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このページは、グレアム・スウィフトの本の感想のページです。

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「ウォーターランド」新潮クレスト・ブックス(2009年4月読了)★★★★

妻のメアリーが引き起こした嬰児誘拐事件が地元の新聞でも騒ぎ立てられたことにより、32年間教壇に立ってきた学校をやめさせられることになった歴史教師のトム・クリック。彼は授業のカリキュラムを無視して、生徒たちに自分の生まれ育った沼沢地帯(フェンズ)のことや、自分のこと、家族のこと、先祖のことについて語り始めます。(「WATERLAND」真野泰訳)

ガーディアン小説賞、ウィニフレッド・ホルトビー記念賞受賞作品。
沼沢地帯(フェンズ)と共に語られていくのは、主人公・トム・クリックの家族とその歴史。両親のこと、「じゃがいも頭」の4歳年上の兄・ディックのこと、10代当時の恋人で今の妻でもあるメアリーのこと、そして祖先のこと。そこで語られているのは10代の赤裸々な真実。特にインパクトが強かったのは、好奇心旺盛なメアリーが主導だった10代の性のことなのですが、嬰児誘拐事件に始まる話は、殺人もあれば自殺もあり、近親相姦もあり、堕胎もありという、人間に起こりえる様々なドラマを含んだもの。大河ドラマであり、ミステリであり、サスペンスでもある作品。1人称で語られていくこともあって、まるで自叙伝を読んでいるような錯覚ですし、実際にはフィクションであるにも関わらず、「事実は小説よりも奇なり」という言葉を思い起こさずにはいられない作品です。
歴史を学ぶ意義の1つに「歴史は繰り返すものだから」というのがあると思います。人間は数え切れないほどの過ちを犯しながら生きていきますが、なるべく同じ過ちを繰り返さないためにも歴史を学んでいかなければならないのだと思います。歴史の教科書に載っているような無味乾燥なものではなく、このトム・クリックの語る生きた歴史は、彼の生徒たちの心の奥底まで浸透していくはず。そういった生きた歴史こそが、「小説」と呼ぶことができるものなのかも。そんな風に読み手の心にも迫ってくる大きなうねりを持った物語です。

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