Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、アルフレッド・テニスンの本の感想のページです。

line
「対訳 テニスン詩集-イギリス詩人選5」岩波文庫(2007年2月読了)★★★★★お気に入り

ヴィクトリア朝を代表する桂冠詩人・アルフレッド・テニスンの詩集。アーサー王伝説に題材を取った「シャロット姫」「『国王牧歌』より」、トロイ戦争やホメロスの「オデュッセイア」に題材を取った「イノーニー」「安逸の人々」「ユリシーズ」、ギリシャ神話に題材を取った「ティソウナス」、その他「マリアナ」や「イン・メモリアル」など、テニスンの代表的な作品が収められています。(「THE POEMS OF TENNYSON」西前美巳編)

子供時代からアーサー王文学に魅了されていたテニスンは、20代の頃にアーサー王伝説に題材を取った詩を4編作り、晩年には「国王牧歌」という全12巻1万余行に及ぶ大作を作り上げたのだそうです。ここに収められているのは「シャロット姫」と、「国王牧歌」のうちの最終巻「アーサーの死」だけなのですが、それだけでもテニスンの叙情的な美しさと、叙事詩の重厚さのどちらも楽しむことができます。陰影に富んだ「シャロット姫」も素敵ですし、「国王牧歌」もいつかその全ての部分を読んでみたいもの。
「国王牧歌」に描かれているのは、傷を受けたアーサーに頼まれたベデヴィア卿が3度エクスキャリバーを捨てに行く場面と、アーサーの乗った船が去っていく場面。そして「シャロット姫」に描かれているのは、鏡を通して見る影の世界と、窓から見える現実のキャメロットの世界。布を織り続けるシャロット姫の織物の模様は、鏡に映った影の情景。キャメロットを直接見ると呪いがかかると言われているので、姫は日々鏡の中を覗き込み、そこに見える情景を布の中に織り込むのみ。しかし鏡の中に若い恋人同士を見た時、シャロット姫は影の世界にうんざりし、続いて鏡に騎士ランスロットが映った時、シャロット姫は思わず窓の方へと行ってしまうのです。そして鏡は割れ(アガサ・クリスティの「鏡は横にひび割れて」ですね)、織物は飛び散ってしまいます。この「シャロット姫」の詩には多くの画家も触発されたようで、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスやウイリアム・ホルマン・ハントなど、ラファエル前派の画家によって多く描かれています。
パリスが、トロイ戦争の原因となるヘレネーを選んだために、捨てられることになった前妻・イノーニーの嘆きの詩「イノーニー」、ロータス・イーターの島に魅せられてオデュッセウス一行の「安逸の人々」、そして打って変わったように荘重な雰囲気を見せる「ユリシーズ」などもそれぞれに良かったのですが、ここに収められている詩の中で特に印象に残ったのは、「『王女』よりソング抜粋」。「王女」という詩には、その長詩の内容とは直接関係なく11編の「ソング(抒情詩)」が挿入されているそうで、ここにはそのうち「夕べその土地を通り過ぎ」「やさしく しずかに」「夕べの光は照り映える」「かいなきなみだ」「おお燕よ、燕」「もうこれ以上きかないで」「いま深紅の花びら咲き静まる」「乙女よ、下りておいで」の8編が収められています。どれもそれほど長くはない作品なのですが、優しかったりほのぼのとしたり、美しかったり格調高かったり、様々なテニスンを楽しむことができました。

収録作品:「クラリベル」「マリアナ」「シャロット姫」「イノーニー」「安逸の人々」「ユリシーズ」「ティソウナス」「砕け、砕けよ、砕け散れ」「『王女』よりソング抜粋」「『イン・メモリアム』より」「鷲」「『モード』より」「『国王牧歌』より」「塀の割れ目に咲き出た花よ」「砂州を越えて」

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.