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このページは、マシュー・スケルトンの本の感想のページです。

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「エンデュミオンと叡智の書」新潮文庫(2008年12月読了)★★★

ブレークは、オックスフォード大学の聖ジェローム学寮のボドリアン図書館で母を待っているところ。母・ジュエリエット・ウィンタースは一学期契約の客員教授としてオックスフォードに来ており、ゲーテの「ファウスト」に関する論文を準備中。ブレークとその妹・ダックは図書館で長い時間を過ごすしかなかったのです。待ちくたびれたブレークが本棚の本を指の節で次々に叩いていると、突然1冊の本に反撃されたような気がして驚きます。本が猫のようにブレークの指をふざけてたたいて、ひょいと身を隠したように感じたのです。そこに並んでいるのは古くてもろい普通の本ばかり。しかし1冊の本が床に落ちていました。それは平凡な茶色の革装の本。母に叱られてあわてて本を拾い上げると、本はブレークの手の中でほんの少し動き、本を開くとページが僅かに揺れ動きます。その本の表紙には「エンデュミオン・スプリング」というタイトルがありました。しかし本の中には何も書かれてはいなかったのです。(「ENDYMION SPRING」大久保寛訳)

オックスフォードの図書館を舞台にしたブレークの物語と、15世紀のドイツのマインツを舞台にしたエンデュミオン・スプリングの物語が交互に進んでいきます。15世紀の物語の方は、丁度世界初の印刷物「四十二行聖書(グーテンベルク聖書)」が作られようとしている時代。活版印刷を発明したグーテンベルクやその弟子となったペーター・シェーファー、ゲーテの「ファウスト」のモデルになったとも言われるヨハン・フストなど歴史上の人物が登場します。そしてその時代の少年・エンデュミオン・スプリングの冒険が、現代のオックスフォードの図書館にいるブレークの冒険に繋がっていくのです。ブレークが見つけたエンデュミオン・スプリングの本は、選ばれた者しかそこに書かれた文字を読むことができないという不思議な本。
オックスフォード大学の図書館が舞台ですし、グーテンベルクの活版印刷や謎の本、という辺りは興味をそそるのですが、肝心の登場人物が今ひとつ魅力に欠けていたような気がします。特に現代編。ブレークの妹のダックはとても聡明でオックスフォードの教授陣を感心させるほどなのに、ブレークはあまり冴えない少年。ダックにも馬鹿にされてばかり。母親も自分のことにかまけてばかりで「行儀良くしなさい」「妹の面倒をみなさい」ばかり。その辺りがあまり楽しくなかったため、登場人物には最後まで感情移入ができませんでした。それでも歴史的な興味もあって、途中まではとても面白く読めたのですが… この最後の詰めは甘すぎるのではないでしょうか。最初に見つける「エンデュミオン・スプリング」という本、そして伝説の「最後の書」は結局一体何だったというのでしょう。その辺りが作りこみ不足という印象で、とても残念です。

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