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このページは、クリス・ウッディングの本の感想のページです。

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「ポイズン」上下 創元ブックランド(2009年4月読了)★★★★★

<黒の湿地帯>の奥深く、水生植物が鬱蒼と茂る暗くよどんだ沼の上にあるガル村に住んでいたのは、ポイズンという名前の少女。ポイズンの家は沼の端、ホーンバークの木が水面にせり出すように茂った土手のそばにある円形の小屋で、一緒に暮らしていたのは父親と継母・スナップドラゴン、そしてまだ幼い妹のアザレア。そして年に1度の<魂見の夕べ(ソウル・ウォッチ・イブ)>の日。村に"精霊獲り(レイス・キャッチャー)"がやって来て、村人が魂籠(ソウル。ケージ)で捕らえた沼の精霊を全て買い取っていく日がやってきます。しかしその夜、ポイズンが雪のようなきらきら光る粉のせいでぐっすり眠っている間に、妹のアザレアがベビーベッドから攫われていたのです。攫ったのはスケアクロウ。後には妖精の取替え子(チェンジリング)が残されていました。ポイズンは妖精王から妹を取り返すために村を出ることに。(「POISON」渡辺庸子訳)

かつては人間の王国だったこの世界も、今や妖精族やゴブリン、トロールやドワロウがあちらこちらに点在し、人間が森や沼地、山の中に隠れ住むようになっている時代の物語。物語の始まりは、よくあるような妖精物語です。主人公のポイズンは、「毒」という名前を自分でつけてしまうような少女。自我が強く好奇心が旺盛で、妹のアザレアが攫われたのをきっかけに外の世界に出て行くことになる少女。読み手は、一筋縄ではいかないポイズンに最初は反感を持ったとしても、物語が進むにつれて徐々に感情移入して… というパターンのように思えます。しかしこれは妹を無事に取り戻してめでたしめでたし、という物語ではないのです。
途中で、3度ほど「もしや」と思った部分が本当にその通りで、逆に驚いたというのはあるのですが、それでも定石通りには収まらない物語に最後までわくわくさせられ通しでした。物語が好きな人なら一度や二度でもこういうことを考えたことはあるのではないでしょうか。私自身、自分がうっすらと思い描いていた物語をそのまま本にしてもらえたような感覚でした。しかしごく普通の妖精物語を読みたい人には、この作品はあまり適していないでしょうね。YAのレーベルから出ている作品ですが、むしろ大人のレーベルから出してもいいぐらいかもしれません。個人的には、こういう構造の物語は大好きです。この作家の他の作品も俄然読んでみたくなりました。各ページ下に入っている橋賢亀さんによる挿絵もとても素敵です。
以下ネタバレ。→全ては導師の書いた物語と知った時のポイズンの落ち込み方が大げさにも感じられてしまったのですが、全て自分の力で切り開いてきたつもりのポイズンみたいなタイプの少女にとっては、実は手のひらで遊ばされていたというのは、これ以上ないほどの屈辱なのかもしれないですね。そしてアザレアを失ってしまったポイズンは、新たな妹役としてペパーコーンを得ることになるのですが… ただ可愛いだけのペパーコーンは、ポイズンと同じタイプに育ってしまったというアザレアよりも妹役に相応しく、ポイズンにとってはむしろ現実をそのまま受け入れる以上に幸せな結末になっているのかもしれません。しかしそれだけに、その後のアザレアはどうなったのか気になってしまいますが…。

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