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このページは、ハネス・ボクの本の感想のページです。

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「金色の階段の彼方」ハヤカワ文庫FT(2006年3月読了)★★★

兵役中の負傷で片足が不自由なジョン・ヒバートは、退役軍人仲間が始めた代理店で経理係として働くうちにペテンにかけられ、現在はフロリダ拘置所に拘留中。しかし拘置所から州刑務所に護送中、同房のフランク・スカーラッチと共に、スカーラッチの仲間のバークスの手引きで脱走。3人はスカーラッチの情婦・カーロッタと共にエバーグレーズの湿原に逃げ込みます。4人がマングローブの藪を進んでいくうちに辿り着いたのは、古い神殿のような石造りの建物の廃墟。その廃墟の荒れ果てた庭園の奥にあったのは、1つの池でした。その水は信じられないほど青く、そして池の真ん中には1羽のブルーフラミンゴが佇んでおり、水の中に入ったバークスは真っ青な水面に燦然たる金色の光線が円を形作っているところに、目に見えない階段があるのを発見。4人は階段を上り、コーイアという異世界に辿り着きます。そこは訪れた人間1人1人が魂のままの真の姿に変身するという場所。そしてヒバートは、以前から夢に見続けてきた、白髪の賢そうな老人に出会うことに。(「BEYOND THE GOLDEN STAIR」小宮卓訳)

ハネス・ボクは、元々SF的な怪奇ファンタジーのイラストレーターで、作家としては3編の長編小説と若干の短編小説を書いた人物なのだそうです。さすがイラストレーターだけあって、異世界コーイアの色彩鮮やかな情景がとても美しいですね。特に最後の狂気の密林での描写は、その息苦しさが目の前に迫ってくるようです。
ただ、とても魅力的な物語なのに、主人公が夢に見続けてきた幻の女性・マレスの造形が浅すぎるのがとても残念。彼女は自分が夢見てきた人物がスカーラッチに似ているというだけで、なかなかスカーラッチやヒバートの本質を見ようとしませんし、彼女の夢に登場した人物とは外見的にかなり違うヒバートに対して実に冷たいのです。スカーラッチもヒバートもこれから変身すると知っているのに、なぜあのような傲慢な態度がヒバートに対してとれるのか、不思議になってしまうほど。もしスカーラッチに口説かれていたら、素直に付いて行ったのでしょうか。コーイア人として誇りを持っているというよりも、ただの愚かな高慢な女性に見えてしまいました。もちろん彼女の意識にはドウェイルという人物の影響が相当大きいというのは分かるのですが…。そのせいで、彼女が失われた古代都市の人々の愚かしさについて話している時にも、説得力がまるで感じられず、その辺りがとても勿体なかったように思います。そしてそんなマレスのことを一途に愛するヒバートもどうなのでしょう。それにバークスが変身の意志を固める辺りも、いくら下界に戻りたくないからとはいえ、どうしても唐突に感じられてしまいますし、バークスに感動するヒバートも少々単純すぎやしないでしょうか。この辺りにも、もう少し説得力が欲しかったです。

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