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このページは、ブレイク・モリソンの本の感想のページです。

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「あなたが最後に父親と会ったのは?」新潮クレスト・ブックス(2007年9月読了)★★★★★

ヨークシャーの田舎で開業医をしていた父は、チャンスさえあれば、ちょっとしたズルやイカサマをするのが大好きで、お金と時間を節約しようとするような俗物。時には鬱陶しい思いをしたり、怒りを感じたりもしたものの、その父が末期癌であることが分かり、「僕」は思いがけないショックを受けます。死に行く父を見つめながら、父との思い出を語るエッセイです。(「AND WHEN DID YOU LAST SEE YOUR FATHER?」中野恵津子訳)

読む前は、癌の闘病記のようなものを予想していたのですが、その実態は父と子の回顧録でした。父親のケチでズルいところ、息子に負けたがらないところ、息子の人生に口出ししたがるところを苦々しく思っていたこと、そんな父親から逃れるために、父親がまるで興味を持っていないサッカーをやり、聖歌隊に入り、医者にはならずに文科系に進んだ自分のことを思い出す「僕」。そこから浮かび上がってくるのは、どうしようもない俗物のように見えても、根は憎めない人間である父の姿。お互いの女性関係のことまで洗いざらい、乾いた文章で苦笑い交じりに書かれている感じなので、とても読みやすいです。しかし訳者あとがきによると、これは最初から本にするために書かれた文章ではなく、予想以上に衝撃を受けている自分自身のセラピーのために書かれた日記やメモだったのだそう。簡単には受けとめられない大きな衝撃を、文章を書くことによって少しずつ受けとめ、昇華させていったのでしょうね。子供の頃の精力的な父と、病床にいる今の父の対比。例えば、かつてならば絶対に逃したはずのない「卑猥な冗談を飛ばすチャンス」をみすみす逃してしまう父。50歳を過ぎて水上スキーを始め、引退してから住むために今の家を自分で建てたような、かつての健康的だった父の姿はそこにはありません。今の状態の父を見ていられずに、そろそろ逝って欲しいとさえ考えてしまう「僕」。それらの文章から、「僕」の受けている衝撃の大きさが感じられます。
作品途中でアンジェラ・カーターの名前が登場するのが、嬉しいハプニングでした。しかしアンジェラ・カーターも癌だったのですね。

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