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このページは、ホープ・マーリーズの本の感想のページです。

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「霧の都」ハヤカワ文庫FT(2006年11月読了)★★★★

ドリメア自由国は豊かな平野と2筋の川とを持ち、南には海、北と東には山並み、そして西には妖精の国と接しているという国。しかし何百年も前、この国を支配していたオーブリ公爵から、商人階級が革命によって全ての行政権や立法権を奪ってからというもの、妖精の国との交流はすっかり途絶え、魔法や空想の類に関すること、そして「妖精」という言葉は、ドリメア国では禁句とされていました。そのドリメア国の首都は、霧のラッドと呼ばれる古い町。その町で一番立派な屋敷に住んでいるのは、市長でもあるナサニエル・チャンティクリア判事一家。傍目には幸せそのものに見えるチャンティクリア家ですが、判事の長男・ラナルフがパーティの席上で妄想混ざりの発言をし、その後父親に妖精国の「魔法の果実」を食べたと告白したことから、大騒ぎになります。(「LUD-IN-THE-MIST」船木裕訳)

解説によれば、作者はトールキンやC.S.ルイスと同時期にオックスフォード大学に教授として在籍していた、アイルランド系英国人の女性とのこと。道理で物語全体がとてもケルト風の雰囲気ですね。ケルトの妖精たちが、善とも悪とも一概に言えない存在であるように、この作品はファンタジー作品として、白とも黒ともつかない灰色の部分を残している作品のように感じられます。しかし妖精の存在を常に感じさせ続けるような舞台設定にも関わらず、逆に妖精そのものはなかなか登場しないのです。その辺りが独特で、面白いところですね。しかも、登場人物たちが妖精の国の存在を頭から排除し、妖精にまつわる言葉や妖精を彷彿とさせる言葉は禁句となっているはずなのに、「太陽と月と星に誓って」「西の国の黄金の林檎に誓って」といった、どう考えても妖精の国の影響を感じずにはいられない決まり文句が頻繁に飛び出すところがとてもユニーク。
この作品は、知名度としてはやや劣るものの、ロード・ダンセイニの「エルフランドの王女」やデヴィッド・リンゼイの「アルクトゥールスへの旅」、E.R.エディスンの「邪龍ウロボロス」といった作品と肩を並べるハイ・ファンタジーの傑作とのこと。確かになかなか面白かったです。しかしこの作品は単なるファンタジーではなく、ミステリ作品でもあるのですね。中盤以降、チャンティクリア判事が過去の殺人事件の調査に関わることになると物語の展開は俄然ミステリ的になります。その辺りの犯人探しも楽しく読ませてくれました。しかしそれでもやはりファンタジーであり続けている作品。白黒はっきりつけるミステリと、曖昧さを残すファンタジーとの融合具合がとても面白い作品でした。

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