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このページは、ケイト・トンプソンの本の感想のページです。

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「時間のない国で」上下 創元ブックランド(2007年2月読了)★★★★★

JJ・リディは、父・キアラン・バーン、母・ヘレン・リディ、妹のマリアンの4人暮らし。父は詩人で母は音楽家。母のリディ家は代々音楽家の家系で、毎週のようにケイリーと呼ばれるダンスパーティが開かれているのです。JJ自身もフィドルやフルートの演奏者として、ハーリングの選手として、アイリッシュ・ダンスの踊り手として、数々の賞を手に入れてきていました。しかしJJ自身も家族も、最近どうにも時間が足りないのです。あっという間に時間が過ぎ去っていきます。母は音楽を練習する時間がまるで取れず、父が母と出会い、母の実家の農家に移り住んだ時に夢見ていたのは牧歌的な生活なのに、今では日々農作業に追われ、詩作などまったくする余裕がない状態。そしてリディ家だけでなく、この一帯に住む大人も子供も同じ問題に悩まされていました。(「THE NEW POLICEMAN」渡辺庸子編)

ビスト最優秀児童図書賞、ガーディアン賞、ウィットブレッド賞受賞作品。
毎日のように時間にに追われ、「時間が足りない」「もっと時間が欲しい」と言っている現代人は多いはず。という私もやりたいことが多すぎて、1日24 時間では到底足りない状態。しかしそれは私の場合自分の能力を超えて欲張りすぎなのが原因だと分かっていますし、「時間が足りない」というのは単なる比喩的な表現。1日はちゃんと24時間あると納得した上での発言です。まさか本当に時間がなくなっているとは、考えたこともありません。しかしこの作品の中では、本当に時間がなくなってしまうのです。まるでミヒャエル・エンデの「モモ」で、人々が灰色の男たちに時間の花を取られてしまった後の状況。「モモ」と違うのは、誰も他人の時間を盗もうなどとは考えていなかったということなのですが…。
この物語の背景にあるのは、アイルランドの伝統音楽やダンス、そしてアイルランドに古くから伝わる神話や妖精物語。物語の冒頭から音楽が流れ、人々がダンスの拍子を取るのが目に浮かぶようなのは、まるで以前読んだチャールズ・デ・リントの「リトル・カントリー」のような雰囲気。様々な曲の楽譜が入ってるので、詳しい人はもっと楽しめそうですね。そしてまさか「ティル・ナ・ノグ」まで登場しようとは、嬉しい驚きでした。時間不足に嘆く普通の世界と時間の存在していないティル・ナ・ノグの関係も面白かったですし、それぞれの住人たちがまたそれぞれの世界の雰囲気を出しています。前半こそ会話運びの拙さなど少し気になる部分もあったのですが、後半はそういったこともなく、読み終えてみれば期待以上に面白かったです。効いた解決も気持ち良いですね。これはぜひ続きも読んでみようと思います。


「プーカと最後の大王(ハイキング)」創元ブックランド(2007年2月読了)★★★★★

JJ・リディも結婚し、今では4人の子供の父親。長女のヘイゼル、11歳のジェニー、9歳のドナル、そして2歳のエイダン。しかしリディ家にとって次女のジェニーは天災のような存在でした。少し目を離しただけで家や学校から抜け出して常に薄着で野山を歩き回って過ごすジェニーに、家族全員が振り回されていたのです。特に不満を持っていたのは、JJの妻のアイスリング。JJと家事を半分ずつ分担し、いずれは療法士の仕事に戻るつもりだったというのに、ジェニーがそんな状態で、しかもJJが国内外でのコンサートに忙しくて家にあまりいられないので、今は予定もきちんと立てられないのです。アンガス・オーグがティル・ナ・ノグの木を届けてくれれば、JJが家でフィドル作りに専念できるようになるのですが…。(「THE LAST OF THE HIGH KINGS」渡辺庸子編)

「時間のない国で」の続編。JJがいきなり4児の父親になっているのには驚いたのですが、前編以上にパワーアップで面白かったです。最初は家の中のゴタゴタの話から始まります。お洒落や恋に興味を持つ年頃のヘイゼル、人に言われたことをすぐに忘れてしまうジェニー、ちょっぴり年寄りくさいドナル、破壊王・エイダン、そしてそんな4人、特にジェニーに日々振り回されるJJとアイスリング。しかしそんな家庭内の話は、自然に近隣の野山へと広がっていくのですね。隣人の老人・ミッキーは最近では足腰が弱ってほとんど出歩くこともなくなっているのに、なぜか見張り塚の上に登りたいとそのことに固執していますし、ジェニーと始終一緒にいるのはJJも会ったこともある白いヤギのプーカ。そのプーカはジェニーに見張り塚にいる幽霊と仲良くさせようと画策し、しかし自分のことは言わないようにと釘をさしています。そもそも一体何のために幽霊が見張り塚にいるのでしょう。話の半ばで第1弾の爆弾が落とされ、そのことに驚いているうちに様々な謎が気がついたらすっかり繋がり合って1つの大きな流れとなっていました。
ティル・ナ・ノグの場面はそれほど多くありませんが、それでもやはり魅力的。神話や妖精、そしてアイルランドの風土を感じさせる素敵なファンタジー作品です。

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