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このページは、T.H.ホワイトの本の感想のページです。

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「永遠の王-アーサーの書」上下 創元推理文庫(2004年11月読了)★★★

エクター卿の養子として、ケイと共に育てられたウォートことアーサー。しかし常にケイを立てることを求められ、自分でも、将来はケイの従者となるものだと思い込んでいました。そんなある日、ウォートは森の中で時間を逆に生きる魔術師・マーリンと出会います。親切で、不思議な品物を沢山持っているマーリンに惹かれたウォートは、マーリンが城に来て自分たちの家庭教師となると聞いて有頂天に。(「THE ONCE AND FUTURE KING」森下弓子訳)

アーサリアン・ファンタジーとしては「史上最高」であり、マリオン・ジマー・ブラッドリーの「アヴァロンの霧」と並ぶ名著とされているようですが、ごく真面目な「アヴァロンの霧」に対し、こちらのドタバタした雰囲気には驚かされました。アーサー王伝説を元にした、パロディ小説だったのですね。作中には現代的な表現が多く使用されており、一体いつの時代が舞台となっているのか分からず、戸惑ってしまったほど。冒頭のシーンでも、サー・エクターとサー・グラモアがポートを飲んでいるのですが、これは蜂蜜酒よりもワインと書いておいた方が読者に馴染みがあるだろうからという著者の注釈入り。「イートン」のジョークも、現代イギリス人には受ける部分なのかもしれませんが、日本人の私にとっては、パロディに対する心構えがなかったこともあり、今ひとつピンと来なかったです。
しかし、時間を逆に生きるというマーリンの設定は面白いですし、その独特な教育ぶりもユニークですね。この現代的な味わいは、マーリンがアーサーに与えた独特な教育をきっかけに、アーサーが現代的な考え方をするようになったという部分を自然に描くためだったのでしょう。確かにホワイトによるアーサー王の解釈はとても斬新ですし、それ以上にとても強烈。しかしその割にはアーサー自身の魅力が乏しいようにも思えます。偏屈なマーリンや、ペリノアの惚けた味わい、素晴らしい騎士としてのランスロットの個性、血の気の多いガウェインに対して、やや影が薄いように思えました。
斬新な解釈にも関わらず、やはりアーサー王伝説の結末というのは変わりません。確かな理想を胸に、長い年月を頑張ってきたアーサーのことを思うと、それが一層切なくなってしまうところです。そしてアーサーとマーリンの2人が出会って1時間後に、マーリンは「この話は、前にもしたことがあったかな?」と訊ね、「もう、それしか時間は残っておらんのかね。」と言うやりとりがあるのですが、この時のマーリンの姿が、後から考えると何とも切なくなってしまいますね。
ディズニーの「王様の剣」と、ミュージカル映画「キャメロット」は、この作品を元に作られたのだそうです。

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