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このページは、ジョナサン・キャロルの本の感想のページです。

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「死者の書」創元推理文庫(2007年5月読了)★★★★
高校の英語教師をしているトーマス・アヴィの夢は、マーシャル・フランスの伝記を書くこと。マーシャル・フランスはトーマスにとって、他の追随を許さない素晴らしい作家。9歳の誕生日に父親に「笑の郷」を贈られて以来夢中になり、手に入る限りの本を集め、フランスについての細かいことを色々と調べていました。ある日の午後、稀覯本を扱う書店に立ち寄ったトーマスは、何年も絶版になっていた「桃の実色の影」の初版が置かれているのを見つけます。しかしその本は既に買い手が決まっていました。トーマスは買い手の女性が来るまでその本を読み続け、35ドルの値段がついている本を100ドルで譲って欲しいと持ちかけます。それはトーマスと同じようにマーシャル・フランスの本を愛してきたサクソニー・ガードナー。2人はやがて一緒に組んでフランスの伝記を書くことを決め、フランスが亡くなるまで住んでいたミズーリ州ゲレインへと向かうことになるのですが…。(「THE LAND OF LAUGHS」浅羽莢子訳)

ジョナサン・キャロルの処女作。
最初のうちは緩やかな展開で、ごくゆったりと物語は進んでいきます。ここで語られるのは、主人公の父親へのコンプレックスと、マーシャル・フランスへの傾倒ぶり。ここで描かれているマーシャル・フランスの存在感は、本当にマーシャル・フランスという作家が実在していると思い込んでしまいそうなほどですね。「笑いの郷」「緑の犬の嘆き」「桃の実色の影」「夜がアンナに駆け込む」… どれも読んでみたくなってしまいます。特に読みたくなってしまったのは「笑の郷」。とても魅力的で、ジョナサン・キャロル自身に書いてもらいたくなってしまうほどでした。そして中盤、トーマスとサクソニーがゲレインに着いた頃からは、どことなく不安感が付きまとい始めることになります。これまで伝記を書こうとしていた人々にはけんもほろろだったはずのアンナが、なぜトーマスには親切なのか、ゲレインの人々と会った時にサクソニーが感じていたのは何なのか、町の人々が常に全てを知っているのはなぜなのか…。
ただ、トーマスとサクソニー、そしてアンナの関係に関しては今ひとつ感情移入できないままでしたし、ラストもやや無理矢理のような印象。もっと謎めかして欲しかった気がします。それでもラストの一文は圧巻。こうやって読ませてしまうのが、ジョナサン・キャロルという人なのかもしれませんね。
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