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このページは、イーデン・フィルポッツの本の感想のページです。

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「ラベンダー・ドラゴン」ハヤカワ文庫FT(2006年5月読了)★★

暗黒時代のほぼ中頃。まだ若いポメロイのジャスパー卿は、従者であるジョージ・ピプキンを連れて初めての巡礼の旅の途上。騎士としての勇気を試す機会にあまり恵まれないまま、平穏な旅を終えようとしていたジャスパー卿ですが、沼地のポングリイの外れに着いた時、50人ほどの住人たちに歓迎されることに。ポングリイの村長・ジェイコブ・プラットによると、ここ数年来、この村から何人もの村人がラベンダー・ドラゴンによって連れ去られ、つい1週間ほど前にも村で一番美しく気品もある娘・リリアン・ラブノットが攫われたところだというのです。このラベンダー・ドラゴンは知能が高く、未亡人や寡夫、そしてみなし児を好んで攫い、リリアン・ラブノットもまた既に両親のいない身の上でした。話を聞いたジャスパー卿はその晩は村で泊まり、翌朝、ラベンダー・ドラゴンが好んで出没するというブロアの森に近いレッド・ロックの谷間へと向かうことに。(「THE LAVENDER DRAGON」安田均訳)

「赤毛のレドメイン家」や「闇からの手」などのミステリ作品で有名なフィルポッツのファンタジー。日本ではミステリのイメージが強いですが、本国イギリスでは小説や詩・戯曲など250冊以上を書いた英国文壇の最長老という存在だったのだそうです。
この物語はドラゴンの出てくる物語ですが、そのドラゴンが見た目にも美しく、行く先々にはラベンダーの芳香が漂い、話す言葉も綺麗な発音で知識と教養の持ち主だという、なかなか珍しいタイプのドラゴン。そんなラベンダー・ドラゴンが作ったのは、ユートピアとも言えるような村。未亡人や寡夫、そしてみなし児を好んで攫っていたというのにも、立派な理由があったのです。
ジャスパー卿の視点で物語が進んでいる間は、中世の騎士の冒険物語。面白く読んでいたのですが、ラベンダー・ドラゴンが中心となった途端、話が思想的になってしまうのが難点ですね。ラベンダー・ドラゴンが自分の国に誇りを持っているのはいいのですが、しばしば過去の偉人や有名人を引き合いに出して教訓的な話を物語り、すっかり教訓じみてしまいました。この作品は、当時の英国に対する政治的な批判だったのかもしれませんね。ラベンダー・ドラゴンの作った国は共産主義的な印象が強いですし、しかも最後は共産党のカリスマ的なリーダーを失うことによって国が瓦解することに。これではファンタジーとはかけ離れてしまいますね。

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