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このページは、パトリック・マグラアの本の感想のページです。

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「スパイダー」ハヤカワepi文庫(2006年5月読了)★★
ロンドンのイーストエンドでウィルキンソン夫人の切り盛りする下宿の屋根裏部屋に住んでいるスパイダーことデニス・クレッグは、甦った過去の思い出が目の前の光景に重なるような感覚に混乱し、日記をつけ始めることにします。それはスパイダーの子供の頃の物語。その頃のスパイダーは、鉛管工をしていた怒りっぽい父と優しい母との3人でキッチナー通りの家に暮らしていました。しかしスパイダーが12歳の時、父はあばずれのヒルダ・ウィルキンソンと出会ってしまったのです。父はヒルダに夢中になり、2人は共謀して母を殺し、ヒルダはスパイダーの家に入り込みます。ヒルダは母と同じ化粧品を使い、母と同じ服を着て、我が物顔に家の中に居座ることに。(「SPIDER」富永和子訳)

解説によると、物語分析には「信頼できない語り手」という言葉があるそうです。この物語の主人公・スパイダーは、まさにその「信頼できない語り手」。何も予備知識を持っていない読者は、当然1人称の主人公の言うことを信じて読み進めることになるのですが、どこかの時点で、その認識が覆されるわけですね。そしてこの物語でも、最初は正常だと思っていた主人公の精神状態が、もしかしたら少しおかしいのではないかと薄々感づくことになります。そして一旦それに気づいてしまうと、どこからどこまでが本当の物語なのかさっぱり分からなくなってしまうのです。本当に殺人事件はあったのか、あったとすれば本当は誰が殺したのか。誰が殺されたのか。そんなミステリ的作品ではありますが、むしろサイコホラーといった方が相応しいでしょうか。しかし作者の意図したところは理解していると思うのですが、私自身、叙述トリックもサイコホラーも苦手なこともあって、正直少々読みづらかったです。主人公の狂気も、あまり楽しめませんでした。
「信頼できない語り手」に有名な某古典ミステリが挙げられているのは、確かにその通りだと思うのですが、カズオ・イシグロの「日の名残り」も挙げられていたのには驚きました。しかし言われてみれば、確かにその通りですね。あの作品の主人公は、常にさりげなく事実を脚色していそうです。
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