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このページは、シェリーの本の感想のページです。

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「縛を解かれたプロミーシュース」岩波文庫(2009年4月読了)★★★

人間に火をもたらしたことによってジュピターの怒りを買ったプロミーシュースは、インド・コーカサスの氷の岩の峡谷に縛り付けられたまま、昼間はハゲワシに肝臓を啄ばまれ、夜になるとその肝臓は自然に再生されるという状態で3000年を過ごすことに。(「PROMETHEUS UNBOUND」石川重俊訳)

アイスキュロスのギリシャ悲劇「縛られたプロメテウス」を読み、影響を受け、プロメテウス礼賛者となった詩人・シェリーの書いた詩劇。上演されることではなく、読まれることを目的に書かれている脚本形式の作品をレーゼドラマ(クローゼットドラマ・書斎劇)と言うのだそうで、これもその1つ。アイスキュロスの「縛られたプロメテウス」は3部作の1作目であり、しかし続く2作が既に失われてしまったため、プロメテウスがどのようにしてゼウスと和解することになるはずだったのかは今となっては不明です。ゼウスに謝るよう説得するため神々が次々にプロメテウスのもとを訪れるものの、ゼウスは予言知りたさで自分を許すはずだとプロメテウスが強気に考えているところまでで終わってしまっています。
そしてシェリー自身の「序」を読むと、シェリーがこの失われた悲劇をそのまま作り直そうとこの作品に取り掛かったのではないことが良く分かります。プロメテウスとジュピターの和解という結末を好まなかったシェリー自身が作り上げたのは、またまるで違う物語。こちらのプロメテウスはジュピター相手に取引などしません。1章が始まった時、日々の苦しみに苛まれつつも、既にジュピターを恨んでいないどころか、かつて自分が口にした呪いの言葉も後悔しています。逆に、近い将来おとずれる自分の破滅を知らないジュピターを哀れんでいるほど。シェリーは権力や支配、暴力を否定しており、暴虐的な支配はいつか自らの暴虐によって自滅するという信念を持っていたのだそうです。憎悪や敵意から解き放たれた時、人は初めて真の平和を得ることができる、とという考え。ジュピターはキリストの磔刑やフランス革命の場面をプロメテウスに見せ付け、その過ちに気づかせようとするのですが、プロメテウスは人間に対する信頼や希望を持ち続けます。そしてジュピターの暴力的な支配に屈しないどころか、ジュピターを愛することによって、解き放たれることになるのです。とてもキリスト教的な物語。自らの暴虐に自滅するゼウスの姿は、万能の神ではなく、人間の世界の支配者のようです。
面白いかといえば、正直あまり面白いとは思えなかったのですが、こういったキリスト教観が組み込まれたギリシャ悲劇という意味でも一見の価値があると思いますし、ロマン派詩人としてのシェリーの表現の夢のような美しさなど、部分的にはとても惹かれるもののある作品ではありました。

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