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このページは、アリソン・アトリーの本の感想のページです。

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「グレイ・ラビットのおはなし」岩波少年文庫(2006年12月読了)★★★★
【スキレルとヘアとグレイ・ラビット】…森のはずれの小さな家に住んでいたのは、野ウサギのヘアとリスのスキレルと、小さな灰色ウサギのグレイ・ラビット。しかしヘアはうぬぼれ屋、スキレルはいばり屋で、家の中のことは全て優しいグレイ・ラビットに押し付けていたのです。
【どのようにして、グレイ・ラビットは、しっぽをとりもどしたか】…ニンジンの育て方のためにカシコイ・フクロウにしっぽを渡したグレイ・ラビット。しかし本当は悲しくて仕方ありませんでした。
【ヘアの大冒険】…ある晴れた真夏の朝、ヘアはトネリコ森に住むヒキガエルのトードに会いに出かけます。しかし途中にはキツネが住んでいると聞き、震え上がることに。
【ハリネズミのファジー坊やのおはなし】…ファジー坊やの1歳の誕生日の朝。いつもよりも早く牛乳を配っていたハリネズミは、ファジー坊やのためのたまごをたくさんもらいます。(「TALES OF LITTLE GRAY RABBIT」石井桃子・中川利枝子訳)

動物物はあまり得意ではないのですが、これはなかなか良かったです。動物の擬人化だけに留まらない深みが感じられました。単純に善悪に分けられないのもいいですね。モグラのモルディやハリネズミといった気の良い動物たちもいれば、何かをしたら必ずその代償を要求するカシコイ・フクロウのように中立の立場の動物もいます。そうかといえば、イタチやキツネのようにずる賢く、隙あれば相手を食べてしまおうとする動物もいます。
グレイ・ラビットの同居人のヘアやスキレルもそうです。悪い動物たちではないにせよ、日常の細々としたことは全て、優しいグレイ・ラビットに任せっきり。悪気はないのですが、気軽に頼んだ用事でグレイ・ラビットを困らせたり、危ない目にあわせたりします。しかしそんな2匹のことがグレイ・ラビットは大好き。どんな用事でもこなしてしまうし、2匹がピンチの時は助けに駆けつけるのです。そして実は機転も利くグレイ・ラビットは、逆にイタチを退治してしまうことに。読み始めた時はヘアとスキレルの2匹のわがままぶりにうんざりさせられたのですが、ここにきて初めてグレイ・ラビットがただのお人よしのウサギではなかったことが分かりますし、グレイ・ラビットの器の大きさに驚かされて、俄然面白くなりました。
そして、そういった出来事を通して、2匹もかなり心を入れ替えてがんばることになります。もちろん生まれながらの性格や長年の習慣はなかなか直らないですし、まだまだ改善の余地はあるのですが、グレイ・ラビットに対して優しい気持ちを持ち、全てやってもらえることが当然ではないことに気づいたことが一番重要。「どのようにして、グレイ・ラビットは、しっぽをとりもどしたか」でスキレルが取った勇敢な行動は、とても暖かく感じられますし、「ヘアの大冒険」では、臆病なヘアの思い切った行動力に喜ぶグレイ・ラビットにこちらまで嬉しくなります。なるほど「うぬぼれ屋」は「臆病」の裏返しだったのですね。グレイ・ラビットの視線はまるで2人のやんちゃな子供を見守るお母さんのよう。包み込むような暖かさが魅力ですね。

「時の旅人」岩波少年文庫(2003年11月読了)★★★★★お気に入り
病気療養のために、姉のアリスンや兄のイアンと共に、母方の親戚・バーナバスおじさんとティッシーおばさんの住むサッカーズ農場へと行くことになったペネロピー。3人はすぐに農場での生活に馴染みます。しかしある日、おばさんの部屋に行くつもりでペネロピーが開けたドアの向こうには、16世紀のエリザベス女王時代の衣裳を身に纏った貴婦人達がいたのです。16世紀当時、サッカーズ農場のその家は荘園領主のバビントン氏の屋敷。領主のアンソニー・バビントンはエリザベス女王に幽閉されている、スコットランド女王・メアリー・スチュアートを救うために奔走していました。そして台所には、ティッシーおばさんそっくりのシシリーおばさんが。ペネロピーはチェルシーからやってきた親戚の娘として、バビントン屋敷で働くことになり、ペネロピーの未来と過去を行き来をする生活が始まります。(「A TRAVELLER IN TIME」松野正子訳)

扉を開いたら、そこは16世紀のイングランド。まるでC.S.ルイスのナルニアのような冒険の始まりです。過去でどれだけ時間を過ごしても、戻ってみれば、出かけた時の時間のままというのも同じですね。ペネロピーが昔ながらのタバナー一族の顔立ちで、一族には代々ペネロピーと名づけられる女の子がおり、しかもタバナー一族はこの土地に住み続けているという設定が上手いですね。
現代の農場の姿も16世紀の荘園の姿もそれほど変わらないようで、ハーブ園などもほとんど当時のまま残っているようです。この辺りはさすがイギリス、日本ではまず考えられないことです。そしてそのイギリスの田園風景の描写がとても素敵。農園での暮らしぶりが生き生きと描かれていますし、様々なハーブを料理や薬代わりに使ったり、リネンや服の香り付けや防虫に役立てたりしている場面には特に興味を惹かれました。16世紀で既にイギリスらしい生活が確立されていたのですね。
しかしのどかに見える田園風景の下には、血なまぐさい歴史が隠されています。果たして歴史は変えられるのか、それとも変えられないのか。既に確立された歴史を知っている身としては、読んでいると切なくなってしまいます。それでも、ここに登場する人々がそれぞれに精一杯生きている姿は清々しいです。緑色のドレスを着るペネロピーにフランシスが歌う、ロンドンで覚えてきたばかりの「グリーン・スリーブス」の場面がなんとも切なくロマンティックでした。

「西風のくれた鍵」岩波少年文庫(2005年6月読了)★★★★★
【ピクシーのスカーフ】…ある日おばあさんとダーティムアの荒野へコケモモ摘みに出かけたディッキー・バンドルは、ピクシーの女王のスカーフを拾います。
【雪むすめ】…イングランドの片隅の緑の丘に住んでいた兄弟が作った雪むすめは、北風に霜を治める大王と氷を司る女王の元へと連れて行かれることに。
【鋳かけ屋の宝もの】…鍋ややかんを直しながら、田舎の小さな町を歩いて旅をしていた鋳かけ屋は、萱ぶき屋根の一軒家で庭の世話をしてミツバチを飼うことが夢でした。
【幻のスパイス売り】…王様のお城の台所で、コック長のダンブルドア夫人の下で働いていたベツシーは、1年に1回回ってくるスパイス売りのおばあさんからスパイスを買うことに。
【妖精の花嫁ポリー】…ダートムアのはずれに住んでいた貧しい夫婦の長女・ポリーは長い金髪に青い目の器量良し。ある晩、ピクシーが訪ねて来てポリーに結婚を申し込みます。
【西風のくれた鍵】…西風が地面に投げつけたカエデの実のたばを拾ったジョン・バンチングは、西風がかけるなぞなぞを解こうとします。(「THE SPICE WOMAN'S BASKET AND OTHER TALES」石井桃子・中川李枝子訳)

まるでファージョンの作品集を読んでいるような、昔懐かしいお伽話。それぞれに素敵だったのですが、私が一番好きだったのは、「幻のスパイス売り」。実は魔法使いらしいスパイス売りのおばあさんについては最後まで明かされないままなのですが、それがまたいいですね。スパイス売りの歌う「ナツメグに シナモン/ジンジャーに キャラウェイ/インディーズ諸国の スパイス/さあ 買いにおいで」という歌が何とも南国のほのぼのとした幸せな雰囲気を作り出しているようです。そしてこの「幻のスパイス売り」の暖かさと対照的なのが、「雪むすめ」。こちらは霜と氷の国のひんやり感がベースとなっています。しかし霜や氷が冷たいからといって、物語の中身まで冷たいわけではありません。雪で作られた雪だるまならぬ雪むすめに命が吹き込まれるシーンなどとても絵画的な美しさがあると思いますし、途中雪むすめが昔のことを思い出す場面などは切ないのですが、その後はまたしても幸せな暖かさに包まれています。

「氷の花たば」岩波少年文庫(2005年6月読了)★★★★
【メリー・ゴー・ラウンド】…毎年9月になると緑地でフェアが開かれ、キャラバンやトラックがやって来ます。その年もやってきたリーおばあさんにジョンとマイケルがもらったのは綺麗な呼子でした。
【七面鳥とガチョウ】…美しいオスの七面鳥に誘われて、ガチョウは向こう丘を越えたところのお城でクリスマスを過ごすために出かけることに。
【木こりの娘】…肌は桜の花のように白く、くちびるはクローバーの花のようにたおやかなチェリー・ブロッサム。ある晩針仕事をしていると、ロウソクの焔の中に金色のクマが。
【妖精の船】…トムは、船乗りのお父さんがクリスマスの日に、サンタクロースと一緒にプレゼントがいっぱいの船に乗って帰ってくると想像していました。
【氷の花たば】…ひどい吹雪の夜、雪の中で眠ってしまったトム・ワトソンは、雪のように真っ白い見知らぬ男に起こされます。帰り道を教えてもらい、ある約束をすることに。
【麦の子 ジョン・バーリコーン】…落穂ひろいをして家に帰る途中のおばあさんは、道端で緑がかった黄色い包みを拾います。その包みの中には、金色の卵が入っていました。(「TWELVE TALESOF FAIRY SND MAGIC」石井桃子・中川李枝子訳)

「西風のくれた鍵」同様、まるでファージョンの作品集を読んでいるよう。全体的な面白さで言えば、「西風のくれた鍵」の方が上だったと思うのですが、こちらにもとても素敵な作品がありました。私が特に好きなのは、表題作の「氷の花たば」と「麦の子 ジョン・バーリコーン」。どこかで読んだことのあるような物語ではありますが、読後感がとても素敵です。
こちらには特にピクシーなど特定の妖精は登場しないのですが、人間ではない不思議な存在は登場します。「木こりの娘」のような展開なら、グリム童話などにも良く見られますし、呪いを解くということで1つの解決を見ることになります。しかしたとえば「氷の花たば」の霜の精は全く人間ではない存在であり、姿かたちは人間と変らないものの、決して相容れることはありません。そんな彼にも普通の人間と変わりない感情はあるのですが、そうは見てもらえません。不思議な存在、人間ではない異形ということだけで、その真意を疑われてしまうことにもなるのですね。その辺りがとても切なかったです。しかしローズのおかげでとても暖かい読後感でした。良かったです。
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