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このページは、メアリー・ノートンの本の感想のページです。

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「空とぶベッドと魔法のほうき」岩波少年文庫(2005年5月再読)★★★★★
夏休みにベドフォード州のおばさんのところへ預けられたケアリイ、チャールズ、そして6歳のポール。ある朝、きのこ取りに行くために夜明け前に起き出した3人は、おばさんの庭にプライスさんが足をくじいて座り込んでいるのを見つけます。いつもはお淑やかなプライスさんの上着とスカートは裂けてぼろぼろ、髪の毛はくしゃくしゃ。プライスさんは、なんとほうきに乗って飛ぶ練習をしていて落ちたのです。夜毎プライスさんの飛ぶ姿を見ていたポールの言葉に、プライスさんは大慌て。翌日、お見舞いに訪れた3人を口止めするために、プライスさんはポールの持っていたベッド・ノブに魔法をかけることになります。それはベッドの柱に半分はめたこのノブを少し捻って願えば、ベッドは3人を望む場所に連れて行ってくれるという魔法。しかしプライスさんの魔法のことを一言でも口にしたら、その時は魔法は消えてしまうというのです。(「BED-KNOB AND BROOMSTICK」猪熊葉子訳)

「魔法のベッド南の島へ」「魔法のベッド過去の国へ」という2つの物語が収められています。「過去の国へ」は、「南の島へ」の2年後の物語。
あるきっかけで「魔法」を手に入れた子供たちが旅をするという設定は、まるでヒルダ・ルイスの「とぶ船」のようです。しかし「とぶ船」が、その題名の通り船に乗って冒険をするのに対し、こちらはベッド。ノブ(ベッドの柱についている玉の飾り)を捻るだけで、望みの場所に連れていってくれるというのがアイディアですね。実際には船の方がロマンティックだと思いますし、北欧神話が根底にある「とぶ船」にはとても良く合っていると思うのですが、こちらの方が魔法が身近に日常的に感じられます。そしてこの物語に登場する魔女は、子供たちのおばさんの家の近所に住んでいるプライスさん。日頃はピアノを教えているお淑やかなレディ。「だれでも、きっとプライスさんみたいな人をしってると思います」と書かれているように、どこにでもいるような普通の女性なのです。日常的な魔法を使う日常的な魔女。そう考えると、構造は似ていても「とぶ船」とは全く違う物語であることが良くわかります。
読み始めた頃はトラヴァースのメアリー・ポピンズを彷彿とさせたプライスさんですが、まだまだ発展途上中の魔女なので、魔法もメアリー・ポピンズのようには上手くいきません。子供たちだけでの最初の冒険は散々な結果に終わりますし、願い通り南の島へ行くことができても、最後には騒動に巻き込まれることになります。さすが日常の延長上の魔法。どこまでも庶民的で身近な雰囲気です。そして物語の中で起きる様々な出来事が、プライスさんの魔法に対する考え方を徐々に変えていくのが、またとても興味深いところですね。この物語で登場するのは、生まれながらの絶対的な「魔女」ではなく、才能があるからそれを生かすために勉強している、例えばピアニストやダンサーと同列線上に存在する「魔女」。こういう魔女の造形は、この物語が書かれた頃は相当珍しかったのではないでしょうか。プライスさんが出来合いを買ったという魔法の小道具のエピソードなども、昔ながらの魔女の物語にはない描写でとても面白かったです。
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