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このページは、ゼイディー・スミスの本の感想のページです。

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「ホワイト・ティース」上下 新潮クレスト・ブックス(2009年3月読了)★★★★

1975年1月1日の朝6時。アルフレッド・アーチボルド・ジョーンズは、クリックルウッド・ブロードウェイに停めた自分の車の中に掃除機のホースで排気ガスを呼び込み、自殺を図っていました。それは覚悟の自殺。30年連れ添ったイタリア人の妻・オフィーリアに離婚されたのが原因。しかしそれは妻を愛していたからではなく、むしろ愛情がないのにこれほどにも長く妻と暮らしてきたからでした。アーチーは合わないのが分かりつつも対面を気にして我慢して暮らしていたのに、ある日妻は出ていったのです。しかしアーチーの意識が朦朧としていた時にその自殺に邪魔が入ります。フセイン=イスマイルの店のオーナー・モウ・フセイン=イスマイルが自分の店の前の配達のトラックが停まる場所に違法駐車している車を見つけたのです。(「WHITE TEETH」小竹由美子訳)

大学時代に書いた短編が話題となり、この作品の版権を巡ってロンドンの出版社が争奪戦を繰り広げたというゼイディー・スミスのデビュー作。ウィットブレッド賞処女長編小説賞、ガーディアン新人賞、英国図書賞新人賞、コモンウェルス作家賞最優秀新人賞、ジェームズ・テート・ブラック記念文学賞、W・H・スミス賞を受賞という作品です。
イギリス人アーチーの妻はジャマイカ人のクララ。2人の娘はアイリー。アーチーの第二次世界大戦来の友人のサマード・ミアー・イクバルとその妻・アルサナは、2人ともベンガル人のムスリムで、マジドとミラトという双子の息子がいます。2組の夫婦とその子供たち、2世代のアイデンティティの物語という意味ではジュンパ・ラヒリの作品群を思い出すのですが、読んでいる時の印象としてはスタインベックの「エデンの東」でしょうか。20世紀末に生きる彼らの物語は、クララの子供の頃の思い出や第二次世界大戦中の思い出からから1907年のジャマイカ大地震、一時は1857年のセポイの乱で活躍したというサマードの曽祖父・マンガル・パンデーのエピソードにまで遡ります。150年ほどの長い期間を描き上げた大河ドラマ。舞台もロンドンの下町からロシア、インド、ジャマイカまで。しかし「エデンの東」よりももっと饒舌で、しかもコミカルな部分も持った作品。人種や宗教、家族、歴史、恋愛、性など様々な事柄や出来事の細い流れが徐々に1つになり、じきに大きな流れとなり、下巻に入ってユダヤ系のインテリ家庭・チャルフェン一家が登場すると、それらがさらに怒涛のような勢いになります。
途中やや中だるみしながら読んだものの、個性的な登場人物たちが楽しげに忙しなく動き回る辺りはとても楽しめました。1作家のデビュー作品とは思えないほど大きなスケールの骨太な作品ですね。このゼイディー・スミスの父はイギリス人、母はジャマイカ人。実際にこの物語の舞台となったロンドン北西部のウィルズデンに住んでいたのだそう。ということは、アイリーこそがゼイディー・スミスが投影されている登場人物ということなのでしょうか。著者近影を見るとスリムな美人のゼイディー・スミスは、胸もお尻も腿も大きいジャマイカ系の女性というアイリーとはイメージ的にあまり重ならないですね。もちろん、アイリーだからこそ、彼女の心理描写が特に濃やかだったとも言えるのですが…。むしろその美しさでアーチーを圧倒したクララかも。

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