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このページは、グレッグ・ベアの本の感想のページです。

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「無限コンチェルト」ハヤカワ文庫FT(2007年1月読了)★★★★
夜中の12時半に起き出して、40年もの間空き家になっているデヴィッド・クラーカムの家へと向かった16歳のマイケル・ペリン。かつてアルノ・ワルティリに渡された紙にある指示通り、渡されていた鍵を使って玄関のドアから入り、家の中を通り抜けて裏口から外へ。そして再び左の隣家の玄関から入って中を通り抜けて裏口へ。アルノ・ワルティリは、高名な映画音楽の作曲家。マイケルとは、腕のいい家具製作者であるマイケル父親のパーティで知り合い、意気投合した仲。本当はアルノ自身がその指示をデヴィッド・クラーカムから受け取っていたものの、勇気がなく、妻のゴルダも置いていけなかったのだと、マイケルはアルノに聞いていました。家の中を通り抜けていたマイケルは、裏庭のパティオに腰掛けていた女性に追われて慌てるものの、なんとか指示通りに6つ目の門を開けて飛び込みます。(「THE INGINITY CONCERTO」宇佐川晶子訳)

グレッグ・ベアは、ファンタジーよりもむしろSF作家として名高いようです。
マイケルが行ってしまう異世界は、シーと呼ばれる妖精の王国・シーダーク(妖精の影)。シー、シーと人間のハーフ、そして人間が住んでいます。人間は「呪われた平原」の中のパクト国に閉じ込められています。そしてその人間たちは、全て音楽にまつわる人々。ピアニストだったり、トランペッターだったり、ワルティリ作曲の無限コンチェルトの音楽会の聴衆だったり、音楽評論家だったり音楽教師だったり。しかしシーダークには音楽はないのです。人間を世話しているのはシー。大抵のシーはフェイアという種類で、他には空気のシー・メテオラル、森のシー・アーボラル、暗がりのシー・アンブラル、海中のシー・ペラガル、川のシー・リヴェリンなどがいます。
地球とシーダークの関係、アイソメイジとは、2人の管理人は何のために存在しているのか、ネア・スパート・クームというツル女たちは何なのか、王国の神・アドンナとは、「呪われた平原」とパクト国のウィックマスター・アライオンズとは、そして何のためにマイケルがこの世界にやって来なければならなかったのか。読者にとっても主人公のマイケルにとっても何一つ分からない状態で物語は始まります。学ばなければならないと言われたマイケルは様々な人に質問しようとするのですが、まともに質問に答えてくれる人は少なく、質問するなと言われたりもします。「質問しないでどうやって学ぶのさ?」というのは、読んでいる読者そのままの気持ちかもしれません。しかしそんなマイケルが1つずつ経験を積み重ねていくうちに、ようやくこの世界について掴めそうな気がしてきます。ある意味とても掴みにくいですが、一旦分かってくればとても魅力的。骨太な世界観ですね。ファンタジーには異世界がつきものですが、これはそのどれにも当てはまらないような気がします。
物語はこれで前編。まだまだ分からない部分が多いです。「蛇の魔術師」へと続きます。

「蛇の魔術師」ハヤカワ文庫FT(2007年2月読了)★★★★
「無限コンチェルト」の最後でようやく地球に戻ってきたマイケルは、自分が5年もの間失踪していたと聞き驚きます。そしてマイケルを待っていたのは、数ヶ月前に亡くなったというゴルダ・ワルティリからの手紙。それはアルノ・ワルティリの財産をマイケルに委譲、マイケルに財産管理をして欲しいという遺言でした。それを受けてマイケルはアルノとゴルダの家に移り住み、仕事に取り掛かることに。しかしツル女たちの訓練を受けたマイケルは、妙な兆候を感じ始めていたのです。マイケルが新聞に見つけたのは、サンセット・ブールバードにあるティペット・レジデンシャル・ホテルの廃墟で女性2人の身元不明死体が発見されたというニュース。1人は体重が800ポンド以上あり全裸、もう1人はミイラ化して流行おくれのパーティ・ドレスを着ていたと読んで、マイケルはラミアとその妹だと直感します。そしてマイケルにかかってきたのは、UCLAの音楽科のクリスティン・ペンディアスからの電話。クリスティンはワルティリの「無限コンチェルト」の譜面を探していたのです。(「THE SERPENT MAGE」宇佐川晶子訳)

「無限コンチェルト」の続編。
ようやく地球に戻ってくるマイケルですが、今度は「無限コンチェルト」の時とは逆に、妖精の王国にいるシーたちが地球に移住し始めています。「無限コンチェルト」以上に音楽が中心となっており、実際に演奏されるシーンは迫力。そしてそれに伴って、この宇宙の成り立ちにまで言及するスケールの大きさ。「無限コンチェルト」でマイケルがツル女たちに教えられる影を投げる法を始めとして、様々なことに深い意味を汲み取ることができそうです。分かりやすいとはお世辞にも言いがたい作品ですが、読み応えがありますね。妖精が登場することもあり、紛れもないファンタジーなのですが、SF的でもあります。感想が書きにくいのですが…。
マイケルの信じがたい物語を聞いた人々の反応は様々ですが、その中でもロス市警殺人課のブライアン・ハーヴェイ警部補が良かったです。容易には信じられないけれど、なんとか自分を納得させようとする健気さがとても人間的で、ある意味可愛かったです。
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