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このページは、トマス・ブルフィンチの本の感想のページです。

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「中世騎士物語」岩波文庫(2007年2月読了)★★★★

「アーサー王とその騎士たち」と「マビノジョン」、「英国民族の英雄伝説」という3章から、中世の騎士物語について語る本。あくまでもアーサー王伝説が中心ですが、「英国民族の英雄伝説」では「ベイオウルフ」「アイルランドの勇士キュクレイン」「油断のないヘレワード」「ロビン・フッド」という4人を簡単に取り上げています。(「THE AGE OF CHIVALRY」野上弥生子訳)

19世紀のアメリカの作家ブルフィンチによる、騎士道物語解説書。
まず冒頭には中世英国の歴史や社会的な状態、当時の騎士に関する簡単な説明があり、ここにはシェイクスピアで有名なリア王も登場。それからアーサー王伝説。これは明らかにマロリーの「アーサー王の死」を元にしたものでしょうね。そして「マビノジョン」、最後に「英国民族の英雄伝説」。「アーサー王の死」も「マビノジョン」も既に読んでいるので、特に目新しい部分はなかったのですが、それでも楽しめました。野上弥生子さんの訳文もとても読みやすいです。
野上弥生子さんがこの本や「ギリシア・ローマ神話」を訳されたのは、「西欧の芸術文化を理解するにあたって、なくてはならない知識を一般に与えたいためであった」のだそうです。そしてこの作品は、同じブルフィンチの「シャルルマーニュ伝説」と共に「一組となって神話篇と姉妹篇をなすもの」なのだそう。実際、ブルフィンチ自身も、イギリス文学をこれから読もうとするアメリカ人のために、気軽に基礎知識を得られる本としてそれらの解説本を書いたようです。確かに西欧の文学を理解するためには、神話や伝承、そして聖書に関する知識が不可欠。アメリカ人には聖書の知識はあるはずですが、それ以外のことに関しては、日本人とはそれほど差がないのかもしれませんね。やはり土地そのものに歴史的な深みがないというのは、想像以上に影響が大きいのでしょうか。騎士道物語や英国における英雄伝説に関する幅広い知識が得られる本書は、騎士道物語に関しても、あるいは西欧の文学への入門編としても最適だと思います。


「シャルルマーニュ伝説-中世の騎士ロマンス」講談社学術文庫(2007年2月読了)★★★

父ピピン3世の後を継いで768年にフランク王国の王位に付き、その後ローマ教皇によって西ローマ帝国の皇帝の位を授けられたシャルルマーニュ(カール大帝)は、その十二勇士と共に、「ロマンの歌」を始めとする様々な作品の中で歌われている人物。ここに収められているのは、15〜16世紀のルネサンス期にイタリアで作られたプルチ「大モルガンテ」、ボイアルド「恋するオルランド」、アリオスト「狂えるオルランド」という詩、そして「リナルド」「ユオン・ド・ボルドー」「オジエ・ル・ダノワ」という3つの武勲詩を元に、ブルフィンチが物語形式に書き上げたもの。サラセン人と呼ばれるイスラム教徒たちとの戦いや、個々の英雄たちの冒険、そしてロマンスが次から次へと描かれていきます。(「LEGENDS OF CHARLEMAGNE, OR ROMANCE OF THE MIDDLE AGES」市場泰男訳)

「大モルガンテ」は主にロンスヴァルの血戦を扱った作品。(「ロランの歌」と重なります) 「恋するオルランド」は時代を遡ってカタイ(中国)の美女アンジェリカに翻弄されるオルランドやリナルドを描き、「狂えるオルランド」は未完に終わった「恋するオルランド」の続編として書かれた作品。このうち日本語に訳されているのは「狂えるオルランド」のみです。しかしこれはとても高価な本。現在日本ではなかなか気軽に読むことのできないという意味では、未訳の2作と同じでしょう。たとえ物語調に書き直されたものであれ、こういった紹介本があるというのはとてもありがたいことですね。ブルフィンチのこういった物語の編集・再話能力はやはりすごいですね。綺麗にまとまっています。とはいえ、元々の素材の扱いにくさのせいなのか、それとも訳者の違いなのか、おそらく私自身の知識の違いも大いにあるのでしょう、「ギリシア・ローマ神話」や「中世騎士物語」ほどの読みやすさではなかったのですが。
様々なところにアーサー王伝説やケルト神話、ギリシャ・ローマ神話などの影響が感じられるのも興味深いところ。妖精王・オベロンが「ユオン・ド・ボルドー」に登場したり、モルガナ(モーガン・ル・フェイ)が「恋するオルランド」や「オジエ・ル・ダノワ」に登場したりします。特に「オジエ・ル・ダノワ」では、オジエ・ル・ダノワがモルガナによってアヴァロンに連れ去られることになり、驚きました。これはまるでケルト神話で、オシアンが妖精の女王・ニアヴによってティル・ナ・ノグ(常若国)に連れ去られたのと同じ。アーサー王とは時代も違い、直接関係なさそうなこの伝説に、モルガナが登場するとは面白いですね。4章「リナルドとオルランドの冒険」部分に書かれている原注、「ファタ・モルガナ」と蜃気楼を意味する言葉だというのもとても興味深かったです。そして、この中で私が一番気に入ったのは、武勲詩「ユオン・ド・ボルドー」。これは騎士道物語でありながら、まるで「せむしの子馬」や「アラビアンナイト」のような、昔ながらのおとぎ話のようでもありました。
シャルルマーニュには様々な逸話が伝わっているのですが、ブルフィンチは、フランスに侵入したサラセン人を撃退した祖父・シャルル・マルテルを始めとして、おそらく何人かの「シャルル」の事蹟が合わさって、現在のシャルルマーニュ伝説ができたのだろうと推測しています。物語の中のシャルルマーニュは自分のドラ息子を溺愛して判断を間違えたり、ガンのような人物を偏愛して結局騙されたりするのですが、実際のシャルルマーニュはそのようなこともない、非常に偉大な人物だったのこと。物語と歴史が異なっているのはよくあることですが、実物よりも物語のシャルルマーニュの方が情けなく描かれているというのは面白いですね。

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