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このページは、フィリップ・リーヴの本の感想のページです。

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「アーサー王ここに眠る」創元ブックランド(2009年6月読了)★★★★

紀元500年頃。ブリテン島南部で、アーサーことアルトリアス・マグナスの軍勢が、バン卿の領地に攻め込みます。アーサーはバン卿の保護と引き換えに多大な貢物を要求したのですが、バン卿はその申し出を拒否したのです。館には火がかけられ、男たちの怒号や馬蹄の音が響き渡っていました。命からがら館から飛び出した下働きの孤児の少女・グウィナは、剣を振りかざした若者から逃げるために川に飛び込み、下流に向かって泳ぎながら逃げ、冷え切った体で陸に上がり、失神。そこに現れたのは、アーサーに仕える吟遊詩人・ミルディンでした。ミルディンはグウィナを近くの小屋に運びこみます。「HERE LIES ARTHUR」井辻朱美訳)

真実のアーサー王の言動をその目に見ながら、物語や伝説が生まれていくところも同時に見ることができるという楽しさのある作品です。アーサーが何をしようとも、どんな人物であろうとも、吟遊詩人であるミルディンが作り上げた単純ですっきりした、それでいて魅力的なエピソードの数々によって、人々はアーサーを好きになってしまうのです。日頃生身のアーサー王を見ている人ですら、それらの物語が本当は真実とは少しずれたものだと分かっているはずなのに、その物語を真実の上にかぶせてしまいます。それは、「人は自分が見えると思うものだけを見て、信じるように言われたことだけを信じる」というミルディンの言葉通り。そして「おれはあいつの名声をいい健康状態に保ってやってる語り部の医者ってとこだな」という言葉通り。アーサーの生い立ちのことも、エクスカリバーのことも、湖の貴婦人のことも、例えば緑の騎士のことも、大抵はミルディンがお膳立てをした出来事だったり、ミルディンが作りあげた物語なのですが、ミルディンがほんの少し細工をするだけで、あとは人々が作り上げていってくれるのです。実際のアーサーは粗野で乱暴な男であり、グウェニファーもそれほど若くも美しくもなかったのに、人々の記憶の中のアーサーは気高く聡明で勇敢な王者であり、グウェニファーは若く美しい貴婦人となってしまうのですね。こういったミルディンの「手品」が非常に面白く、ワクワクさせてくれる部分。物語とはこのようにして作られ、語り継がれ、そして伝説になっていくのだということを目の当たりにできて、しかもその裏側をこっそりと覗き見ているという感覚がいいですね。まるで自分もこの作品に参加して、裏側から真実を物語に変えるのに一役買っているような気がしてきてしまいます。
この作品の「アーサー王、ここに眠る」というのは、アーサー王の墓碑銘「HIC IACET ARTHURUS, REX QUONDAM, REX FUTURUS(ここにアーサー王眠る。かつての王にして来るべき王)」からとられた題名です。

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