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このページは、A.A.ミルンの本の感想のページです。

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「赤い館の秘密」創元推理文庫(2003年10月読了)★★★★
気だるい夏の昼下がり。赤い館の主人・マーク・アブレットを、兄のロバートが訪ねてきます。ロバートが家族の面汚しとしてオーストラリア追いやられて以来、実に15年ぶりの兄弟の対面。マークの家の女中たちですら、マークに兄がいることを知りませんでした。しかし女中のオードリーがロバートを屋敷の事務室に案内した後、一発の銃声が鳴り響きます。事務所には鍵がかかっており、その中にはロバートの死体が。しかし女中のエルジーが、部屋の中のロバートとマークの会話を耳にしていたにも関わらず、肝心のマークの姿はどこにもなく…。その時丁度赤い館を訪ねてきたアントニー・ギリンガムは、友人のビル・ベヴリーをワトソン役に、事件のことを調べ始めます。(「THE RED HOUSE MYSTERY」大西尹明訳)

「クマのプーさん」で知られるA.A.ミルンの唯一の長編ミステリ作品。
同じ部屋にいた2人の男性のうち、1人の死体が見つかれば、姿を消したもう1人を疑うのが普通。しかしこの作品では、探偵役のギリンガムは早い時点で別の犯人像を考え始めており、読者も無駄な推理に引き回されずに済みます。トリックに関しては、ミルン自身が「はしがき」に「読者でも犯人をつきとめられる、という気を起さすように書いておかなければいけない」と書いているように、これはごくフェアと言えるでしょう。実際、それ以外の方法はないだろうという感じです。
ミルン自身、かなりのホームズファンなのでしょうね。ギリンガムとベヴリーの2人の言動には始終ホームズとワトソンが引き合いに出されます。しかしギリンガムがホームズで、ベヴリーがワトソンという役回りなのですが、ベヴリーが意外と有能。この2人の息の合った行動、特に書斎や池での探索はワクワクさせてくれますし、ほのぼのとした楽しい会話もとても楽しく読めました。しかも単なる素人探偵だと思っていると、時々思いがけない鋭さを見せてくれます。特に「壁にかざす翳」の場面には驚かされました。
「はしがき」に書かれたミルン自身の推理小説観も一読の価値があります。当時中心となっていた推理小説の姿も垣間見えてきて、興味深いですね。

「ユーラリア国騒動記」ハヤカワ文庫FT(2006年1月読了)★★★
ユーラリア王国のメリウィッグ王が、城の屋上でヒヤシンス王女と朝食を食べていると、そこに突然風が吹きぬけ、何かが王と太陽の間を通り過ぎます。たちまちのうちに元の静けさに戻るのですが、今度は反対側から風が起こり、太陽が再びさえぎられます。それは隣国バローディアの王でした。バローディア王は誕生日祝いに魔法の<七里靴>を贈られ、その日の朝から、朝食前に300マイルほどの道を10回歩くという運動を始めていたのです。王はバローディア国王に抗議文を送ると王女に約束して席を立つのですが、王女が1人になってからも18回も通り過ぎたという話を聞き、実力行使に出ることに。翌朝、城の屋上に射手たちを集め、誰の矢が一番上空まで飛ぶか見たいという名目でバローディア王を射させたのです。1人の射手の矢がバローディア王の髯に当たり、バローディア王は激怒します。(「ONCE ON A TIME」相沢次子訳)

メリウィッグ王がバローディア王との戦争で留守の間に、ヒヤシンス王女とベルベイン伯爵夫人が対立し、そこに応援のために呼ばれたアラビイ国のユードー王子が、さらに事態を引っかき回すというコミカルファンタジー。第一次大戦中に、ミルンが妻のダフネのいる既婚夫人の隊のために書いた劇が元になっているそうで、どうやらメリウィッグ王はミルン自身、ベルベイン伯爵夫人はミルンの妻のダフネのようです。
この作品の良いところは、メリウィッグ王やヒヤシンス王女といった良い側の人間も、悪役のはずのベルベイン伯爵夫人もバローディア国王も同様に抜けていて、その抜け方に愛嬌があるところなのでしょうね。アラビイ国のユードー王子も同様。そもそもユーラリアとバローディアの戦争が始まる理由もナンセンスですし、その終わり方も同様。そして戦争中、国を守っているヒヤシンス王女とベルベイン伯爵夫人の丁々発止のやり取りも、あまりに可愛らしいのです。世間知らずのヒヤシンス王女は、何事につけてすっかりベルベイン伯爵夫人の手玉に取られてしまうのですが、そのバルベイン伯爵夫人がやっていることもかなり抜けています。むしろ、最後にやって来て良い所取りをするコロネルが異質に感じられてしまうほどです。ミルンによると、これは大人2人のために書かれた大人のおとぎ話だそうですが、「むかしむかしあるところに」で始まり、「そしてみんなは幸せに暮らしました」がぴったりするような、可愛らしいファンタジー作品。どちらかといえば児童書のレーベルに相応しいのではないでしょうか。
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