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このページは、キャサリン・ロバーツの本の感想のページです。

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「ライアルと5つの魔法の歌」サンマーク出版(2007年5月読了)★★★

風も波も土地も、全てのものが音楽でコントロールされている世界。歌使いになるための訓練が行われているこだまの島では、少し前から続いている嵐のために難破した本土の船の破片を探すために、グライアに連れられて年長の生徒たちが浜辺へと出てきていました。絶え間ない頭痛に悩まされていたライアルもその1人。そしてライアルの耳に聞こえてきたのは、嵐の海のように抑えようとしても抑えられない、荒々しく、今まで一度も聞いたことがないような歌でした。奇妙な船がやってきて、子供たちが食われてしまうという歌詞の恐怖に、ライアルは思わず悲鳴を上げます。それは半人のマーリーの歌声。周囲の生徒たちには全く聞こえず、ライアルだけがそれを聞いたのです。それがきっかけとなり、ライアルは歌使いたちの長老・エリヤの言いつけで、副長老のトハロと共に波の歌号で本土へと向かうことになります。船が無事に本土に渡れるよう、マーリーに歌いかけなければならないのです。一方、日頃からライアルを敵視し、上の者たちが自分の能力を軽視していると考えていたケロンは、洞窟の中で難破した船に乗っていた水夫のカッジを見つけており、カッジを助けてこっそり本土へと渡ろうと考えていました。(「SONG QUEST」吉田利子訳)

すぐれた児童文学に与えられるというブランフォード・ボウズ賞を受賞した作品。
エコリウムの5つの歌という、5種類の言葉のない歌の支配する世界。この世界の歌使いたちは時と場合に応じて夢の歌チャラ、笑いの歌カシュ、苦しみの歌シー、恐怖の歌アウシャン、死の歌イェーンを歌い、聴いた者の記憶や感情をコントロールするというのです。「遠聴」や「遠話」という、遠くの音を聞いたり遠くに自分の声を届かせる術や、声やしぐさで真実を見分ける「真聴」という術もあります。歌が力を持つという設定は他にもあるのだろうと思いますが、この設定はとても魅力的ですね。ただ、巻頭に「「歌使い」たちの世界へのガイド」として、登場人物や語句に関する説明があるのですが、これらは本来物語の中で説明されてしかるべきもの。まるで分からない世界の物語なので、実際にはこのページがあって助かったのですが、それは本文中の説明が不足しているからだとしか思えません。説明が長くなってしまうのは分かるのですが、異世界を描く時には、もっと丁寧に描写して欲しいです。
中には残酷な場面もあり、その辺りは正直好きではないのですが、マーリー(人魚)やケツァル(鳥人)といった半人たちを交えた物語自体は、なかなか面白いです。しかし主人公のはずのライアルよりもケロンの方が印象が強いような… まるでケロンの成長物語のようでした。


「バビロン・ゲーム-世界七不思議ファンタジー」集英社(2007年10月読了)★★★

紀元前6世紀、ナボニドス王時代のバビロン。ティアマットは、ユダヤ人の友達・シミオンを連れて夜の王宮へと向かっていました。シミオンはアンダリ師の率いるトゥエンンティ・スクエア・チームのメンバー。ティアマットはどうしてもチームに入りたくて、それには親友のシミオンの助けが欠かせないため、その理由を見せに王宮に連れて行くことにしたのです。王宮の王妃の庭は、養母のナナメ女史の香油屋の手助けで香草を集めにティアマットがよく来る場所。ティアマットは何年も前にここで古い印章を見つけており、そこに描かれている聖なる竜、シルシュの姿を最近実際に見かけていました。シルシュたちは夜の間だけインナーシティの二重の城壁に放され、そして飢死しかけていたのです。ティアマットはそのために残飯を用意してきており、現れたシルシュにざくろを差し出します。しかしシルシュがティアマットの指をなめ、舌がざくろに近づいた時、2人はペルシャ軍の襲来を警戒していたナボニドス王の軍隊に捕まってしまうのです。(「THE BABYLON GAME-THE SEVEN FABULOUS WONDERS」米山裕子訳)

古代バビロンを舞台にした、少女たちの冒険物語なのですが、結局最後まで話に入れませんでした。まず残念だったのは、まずトゥエンティ・スクエアというゲームのことが良く分からなかったこと。巻頭に古代都市バビロンの全景図や、地図、用語解説がついており、そこにゲームの説明もあります。実際にバビロンで行われ、人気があったというボードゲーム。しかしバックギャモンにルールが似ていると説明されても、バックギャモン自体が日本にはそれほど馴染みのないゲームです。このゲームそのものが物語の中心というわけではないのですが、かなり重要な役回りをしているので、やはりもう少し説明が欲しかったところ。
主人公のティアはシルシュを助けたいと願い、やがてシルシュと心を通わせることになり、それが元で大きな事件に巻き込まれることになるのですが、そのそもそもの原点である「シルシュを助けたい」と思ったという気持ちにも根拠が足りなかったように思います。シミオンはティアに向かって「まったく動物好きにもほどがあるよ! 犬や豚にえさをやるならまだしも…」と言いますし、実際ティアは日頃から近所のマスチフ犬を可愛がっているようなのですが、これだけでシルシュを助けるために王宮に忍び込む危険を冒し、しかも毒があると言われるシルシュを助ける理由になるのでしょうか。マスチフ犬が実際に登場する場面では、ティアはその犬を無視しているのです。猪突猛進で、思い込んだらそこに向かって真っ直ぐに突き進んでしまうティアなので、一度シルシュと心を通わせてしまえば、その後の行動は理解できるのですが。
それでも古代世界の七不思議をそれぞれテーマに取り上げて、7作品を書くという試みはとても面白いですね。ちなみに七不思議とは、エジプトのピラミッド、バビロンの空中庭園、オリンピュアのゼウス像、ハリカルナッソスのマウソロス霊廟、エフェソスのアルテミス神殿、アレクサンドリアの灯台、そしてロードス島の巨像。今の時点では、七不思議2作目の「セヌとレッドのピラミッド」が刊行されているようです。

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