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このページは、T.A.バロンの本の感想のページです。

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「マーリンI-魔法の島フィンカイラ」主婦の友社(2007年5月読了)★★★

5年前に海辺に打ち寄せられた時に、頭が岩にたたきつけられた衝撃からか過去の記憶を全て失ってしまった少年は、その時に助けた女性と共に暮らし始めます。巨大なイノシシに2人が襲われたところを、全身が黄金色に輝き、脚の先だけが水晶のように真っ白に光、7本枝の角を持つ巨大な雄ジカに助けられたのです。女性の名前はブランウェン。ブランウェンが少年のことを呼ぶ名前はエムリス。ブランウェンはエムリスの母親だと言うのですが、エムリスはそれは嘘だと感じていました。エムリスは、美しいブランウェンとはまるで似ておらず、しかも自分のことをほとんど話そうとしないブランウェンに、エムリスは距離を感じていたのです。その距離が縮まるのは、ブランウェンがエムリスに沢山の物語や伝説を方って聞かせる時だけでした。(「THE LOST YEARS OF MERLIN」海後礼子訳)

マーリンシリーズ第1巻。
アーサー王伝説で有名な魔法使い・マーリンの少年時代の物語。作者のT.A.バロンはアメリカ生まれのアメリカ育ちながらもオックスフォード大学に留学し、ケルトの伝説やアーサー王文学、特にマーリンの物語に惹きつけられ、どの伝説にも書かれていないマーリンの少年時代、魔法使いになるまでの物語を書いたのだそうです。
幻の島・フィンカイラに流れついたエムリスは、森の少女のリアことリアンノン、ハヤブサのトラブル、そして小さな巨人のシムという仲間を得て、悪神・リタガウルに操られるスタングマーを倒すことになります。エムリスははっきり言って鼻持ちならない少年ですし、作品全体の雰囲気もフィンカイラの描写も小さいネタを駆使して魅力的に書こうとしているという印象。ギリシャ神話やケルトの伝承を沢山持ち出しても、それだけではアーサー王伝説の重厚さは描けないと思うのですが…。マーリンの名前の由来も真の名前も、創世の秘密をのような魔法の扱いも、ゲド戦記の二番煎じのように感じられてしまいました。この物語の展開自体、通常のファンタジーの「善が悪を倒す」という形式と変わりませんし、それほどの個性も感じられません。しかし全5巻のうちに、エムリスはおそらく大きく成長することになるのでしょうね。どのような展開を見せてくれるのか、それがどのようにアーサー王伝説へと繋がっていくのか楽しみです。


「マーリンII-七つの魔法の歌」主婦の友社(2007年5月読了)★★★★

リタガウルとスタングマーを倒したエムリスはマーリンと名乗ることに。そしてフィンカイラの<巨石の輪>、かつての<死衣城>の城跡では、ゴブリン、ナリスマシなどのわずか数種類を除いたフィンカイラの様々な生き物たちの代表が集まり、フィンカイラ大会議が開かれていました。<巨石の輪>は、女の巨人の提案で古代巨人語の“巨人の踊り”エストナヘンジと呼ばれることになり、スタングマーはマーリンの願いによって<闇の丘>の北の洞窟に一生閉じ込められることに。フィンカイラにはリーダーを立てずに<深みの剣><夢笛><光玉>、そして<知恵の七つ道具>のうちの救い出された6点は、持ち主が決まるまでグランド・エルーサが管理、<花琴>はマーリンがフィンカイラの荒れ果てた大地を蘇らせるのに使うことになります。次の計画を練っているリタガウルが戻ってくる前に、少なくとも<闇の丘>の緑を取り戻さなければならないとマーリンに言い聞かせる詩人・ケアプレ。マーリンは嬉々として仕事に取り掛かります。しかしマーリンは花琴の力を自分の力のように思うようになり、徐々に慢心していったのです。(「THE SEVEN SONGS OF MERLIN」海後礼子訳)

マーリンシリーズ第2巻。
冒頭で、「自分の力に慢心するマーリン」という構図が、まるで作者が意図的に物語に波風を立てようとしているように感じられてしまったのもそうなのですが、やるべき仕事を投げ出して自分勝手な行動を起こした挙句、余計な苦労を背負い込んでしまうのが、まるで予め敷かれたレールのようにしか見えないのが問題。そして7つの歌の極意を知る旅という展開や、その旅そのものはとても面白い趣向だと思うのに、それぞれの極意が比較的あっさりと分かってしまい、深みが感じられなかったのも残念。もう少しじっくりと書き込んであれば、遥かに面白くなったのではないかと思うのですが…。陰気な道化師バンヴルウィの同行の意図も今ひとつ納得できませんでしたし、リアの秘密に関しても安易だと思います。マーリンとエクスカリバーの出会いや、ニムエ(ヴィヴィアン)との出会いなど、後のアーサー王伝説に繋がっていく部分があったのが救いでしょうか。
7つの歌によって成長したはずのマーリンが、3巻ではもう少し大人になっていてくれるといいのですが。


「マーリンIII-伝説の炎の竜」主婦の友社(2007年6月読了)★★★

マーリンは14歳になり、<力呼び>の儀式のためにサルテリーという小さな竪琴を作り始めます。魔法の力を授かったフィンカイラの若者たちは、太古からの慣わしに従って7つの魔法の基礎を学び終えると、魔法の楽器作りに取り掛かるのです。儀式が成功ならサルテリーはひとりでに鳴り出し、魔法の力を呼び起こすはず。しかし儀式が上手くいくと思ったちょうどその時、火傷するほど熱を持っていた弦が一斉に切れて、サルテリーは空中で燃えてしまったのです。そこに現れたのは、小人(ドワーフ)族の女王であり魔術師のウルナルダ。はるか北の失われし地<ロストランド>では伝説の皇帝竜・バルディアグが目覚めようとしており、マーリン以外にバルディアグを倒せるものはいないというのです。かつて試練を助けてもらうのと引き換えに、ドワーフたちに力を貸す約束をしていたマーリンは、リアと共にドワーフの国を目指します。(「THE FIRES OF MERLIN」海後礼子訳)

マーリンシリーズ第3巻。
今回印象に残ったのは、鹿人のハーリアの語るフィンカイラの霧の伝説、“カイルロクランのつむぎ絵”の物語。昔は口から出る言葉には形があり、誰かが物語を語るたびに1本の輝く糸が紡がれ、その糸は流れて他の糸と共にひとりでに織り合わさり、様々な色や模様、影や光に溢れた布となったというのです。これが素敵ですね。その布は一度はリタガウルに奪われながらも、ダグダによってフィンカイラの島を包み込む霧となったのだそう。そういう力に守られていると分かり、フィンカイラの島の存在が深みを増したように思います。そして今回残念だったのは、マーリンの竪琴の儀式が上手くいかなかった場面。これは物語の展開上必要だったのだろうと思いますが、成功したところを見てみたかったです。
マーリンは少しずつ良くなってきていますが、まだまだ未熟で、それが読んでいて歯がゆいところ。今回、マーリンはウルナルダによって力を奪われてしまうのですが、その展開がまるでテリー・ブルックスの「魔法の王国売ります!」のシリーズ2巻目「黒いユニコーン」のようでした。マーリンの母・エレンが、ドワーフの国に向かおうとするマーリンを止めようとするのは、母の愛とは言え、やはり違和感ですし、ドワーフの国に着いたマーリンに対する、ドワーフの女王の難癖もどこかおかしく、やはり作者自身が物語にわざわざ波風を起こそうとしているように見えてしまいます。


「マーリンIV-時の鏡の魔法」主婦の友社(2007年6月読了)★★★★

マーリンも15歳。<影使い>の技を練習しているところに現れたのは、鹿人のハーリア。2人は小さなアザラシのようで、前びれの代わりに腕が6本ついている生き物を助けることになります。それは<おそれ沼>にいると言われる珍しい生き物のバリマグ。マーリンはバリマグの右の脇腹の大きな傷を癒し、バリマグを故郷に送り返すために<運び>の魔法の呪文を唱えます。しかしなんとマーリンとハーリアも道連れになってしまったのです。着いたのは<おそれ沼>にほど近い古い森の中。その森の木々は苦しんでいました。<おそれ沼>がどんどん森の方へと広がってきていたのです。しかも縄張りを侵さなければ襲って来なかったはずの沼の死霊たちが、今やバリマグや巨人、人間を襲うようになっているというのですが…。(「THE MIRROR OF MERLIN」海後礼子訳)

マーリンシリーズ第4巻。
このシリーズも4巻目にしてようやく面白くなってきました。ニムエが登場することもそうですが、時の鏡を通り抜ける辺りからが良かったです。親方とエクターの存在がいいですね。親方の家の中の描写も会話も、読んでいてわくわくするようなもの。部屋の描写全てに意味が篭められているようですし、親方が現代的な文学や知識を交えて話を進めていくところも面白く、この場面はどこかT.H.ホワイトの「永遠の王」のようだと思っていたら、本当に「永遠の王」からの引用がありました。
そして今回、失われたと思われていた<知恵の七つ道具>の最後の1つが、実は失われていなかったことが判明します。ハーリアの父親が大切に隠し持っていたというのです。<知恵の七つ道具>の最初の6つは、ひとりでに大地を耕す<足鋤>、必要なだけの木しか伐らない<はかり鋸>、魔法の鍬や金づちやショベル、いつも満杯に水をたたえているバケツの6つ。どれも日々の生活に密着した道具です。しかし7つ目の道具は<魔法の鍵>。この7つ目の道具が、他の6つとはあまりに性質が違いすぎるので、それがどうも納得できないところではあります。魔法の鍵となると、むしろ光玉や花琴、夢笛などと同種の宝物だと思うのですが…。
そして今回残念だったのは、リアが登場しないこと。しかしリアは基本的にハーリアと同じタイプなので、仕方のないことかもしれませんね。さらに冒頭でマーリンが自分の影と格闘していたのは、またしても「ゲド戦記」を彷彿とさせる部分でした。


「マーリンV-失われた翼の秘密」主婦の友社(2007年6月読了)★★★

マーリンとハーリアが、リアとシャベリッケらと共に<星見岩>の丘のふもとで野宿をしていた時。トラブルの羽で飛んでいるマーリンの夢の中に、突然不気味に輝く剣と一体になった巨大な腕が現れます。その剣が腕を深々と切り裂いた時、目を覚ますマーリン。誰かが自分を呼んでいると感じたマーリンは丘を登り、<星見岩>によじ登ります。そこでマーリンに話しかけたのは、偉大な神・ダグダでした。ダグダはフィンカイラの地が禍いに見舞われることをマーリンに告げます。2週間後の冬至の夜、フィンカイラと<黄泉の国>は危険なほど近づき、<巨石の輪>からリタガウル率いる大軍が攻め込んでくるというのです。唯一の望みはフィンカイラの全ての種族が<巨石の輪>に集結して、リタガウルの軍勢を迎え撃つことだというのですが…。(「THE WINGS OF MERLIN」海後礼子訳)

マーリンシリーズ第5巻。
フィンカイラに訪れた最大の危機。フィンカイラの種族が全員一致団結しなければ乗り越えられないというダグダの言葉。3巻までは、マーリン自身がなかなか成長しようとせず、作者がわざと波風を立ててそんな未熟なマーリンの姿を見せ付けるという印象があり、好きになれなかったのですが、4巻辺りからは物語の展開としてかなり自然になってきたと思います。それでもこの巻でも、マーリンが各種族を説得するという一番大切な部分をリアやハーリアに任せきりなのが少し気になりましたが。
ブリタニアに行くことになったマーリンの前途はまだまだ長く、本国では「アバロン」シリーズも刊行されているところなのだそうです。そちらの主人公はマーリンではないようですが、少年から大人になろうとしているマーリンも、きっと活躍してくれるのでしょうね。

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