より専門的な書に進む人もいそうです。果たして専門的な知識を持つ人にはどうなのか、聞いてみたいところです。そしてヴィトゲンシュタインという人は、この作品の中に登場するように、エキセントリックで好戦的な哲学者だったのでしょうか…?
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