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このページは、ニコルソン・ベイカーの本の感想のページです。

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「中二階」白水社(2007年9月読了)★★★★

1時少し前、黒い表紙のペンギンのペーパーバックと、CVSファーマシーの白い小さな紙袋を手に、会社の入っているビルのロビーに入った「私」。エスカレーターで中二階にあがると、そこにオフィスがあるのです。(「THE MEZZANINE」岸本佐知子訳)

昼休みに新しい靴紐を買った1人の男が、オフィスビルに入ってエスカレーターを上り、オフィスに戻るまでの物語。出来事としては全く何も起こらず、男がオフィスに向かう途中で頭の中でめぐらしていた考え事をひたすら書き綴っているだけです。エスカレーターの美しさから、回転する物体の縁に当たる光の美しさを思い、自分の左手にある紙袋の中身を思い出そうとしながら、その日の昼食に半パイント入りの牛乳を買った時の店員の女の子とのやりとりを思い出し、「ストローはお使いになります?」と聞かれたことから、かつての紙ストローからプラスチック・ストローへの変換と"浮かぶストロー時代"の幕開け、その後の大手ファーストフードチェーン店のストローに関する対応へと思考は飛び、さらに様々な事柄を考え続けます。両足の靴紐が同時期に切れるのはなぜなのか、自分の人生における8つの大きな進歩について、そしてミシン目への熱烈な賛美。どんなに瑣末な思考も疎かにされることなく、発展し続ける思考が思考を呼び、それぞれに詳細な注釈を招き、その注釈は本のページから溢れ出し、日常のありふれているはずのほんの数分間は日常のありふれた瑣末なことに関する思考で、際限なく豊かに膨らんでいきます。主観的な思考ばかりなため、主人公に関する客観的な説明は全くないのですが、これほど濃密な作品は珍しいと思います。面白い試みですね。まさに「ナノ文学」という言葉がぴったりきますし、岸本佐知子さんがこの作品を訳しているというのも、まさに適材適所ですね。


「ノリーのおわらない物語」白水uブックス(2009年3月読了)★★★★

ノリーことエレノア・ウィンスロウは、お父さんとお母さんと2歳の弟と一緒にアメリカからイギリスに引っ越してきた9歳の女の子。イギリスのスレルという町でスレル校というところの小学部に通っています。将来の夢は、歯医者さんかペーパーエンジニアになること。そして最近とても好きなのは中国の女の子の絵を描くこととお話を作ること。そして…。(「THE EVERLASTING STORY OF NORY」岸本佐知子訳)

以前読んだ「中二階」とも雰囲気が全然違いますし、「Hで愉快な電話小説」だという「もしもし」とも、「時間を止めて女性の服を脱がせる特技をもつ男の自伝」だという「フェルマータ」とも全然違うであろう物語。それもそのはず、この作品は全編9歳のノリー視点の物語なのです。ニコルソン・ベイカーが自分の娘・アリスをモデルに書き上げたようで、かなりユニークな作品。さすが「中二階」を書いた作家の娘だけあり、かなりの理屈っぽさも披露してくれます。このノリーの頭の中の言葉を、子供らしい間違いを含めて全て日本語に訳すのは大変だったでしょうね。訳者の岸本佐知子さんは相当苦労なさったのではないかと思いますが、適材適所だと思います。とても雰囲気が出ていました。
アメリカで親友だったデボラと離れたのは寂しいけれど、新しい学校でもキラという仲良しの女の子ができたノリー。どうやら人見知りをしないタイプらしく、一人遊びも得意なノリーの学校生活はマイペースで楽しそう。しかし徐々に同じクラスのパメラという女の子の存在が大きくなります。パメラは1年飛び級をして第6学年に入っている女の子。何も悪いことなどしていないのに、クラスメートにからかわれたり笑われたり、ひどいことを言われたり、持ち物を隠されたりしているのです。ノリーの仲良しのキラまで、ノリーがパメラと一緒にいることを嫌がります。パメラと仲良くするとノリー自身もいじめられることになる、と何度も繰り返し言うのです。それでもノリーは、転校したばかりの時に食堂から校舎までの帰り道が分からなくなったノリーにパメラが親切にしてくれたのを忘れてはいません。パメラと一緒にいるところをからかわれても、自信たっぷりで反撃するノリー。こういう時、自分もいじめられるのが怖くて、嫌いでもないのにいじめっ子たちと一緒になって笑ったりしてしまう子の方が断然多いと思うのですが、ノリーの強さが羨ましくなってしまいますね。それでもノリーも常に自信たっぷりというわけではなく、時には悩んだりもすることがあり、それがノリーを出来すぎな子にさせない子供らしいところでしょうか。
興味深いのは、ノリーがアメリカでは中国系の学校に通っていたということ。普通の学校の進度が遅すぎて、業を煮やした両親がノリーをチャイニーズ・モンテッソーリ校に転校させたというのです。ノリー自身は全く中国系ではないようですが、毎日半分が中国語の授業で、九九も中国語でやっていたので、今でもある程度は中国語が分かるよう。全く中国系ではないのに中国系の学校に通うというのは不思議な気もしますが… アメリカでは日常的なことなのでしょうか?

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