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このページは、ヴァージニア・ウルフの本の感想のページです。

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「オーランドー」ちくま文庫(2009年1月読了)★★★★★

高貴な英国貴族の広大な屋敷に生まれ育ったオーランドー。エリザベス一世とも血縁であり、女王に大層気に入られていたオーランドーは美しく成長し、領地や屋敷、そしてガーター勲章を賜り、女王行幸の際には必ずお供することに。しかしロンドンの宮廷で出会ったロシアの姫君との恋愛、そして破局の後、オーランドーは屋敷に戻って読書に耽り、数多くの劇や詩を書くことになります。(「ORLANDO」杉山洋子訳)

文庫本の裏表紙の説明に「オーランドーとは何者? 36歳の女性にして360歳の両性具有者、エリザベス1世のお気に入りの美少年、やり手の大使、ロンドン社交界のレディ、文学賞を受賞した詩人、そしてつまりは… 何者? 性を超え時代を超え、恋愛遍歴を重ね、変化する時代精神を乗りこなしながら彼/彼女が守ってきたもの」とあるので、SF作品なのかと思って読み始めたのですが、そうではありませんでした。確かにエリザベス1世(1533-1603)の時代に生まれ、その後20世紀までずっと生き続けるオーランドーなのですが、急激な時代の移り変わりはオーランドーが執筆に没頭していたり、7日間ほど目覚めないといった状態の間にごく自然に訪れますし、オーランドーの周囲の人々もそのままなので、時代時代の風物や流行が入れ替わるだけで、ごく自然な流れとして読めてしまいます。オーランドーがそれらの時代の移り変わりの生き証人となっている物語とは言えそうですが。
そしてその300年以上に渡る時代の流れが何を表しているかといえば、オーランドーの家のモデルとされるサックヴィル家人々の歴史であり、ヴァージニア・ウルフと同時代のサックヴィル家の1人娘であり、女流作家となったヴィタ・サックヴィルの生涯なのだそう。少年の頃のオーランドーや、まだ男性で大使をしていた頃のオーランドーの肖像画、そして女性となった後のオーランドーの写真が出てくるのですが、肖像画はヴィタの祖先の肖像画であり、写真はヴィタ自身の写真だとのこと。どれも同一人物としか思えないほど似通っており、まさしくオーランドーその人の長い人生を思わせるものです。
そしてこの300年は、エリザベス朝以降の英文学の流れも表しているのだそう。この英文学の流れがまたとても面白いのです。大学の英文学史の授業で名前を習ったり実際に作品を読んだ詩人や作家が次々と登場。エリザベス朝の文学は女性とは無縁で、シェイクスピアの劇のヒロインも演じたのは少年たち。そして男性に生まれたオーランドーが突然女性になってしまったのは、エリザベス朝が終わり、英文学に女性が登場するようになった17世紀末頃。確かにとても意図が感じられますね。
オーランドーは男性の時も女性になってからも、名前は変わらずオーランドーのまま。この両性具有の神とも思える名前は、読む前の予想通りアリオストの「狂えるオルランド」(シャルルマーニュ伝説に出てくる騎士・ローランと同一人物)の線が濃厚のようです。この作品でオーランドーの恋のお相手となるロシアのお姫様のポートレートには、ヴァージニア・ウルフの姪のアンジェリカのものが使われているそうですし、アンジェリカといえば「狂えるオルランド」に出てくる異国のお姫さまですね。その他にも様々な含みがあるようです。作品そのものもとても面白かったのですが、訳者の杉山洋子さんによる解説「隠し絵のロマンス-伝記的に」も、そういったことを教えてくれてとても良かったです。

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